70.子供みたいな二人のやりとり
ユウトさんからルディって呼ばれたおじさまは、私の手を取りさらっとエスコートして家の中に入ってきた。
もう成り行きに任せるしかない。
一応リビングに通してお茶を持って行くと、ユウトさんがむすっとした顔でルディさんを見ている。
冒険者のパーティーだった人なのかな?
レイアさんの時みたく失踪してないから、話は通じる人なんだと思うんだけど。
二人にお茶を用意して、私はキッチンに近いところで一人でお茶を決め込む。
「で、今日は何しに来たんだ?」
「だ~か~ら~、俺様の耳にまで入る噂の料理を食べたくて来たんだよ」
「一人でか?」
「おうよ!ばっちり出し抜いてきたぜ!」
深いため息をつくユウトさん。
そして何かを出し抜いてまでここに来てくれたというルディさん。
大丈夫かな、出し抜くって……。
「お前仕事は……」
「もちろん息子に任せてきた!!」
ドヤっているけど息子さんに押し付けてきたってことよね?何の仕事してるんだろう。
冒険者にしては服装が品のある感じだし、商人って感じでもないんだよね。
騎士とかにしてはちょっとガサツだし全く何やってるのか想像もできない。
「お前まさか明日並ぶのか?」
「おう、明日営業日なんだろ?どれだけの人気なのか気になってな!」
「やめてくれ、お前が来たら貸し切りみたいになっちまうだろ!」
「おいおい、ちゃんとこの店のルールは守るぜ?」
「違うそうじゃない。周りが気付く」
「バレやしねぇよ。見た目が違うだろうが」
あ!貴族のお忍び??
そういう事よね!見た目が違う~とか周りが気付く~とか。
もしかしてこの領地の貴族さんなのかな?なるほどなるほど。
え、どうしよう、貴族に対する礼儀が全然わからない!
ユウトさんは仲良しだから許されてるのかもしれないけど、私は初めまして……っていうかさっきの会話で何か間違ったことしてないかな?
「俺様もおいしい料理食べたいんだよ。普段の飯もうまいが流行りものはおさえておかないと流行に乗り遅れちまう」
「本当に流行りものが好きだなぁ。ただ周りのことも考えろ。いくらここが田舎だからって一人で来るとか気を抜きすぎだろ」
「こう見えて……強いぜ?ま、勇者様には勝てねぇけどな」
貴族の人も鍛えたりするんだぁ。
会話には混ざらずひっそりと二人の会話をBGMにお茶をしてたらルディさんに話しかけられた。
「嬢ちゃん!そっちで飲んでねぇでこっちで一緒に話そうぜ!」
まさか声がかかるとは思わず、貴族との話し方がわからないからユウトさんに助けを求める視線を送ると、ちょいちょいと手招きしてユウトさんの左側の空いているイスを指し示した。
えぇ~ここは来なくていいよって言われるんじゃないの?
撤退は叶わず。
ユウトさんの向かい側に座っているルディさんが笑顔を振りまきながら、
「俺様はルシュディ=フォン=アウルゼン、気軽にルディって呼んでくれ!」
「初めまして私はタミエと申します。よろしくお願いいたします……ルディさん」
そんなご挨拶をさせていただいてたら、ユウトさんが目を丸くして驚いていた。
「ルディ!なんで本名を名乗ったんだ!?」
「お前今までそんなに自分の周りに人を近づけることなかっただろ?嬢ちゃんと近いってことはめちゃくちゃ信頼してるんだろ?なら俺様もちゃんと挨拶しないとな」
え?そうなの?ユウトさん周りに人近づけてなかったの?今まで全然気づかなかった。
マーシェルさんだって、ゴザレスさん、トゥイさんだって別に仲良くしててそんな距離がある様に見えなかったし、村の人達だって普通に会話してたり、なんだったら語りの会を開くぐらい交流もしてるのに?
「それに嬢ちゃんは俺様の名前を聞いても動じないときた。いや~ユウトはとんだ隠し玉もってるじゃねぇか」
貴族の名前聞いたら一般人はもしかして頭下げ続けるとかしなきゃいけなかったのかな??
やばいやばい、誰か礼儀を教えて!
「とにかく!明日ルディがここに来られると売り上げに響くから来るな!」
「いやだ!」
「だめだ!帰れ」
「食べるまで帰らない!!」
二人のやり取りが、子供のケンカみたいに見えてきてちょっと面白い。
でも、村の人達も貴族様と一緒にご飯を食べるって気まずくて食べにくくなっちゃったら楽しい食事にならないよね。
だったら特別に今日の夜ご飯一緒に食べたらいいじゃないかな?
そうしたらご飯は食べたことになるんだし帰るよね。
ユウトさんとは仲いいみたいだし、気の知れた人とご飯食べた方が楽しいよね。
「あのぉ~お話中すみません。ご提案なんですけど……」
声をかければ二人は子供っぽい言い争いをやめてこちらを見た。
「もし、よかったら夜ご飯ルディさんもどうでしょう?」
目を輝かせるルディさんに対し、そんなぁ……といった表情を見せるユウトさん。
え、これが一番円満解決では?
それに家まで送るってさっき外で言ってたし、早めに食べて解散しましょう。
「店の料理は嬢ちゃんがやっているのか?」
「あ、はい」
ほぉ~と感心されたのは少し心苦しい。
何せ作ってない、召喚してるだけだからね。
サクッと召喚するためにキッチンに行く。
下手にスキルレベル上がったやつを食べさせてハマってしまい、屋敷に来いと言われても困るから、スキルレベルの低めのやつで、この世界でも頑張れば作れそうなやつを提供しよう。
ここは初心にかえろうか。
ブクマありがとうございます!!
( ;∀;)
初心に戻り例のアレ




