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ゴミくず  作者: 多田のぶ太
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5

「食べ過ぎたぁ」

「何とか全部食べれたわね。でも、無理しすぎじゃない?」


 ユウミは両手でおなかを擦っている。

 舞とユウミはいつものパスタ屋さんでランチをしていた。

 今はキャンペーン中で、期間限定でランチの後にデザートのビュッフェができるのだ。それに飛びついたユウミに舞も付き合うこととなったのだった。


「何?臨月?」とおなかを見ながらナデナデする様子を見て冗談を言う舞。

「うん、生まれそう」

「あはは。生まれそうなんだ」

「うん、上からも下からも」

「ちょっ!え?上からって?え?下からって?食事中にやめてよ?早くトイレに行ったら?」

「大丈夫。あ、真ん中から出そう」

「真ん中?破裂するってこと?」

「あ、なんか、穴と言う穴から出そう」

「何言ってるのよ、もう。吐くなら吐いてきなさいよ」

「やだよ。吐くの、勿体ないじゃない」


 キッとした態度でそう言うユウミだったが、ふぅー、っとおなかを落ち着かせるように呼吸しているのをみて不安を隠せない舞だった。

「それだけ食べて太らないって、いいわよね」

「そんなことないよ。これでも努力してるんだから」

「ダイエットしてるの?」

「食べたくても我慢してるの。今もそう。デザートもう一個食べたいんだけど、もう無理。我慢する」

 それは我慢と言えるのか?と思ったが口には出さなかった。


「ユウミって、お兄さん二人いるんだっけ?」

「うん、一番上がユウイチで二番目がユウジ。名前の付け方が安直でしょ?私が三番目だからユウミ。もし男だったらユウゾウになってたって」

「まぁ、わかりやすくていいんじゃない?」

 何の慰めにもならないことはわかりつつ、とってつけたように言う舞。


「舞ちんは、兄弟いるの?」

「弟が一人」

「へー、一姫二太郎三なすびだね」

 舞は耳を疑った。だが確かに三なすびって言っている。

「は?一姫二太郎はわかるけど、三なすびって何?」

「なんかそういう言葉あったよね?」

「ユウミ、間違ってるよ。それは一富士二鷹三なすびのヤツでしょ。初夢で縁起のいいもの。何?一姫二太郎三なすびって。一人目が女の子、二人目が男の子、三人目はなすびが生まれるってこと?」

「あははは。人間はなすび生めないよ。舞ちんバカだなぁ」

バカはどっちだ!と舞は心の中で怒鳴った。いつもユウミのペースに巻き込まれてしまう。ただその感覚は嫌なものではなく、どこか心地よく感じている自分がいることに舞は気づいていた。ユウミには私にはない不思議な魅力がある。会うたびに思った。だが、ペースを奪われてばかりでは悔しい自分もいる。ちょっと一息ついて話題を変える。


「そういえば、この前ユウジさんに助けてもらったの。お礼言っておいて」

 舞は先日の出来事についてユウミに話した。ユウミは兄からは何も聞いていない風だった。

「お兄ちゃん、カッコよかったでしょ?」

 目をキラキラさせながら舞に問いかけるユウミ。

 兄が二人いるユウミだが、お兄ちゃんと言うとユウジのことになる。ユウイチの事はイチ兄と呼ぶらしい。


「うん、カッコよかったよ」

 助けてもらった手前否定することもできず、だが堂々とした立ち振る舞いは確かにカッコいいと思った舞だった。ただ、だからと言って恋に発展するとは限らない。


「でも優しすぎるんだよねー。自分が傷つくことよりも相手が傷つくことを心配するの。いつも」

 ユウミはそう言いながら軽く口にティーカップを運んだ。


「女性に対してもそうなんだよね。だから未だに独り身だし。女性の方から言い寄って来なければ付き合えないタイプなのよ」

「でも何故アパートで独り暮らししてるの?実家が近いのに」

「自立するためだって。一緒にいると甘えちゃうからって」

「一番上のお兄さんってどこにいるの?」

「イチ兄?私らと一緒に住んでるよ。結婚してるけどね」

「それで居づらくなったんじゃないの?」

「えー、そうかなぁ?私は全然気にしないけど」

「あんたは神経図太そうだしねー」

「えー、そうかなぁ?まぁ、気にしないけど」

「少しは気にしなさい。ところで、ユウジさんって、どんなお仕事してるの?」


 舞がユウジの事に興味を持ったのかと思い、前のめりに話出すユウミ。

「お兄ちゃんね、介護の仕事やってるの。介護士ってやつ?結構大変そう。きつい仕事の割には給料安いって。あ、今のは無し。介護士やってるの。もし舞ちんに介護が必要になった時に一緒にいたら役に立つかもしれないよね」


 十歳も上の男性に介護してもらうというのは想像できない舞だった。男性の方が平均寿命短いし、こっちが介護する立場にならないか?口には出さず、心の中で留めておいた。

 確かに、介護の仕事は人手不足だと噂では聞いていた。高齢化のこの時代、介護が必要な人は増えるばかりで、世話する人が足りなくなるのは当然のことと言える。しかも待遇が良くないのであれば尚のこと。介護士かぁ…。無いな。舞はゆっくり首を横に振った。


「給料安いのに、実家出てアパート暮らししてるの。大変ね」

「うーん、そうでもないみたい。掛かる費用は家賃くらいだし。ごはんとかはうちから持っていくことが多いから。近いからね。まぁ、ほとんど持っていくのは私の役目みたいなことになってるけど。それと、朝起こすのも私の仕事。毎朝六時半に電話かけて起こすの」とユウミは明るく話す。


「ってか、給料安いって話は無しって言ったのにー」

「でも聞いちゃったもん。まぁ、隠すことでもないでしょ。それより……」


 舞は確認のために、気になったことを尋ねた。

「聞き違いだったら謝るけど、独り暮らしは自立の為って言ってたっけ?」

「うん、そう自立。だから全然謝らなくていいよ」

「ふーん」

全然自立できてないんじゃ?そう言いたかったが何とか言葉を飲み込んだ。

っていうか、前に同じ話した時は言っちゃったか。まぁいいや。


「ところで、ユウイチ兄さん、だっけ?どんなお仕事してるの?」

「イチ兄は売れない小説家やってるの」

「はぁ?売れない小説家?ユウイチさんって結婚してるのよね?」

「そうだよ。だから狙ってもダメだよ」

 なぜそうなる?男だったら誰でも狙いに行くように見られてるのか?と舞の頭によぎった。

「そうじゃなくて、売れてないってことは収入少ないんでしょ。結婚してて、大変なんじゃないの?」

「うん。ほとんど収入無いから、実家にいる感じ」

 兄弟そろって親のスネかじってるの?と舞は顔をしかめた。

「奥さんは?ユウイチ兄さんの奥さん、仕事してるの?」

「あぁ、サチコさんはうちの親の手伝いしてる」

「え?ユウミのうちって何の仕事してるんだっけ?」

「言ってなかったっけ?アパートの運営やってるの。だから黙ってても家賃収入でお金入ってくるのね。まぁ部屋の管理とか修理とか集金とか、やることはいろいろあって、サチコさんはその手伝いをしてる。サチコさんはしっかりしてるから安心なの」

「それでユウイチ兄さん、好きなことできるんだ」

 ある意味羨ましくも思った。

「うん。でも、才能無いのよねー。表現力が乏しいっていうか」

「兄妹なのに手厳しいね」

「兄妹だからよ」そう言って紅茶が入ったカップに口をつけるユウミ。

「それに、優しすぎるんだよ。ミステリーなのに、殺人事件とか起きないし。人が死ぬのが嫌なんだって」

「え?フィクションなのに?」

「そう。フィクションなのに。死んだ人がいい人だったら、悲しくなるって。まぁ、それはわかるんだけど、悪い人でも死ぬのは書いてて辛いから書かないみたい」

「じゃあ、どんな内容なの?殺人事件じゃない推理小説って」

「コソ泥の犯人を捕まえたりとか、無くしたものをお探したりとか」

「ああ、それは面白くなさそうね」

「でしょ」

「でも、ユウジさんと似てるね。優しすぎるって。さすが兄弟」

「だねー。で、今書いてるのが、『ピカソの中心で藍と叫ぶ』ってタイトルなの。略して『ピカチュウ』」

「……いろんな意味で問題あるわね」

 そんな小説を書くこと自体ある意味ミステリーだと舞は思った。


「あ、ユウジさんが住んでいるアパートって、実家が経営してる物件なのね」

「違うよ。別のとこ。お兄ちゃんが歩いてるとき、道にチラシが落ちてたんだって。ある不動産屋の前で。何て名前だったか忘れちゃったなぁ。それを拾って、落ちてましたよーってその不動産屋に入ったら、その物件を勧められて、断り切れなかったって。優しすぎるんだよね、お兄ちゃん」

それは優しさなのか疑問に思ったが、そう捉えることもできるということにしようと思った。

「介護の仕事も、誘われて断れなかったみたいだし」

「そうなんだ。ハハハ……」

 舞はもう笑うしかなかった。

 すでに舞はユウジの優しさよりも、頼りなさを感じていた。



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