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ヒロインになれなかった転生者

作者: サコラン

誤字脱字、感想などお待ちしております。

(そんな……、嘘でしょ……?)


その声を聞いた途端、私は心の中でそう思った。



『婚約破棄』。



長い間、信用していた彼に裏切られた。

優しい反面に、腹黒い反面をもち、貴族の中で位は高い。

そのせいかとても美形で、周りにはいつも女性がいた。

私はその彼の優しい方だけを見ていたから、腹黒い面を向けるなんて、思ってもいなかった。


裏切るなんて、あり得ない、と。


しかし、現実はいつも残酷。

こうして彼は、私に婚約破棄を訴えている。私は捨てられたのだ、彼に。

不幸な人に、救いの手をわざわざ差し向ける人などいない。

周りを見ても、誰もしゃべろうとはしなかった。そう、だれ一人。


つまり今この瞬間、私は運命にも見捨てられたのだ。


「では、アリス。さようなら」


信用していた彼は、新たな婚約者と腕を組み、ともに歩いて行った。

嬉しそうに笑う、陰キャの私とは正反対の女性。

それに笑顔で答える、私の元婚約者。


もともと、ウマが合わなかったのだろうか。転生者という、この私と。




始めは、死んでから赤ん坊に転生して、とてもうれしかった。

人生を、もう一度やり直せる。今度こそ、まっとうに生きられる、と。


でも、それは違った。

それは容姿、環境が変わっただけであって、私の性格は変わっていない。

根暗ボッチで、口数が少ない。そんな人を好きになるのは、一部しかいないだろうに。

ましてや、私の貴族位は下の方だし、わざわざ婚約する人はいなかった。


そんな時、唯一婚約を申し出たのが、彼。

天使のような笑顔を見せて、私を口説く。

その時、私は彼を『救世主』だと思った。そして私はヒロイン。


そんな夢物語が頭の中に渦巻いていた。



……。…………。



はは、私バカだ。


そんなこと、あるわけない。



私はただでさえ貴族位が低い。そんなことは乙女ゲーなら婚約者が救ってくれる。

でも、現実は乙女ゲーのように甘くない。


こうして、先ほども言ったように私は捨てられているのだから。




ぽろぽろと涙を床に落とす。

ただ裏切られたぐらいで、何を泣いているんだ。


もう人生は二度目なのに、涙だけはいつも制御できない。

これだけは、私は正直なんだな、と思う。




涙をごしごしぬぐい、ひたと前を見据える。鼻がつまっているが、そんなの気にしない。


裏切られた? それなら、やり直せばいい。

乙女ゲーの主人公のようにはいかないけど、汚い手でもあがいて見せる。

限界まで、生き延びる。この、厳しい貴族社会で。



アマチュアな私。さようなら。

厳しい私に、こんにちは。



今のことは、もう忘れる。これからが大事なんだ。



「私は、転生者であり、下級貴族のアリス」



声に出して自分の名を呼ぶ。

心がいくらかすっきりすると、私はもう一度涙をぬぐった。




「よし、いくわよ。私は、まだまだこれからなんだから!」




一人の転生者は、こうして決意を胸に、新たな道を探すのだった。


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