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転移って憧れるよね?

 



「ふぁ......ねみ......」


 その夜、河瀬は起きていた。早めに寝たのが関係したのか夜中に起きてしまい、尿意を催したのだ。


「えーと、なんか草むらないかな......」


 トイレはないか?と聞き、教えてもらったがかなり臭かった。なので外に出て草むらに入ってそこで用を足すつもりだった。


「お、あったあった。」


 そして、中庭のいい感じの茂みを発見。尿を放射する。


 次の瞬間、


 ドォォォォォン!


 という轟音と共に、火の手が上がった。


「うぉっ......」


 彼は尿を済ませ、爆音の響いた方向を見る。


 そこでは断続的に起きる爆発と、「華座理ぃぃぃぃぃぃ!」という離れていても聞こえる叫びがあった。


(そういや華座理元気にしてっかなー)


 彼は今まで華座理のことを忘れていた。そんなことより眠かったのだ。


(......よし、見てくるか)


 そのまま彼はベルトを締めて、爆音の響いた方へ向かった。






「華座理ィィィィィィ!」

「こいつ......!?」

「隊長、お下がりください!」


 叫びながら暴れるのは体育教師山沢。彼はとにかく暴れ回っていた。


(華座理、何処だ、何処だ!返事をしろ!)

「ウォォォォォォォォ!」


 そう叫んで体を振り回す山沢。彼が拳を当てるとそこから爆炎が噴き上がる。


 これこそが山沢のスキル『殴爆』だった。彼は力を貯める=爆発威力の世界に生きているのだ。そしてその爆発の影響を山沢は受けない。


 またも床から爆炎が吹き荒れる。そこから出てくる全裸の山沢。別に本人が影響受けないからといって服も受けないと思ったら大間違いだ。


「かぁざぁりぃぃぃぃぃぃぃい!」






「んー......?」


 何か自分を呼ぶ声が聞こえた気がする。そう思った華座理は耳を澄ませる。


 本来この地下牢はとても分厚い壁に覆われており、何か聞くことなどで気はしない。しかし、そんな壁を越すほどに山沢の声はデカかった。


「んー......」


 しかし華座理にとって山沢の叫びは自分の名前を言っているだけに過ぎない。そこから救援と思うことも不快感や悍ましさを感じることはないのだ。


「華座理ぃぃぃぃぃぃぃぃ......」


 外からは山沢の声が聞こえる。そして、決定的な言葉を聞く。


「檻から出ろぉぉぉぉぉ!華座理ぃぃぃぃ......」

(......私って、檻から出ればいいのかな?)


 現在の華座理は目標を自分で設定しなくなっている。それ故に檻から出ることもなかったのだが———


「うん、出よう。」


 かくして、華座理は脱獄する。そのためにまずは檻を破壊する。


 華座理の『再演』は見たことのある状況の結果のみの再現だ。だがそれはストック制である。その数は2。


 ①黒板をも持ち上げる怪力

 ②机の脚で行われた貫通


 この場合、使えるのは②だ。華座理は檻に『貫通』を意識しつつ———


「おい!そこで何をやっている!?」


 しかし、看守がそれを見逃すはずがない。看守は華座理を止める。


 華座理はそちらを向く。自分の脱獄の妨害者に華座理は指を向け、


「ぺけっ」


 そのまま脳天を貫いた。


 そして華座理は当初の目標である檻を破壊する。


「えーと、この後はどうすればいいんだっけ?」


 しかし、その後のことについては命令されていないのでわからなかった。






「うわー、やっば。色々燃えてんじゃん?」


 爆音の響く方向に近づいた河瀬は感想を簡潔ながら言う。


「華座理ィィィィィィ!」

「ウッセー、頭に響くわ!」


 山沢の言葉に対する感想はこれ。実際かなりうるさい。


「てか山沢先生全裸じゃん。変態趣味?」


 少なくとも女子高生に恋してそのためならば教都を破壊する全裸は変態と言ってもいいのでは無いだろうか。


「てか華座理は何処だー?」


 こういうものでは高塔に監禁されているものだが、と思い河瀬は上を見上げる。


「ん......?」


 炎で照らされた空には、蝙蝠の翼を持った人影がいた。




(くそッ、夜闇に乗じて新しい魔王様を回収しようと思ったのに......!)


 空を飛ぶ魔族は思う、誰がこんなことやったのだと。


 元々は人々の中に現れる邪神に見定められしもの———すなわち新しい魔王を連れ去る予定だった。


 彼らは魔王に仕えているわけではない、邪神に、そして原初の魔王に仕えているのだ。魔王はある力の持ち主であるため従っているのみ。


 よって魔王が何度代替わりしようとも魔族にとっては特に意味はない。だが旗は必要だし、邪神が作るのならば回収するのだ。


 しかし、今回の魔王の出現は少々位置が悪かった。国の真ん中にて出現した魔王はそのまま拘束されてしまう。


 だが、その程度ならばどうということはない。人間たちは自分達の中から魔王が生まれるとは知らず、ただ魔族によって異端が連れ去られているということだけを知っていた。よって、異端とされている魔王の警戒は薄いのである。


(ぐぅ......!あのような愚物が前回の魔王であったが故に......!)


 今回の時の教国への進行の際、魔王は魔族の大半を連れていた。魔王の代替わりを流しているのは上層部だけであり、下々のものは魔王を心棒していた。


 加えて魔王が強かったのも災いした。『異形化』の力を持つ今代の魔王は彼以外の上層部を虐殺。彼が殺されなかったのは床下に隠れていたためである、今代の魔王は頭が弱かったので気づかなかった。


 よって魔王敗北の際に彼以外の残っていた魔族が後追いし、残るは彼のみとなってしまった。


 手勢のない彼はどうにかして誘拐しようと思うのだが、


「おい!アレ、魔族じゃないか!?」


 ここで彼は見つかる。山沢の爆発で警戒度が高くなっているからだ。


 彼は魔力を噴出する。魔王がいなければ魔族を増やすことはできない、よって魔王を連れ帰らなければことだ。


(魔王がいるのは......あそこか!)


 そして、彼は地下牢の前でボーッとする魔王を感知する。魔族は近ければ魔王を感知できるのだ。


(うおおおおおお!)


 そして彼は向かう。




「ん......?」

「はぁ......はぁ......お迎えに上がりました、魔王様。」


 華座理は目の前に現れた青髪の蝙蝠羽根の青年を見る。


「まおうさま......?」

「ええ、貴女様こそ我ら......いえ、私が求める魔王様にございます!どうか、私と共に来ていただく!」


 魔族は知っている。異端と認定されている魔王は大抵人間が嫌いだ。何故なら異端というだけで多くの人間から嫌われている。そして、彼ら彼女らは一様に自棄になっているのだ。


「崇高たる魔王様にこのようなことをなさる人間など要りませぬ!どうか、我らと共に———」

「わかりました」

「人間、どもを......?」


 しかし、ここまで早く魔王———華座理が受け入れるとは思わなかったのだ。


 現在の華座理は指示待ち人間のような状態である。よって命令が降ればそれをすんなりと受け入れるのだ。


「お......おお!そうですか!それではしばしお待ちを。今、転移陣をお開き———」

「華座理ィィィィィィ!」


 魔族は魔道具を使いダンジョンに通じる転移陣を開こうとする。しかしそこに邪魔者が現れる。


「ガ......!に、人間......!」


 そこに現れたのは山沢。炎の中から現れた全裸の彼は、近くにいた魔族の腹を殴り、爆砕。血走った目で華座理を見る。


「かぁざぁりぃ......」

「......」


 華座理は動かない。彼女は魔族が転移陣を開くのを待っているのだ。


「人......げ、ん......!」


 上半身のみの魔族は人間を見つめる。何故か全裸の人間は魔王に近づく。


(今は引かねば......!)


 魔族は力を振り絞り、転移陣を開く。そして魔族は這いずりながら陣の中に入った。


「......」


 それを見て華座理は動く、転移陣に行くために。


「まぁてぇぇぇぇ!華ァァ座ァァ理ィィィィィィ!」


 しかしそれを妨害する山沢。彼は華座理に近づき抱きしめようとする。


「......邪魔」


 華座理は『魔族と共に転移陣の中に入る』という目的を達成するための障害の山沢を排除するべく、その首に手を向ける。そのまま手刀の形にして———


「な......?」


 一閃。貫通を連続発動することによって山沢の首を切り裂いた。


 そのまま転がった山沢には目を向けず、華座理は転移陣の中に入ろうとする。


「お、いたいた。おーい華座理ー!」


 そこでやってくる河瀬。彼は転移陣の中に入ろうとする華座理を見る。


 華座理は河瀬に目を向けず、転移陣の中に入った。


「ん?華座理何処行ったんだ?もしかしてこれか?」


 河瀬は急に消えた華座理の姿を探す。すると床に明滅する転移陣を見つける。役目を終え、消滅しようとしているのだ。


「よっと」


 そのまま河瀬は転移陣の中に飛び込む。


 後には、炎の燃える音だけが響いていた。




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