メガトンコイン
「......という訳なのです。本当に申し訳ない......」
あの後、聖女様と呼ばれる女(38)から彼らは説明を受けていた。
場所は大聖堂。大きさは現代の体育館ほどあり、椅子が並んでいてもなんとか並べるくらいだった。
曰く、
魔王軍攻めてきた!
↓
魔王、めちゃくちゃでかいです!
↓
ならあの山を落とせ!そのための大規模術式だろう!
↓
あ、しまった!アレ異世界召喚用の術式だ!
↓
異 世 界 転 移
というガバも大ガバをやらかしていた時の教国と言う国の皆様。
「召喚には順番があります......この順番を無視したものは多大な厳罰を敷かれます。しかもここまで大勢となると恐らく国民全員が虐殺やも......お願いします!どうか皆様の力をお貸しいただけないでしょうか!?」
聖女(38)は頭を下げる。ちなみに外見年齢は16程だった。これも時の神の加護のおかげである(寿命2倍)。
「えー......?」
「俺ら、関係ないよな?」
「被害者じゃん、これ」
しかし、生徒の反応は芳しくない。それもそうだ、彼らには戦いの義務がない。残しているものもないので早く国境を抜けて仕舞えばいいのである。
「すみません!質問をよろしいでしょうか!?」
そこで声を張り上げる者がいた。体育教師の山沢である。
「なんでございましょうか?」
「我々は被害者です!この国に留まる理由はなく、またこの国のために戦う理由もない!嘆願をされても我々にもなんのメリットもありません!そもそもあなた方は我々に嘆願するのではなく、賠償する立場かと思われますが!」
「そうだー!」
「バイショーしろバイショー!」
大聖堂の至る所から声が上がる。
———でしょうね。
聖女(38)は思う。自分だってこんなやる必要のないことに巻き込まれたらムカつく。そもそも時の教国以外の国家のために異世界人を呼ぶなど阿呆の極みだ。
でももうしてしまったのだ。
宗教根絶は一部の強硬派がやったこと。国にも隠れて召喚しようとしたところ、魔王と魔王軍が襲来。転移術式を使用し近くの山を落とし倒そうとしたがその時に術式使用者に紛れ込んだ狂信者によって今回の事態が発生したのだ。
———はぁ、言うしかないですか?
聖女(38)は口を開く。
「確かにその通りです!私たちが嘆願するのが間違っているでしょう!しかし、貴方達が戦わねば貴方達が殺されてしまうのです!」
その言葉に一同静まり返る。しかし山沢は別だった。
「殺されるとはどう言う意味ですか!」
「他の国は我々を異端と認定します!異端の召喚した勇者は殺害される決まりなのです!なぜならそれもまた異端故に!」
実はそうではない。実際に処刑命令が下されるのは国の神に異能の名付けを受けてからだ。だがここで真実を言う必要はない。それにどうせなんやかんやと言って中央教会は殺すだろう。
会場にざわめきが満ちる。その中で、
(早く終わんねぇかな......ねみ)
と河瀬は思っていた。
「隠すことはできないんですか!」
「できません!他国には神託で伝えられます!よって隠し通せません!」
(あーうるさ。ちょっとくらい黙っててくれよ......)
彼は眠かった。だがうるさくて眠れなかった。
「それをなんとかするのが貴方達ではありませんか!?」
「できるわけがありません!異端の話を聞く国がどこにありますか!?」
彼が眠たいのは華座理にぶん殴られた時に彼のスキルが発動したからだ。彼のスキルは『超再生』、体力を消耗し怪我を治すスキルだ。と言っても今は名前がないのだが。
「ふざけないでください!そもそも———」
「山沢先生!そろそろ話を進めなければ......!」
ここで一旦同僚からのストップが入る。山沢は荒い息を整え、聖女(38)を睨みつける。
「......とにかく、今日は疲れたでしょう。この後、神による異能の名付けが行われます。その後、ゆっくりとお休みくださいませ」
聖女(38)はそう締めくくった。
§
「しっかし異世界転生とはなー」
河瀬と同室になった四人のうち一人が呟く。
「『転生』じゃねえ、『転移』だ。間違えんな」
「うわでた警察」
彼ら四人は話し合う。今の状況は彼らにとってまさにゲームの主人公になった気分だ。
「でも多すぎるよな、人数」
「だよなー、せめて1クラスくらいにしとけよなー」
しかし主人公が多すぎることに彼らは愚痴を吐く。うるせぇ、人数多かったら1000人くらい超えなけれなんとかいけるだろうが。作者の気持ち考えたことあんのか。人数調整大変なんだぞ。
「そういやお前らスキル何だった?」
そしてやっぱり始まる話題はその言葉から始まった。
「俺は、『鉄壁』だ!自分の体を鉄にできる!」
「俺は『瞬足』!1分のインターバルを挟んで視界内のどこ鬼でも転移できる!」
「僕は『旋風』だ。手のひらから風を出せるんだよ!」
「俺は『製剣』!剣を体力の続く限り作れる!」
「「「おおーっ!」」」
彼らはスキルを見せ合う。どれもかなり強力なスキルになると彼らは思っている。
「おい河瀬!お前のスキルはなんなんだよ?」
「Zzz......」
しかし、そんなもの河瀬には関係なかった。『超再生』の反動で眠たかったのだ。
「けっ、付き合いわりぃやつだなー」
そのまま彼らの夜は老けていく。
「全く!この国の者達は我々をなんだと思っているのです!」
山沢はそう声を大にしながら床を叩く。
「まあまあ......山沢先生、もう辞めましょうよ。生徒達も受け入れています。ここは大人しく従っておきましょう?」
「むぅ......!」
山沢は納得がいかない。この国の人間は自分達のことを蔑ろにしている。
山沢は読書をあまりしないのでこう言った状況に疎かった。だがそれでもわかるのは『我々は利用されている』ということだった。
(おのれ......よくも華座理を......!)
そして彼の頭の中にあるのは華座理のことだった。
彼は華座理のことを好いていた。これまでに味わったことのないほどの情熱が彼の中にあった。
それは、世間一般では恋と呼ばれるものだった。
……ちなみに余談だが、山沢と華座理は20歳差だ。あまりにもきつすぎる。
(待っていろ......華座理......!)
彼は自分の力を使うことを決意する。その力が何を及ぼすのか......それはまた次回。
「......食事だ」
「ありがとうございます」
華座理は夕食を受け取る。硬い黒パンだ。味も美味しくない筈だ。
(でも、人殺しにはいいご飯かも?よくわかんないや)
華座理はこの状況を受け入れていた。そして5日後処刑されると聞いても「ふーん」ぐらいにしか思わなかった。
彼女は修哉を殺したことで全ての感覚が麻痺していた。全ての光景が鮮明でありながらぼやけていて、全ての言葉が近く遠かった。
匂いも感じ取れるがどうとも思わず、肌を這う蜘蛛も多少目を向けただけで不快感もくすぐったさもはなかった。
今食べた黒パンもそうだ。味があるのはわかるがそれが苦いのか甘いのか辛いのか旨いのかしょっぱいのかわからない。彼女はそんな状態にあった。
(うーん、私何したらいいんだろ?)
昔の彼女には『この檻から出たい』、『自分は人殺しなのだから処刑されて当然』という思いが起きていただろうが......
今の華座理にはそういったものは露ほどもないのだ。