20.保険を掛けたはずなのに
ユウト視点
夜に俺の家に人が来ることはまずない。
だが、村から誰かがやってくることが索敵魔法に引っかかった。
こういうときは大体悪い知らせだから困る。
案の定ギルドの遣いの者だった。
隣町に繋がる道に本来いないはずのアースドランゴンの群れが現れたと。
しかも通常温厚な種だが今回はかなり興奮しているという。
すでにゴザレスやトゥイも向かったそうだが、アースドラゴンは非常に硬く討伐も簡単ではない。
こういう時に俺にも依頼がくるのだが、嫌な予感しかしない。
アースドラゴン自体の討伐は問題ないが、本来いないはずの場所にいるそれが問題だ。
100%誰かが意図的に誘導したということだからだ。
何の為にこんな田舎の村と町を繋ぐ場所に討伐に時間のかかる魔物を配置したのか。
時間稼ぎだろうが何をするために・・・。
今までこんな事は起きなかった。
ここ最近この村で変わったことと言えば、タミエさんが来たこと・俺の家で飲食店を始めたこと。
そうなると本当の狙いはタミエさん、もしくは飲食店を始めたこの家自体。
タミエさんが心配で討伐には行きたくないが、ゴザレスやトゥイがいくらほかの冒険者達より強いと言っても、群れを相手にするのは大変だろう。
遣いの者の話だと、この村と向こうの町から数十人の討伐隊が向かっているという。
俺は支度をしてから向かうことをギルドの遣いに伝え、一度部屋に戻る。
何も知らないタミエさんは幸せそうに食事をしている。
タミエさんには魔物退治に行くことを告げ、念のために部屋から出ないように言っておく。
タミエさんの部屋には念入りに結界とトラップを重ね掛けして、各部屋や家全体にも魔法をかけておく。
俺のステータス画面にはどこに結界が張られているか左上に表示されている。
ステータス画面は透けていてきちんと景色も見えている。結界が破られたりしてもすぐわかるように、ステータス画面をオンにしたままにしておく。
本来であれば対象人物の側にテレポートして行くのが早いが、そんな能力があることをばれるわけにはいかない。
俺が村の入り口から出たことを門番に確認させて、見えなくなったとろで身体強化魔法をかけて、超スピードで街道を走る。
しばらくすると交戦している声が聞こえてきた。
スピードを落とし通常の人の走るスピードよりほんの少し速い程度に抑え本隊と合流する。
アースドラゴン達は我を忘れたように暴れまわっている。
大きさ自体は2メートルほどでそこまで大きくはないが、ウロコがごつごつしていてそれがすごく硬い。
見た目はアルマジロトカゲに似ている。
3匹程度倒れているのは確認できたが、まだ10匹ほどいる。
戦場に突入して近くにいた一匹と戦闘を開始する。
「遅ぇぞユウト!遅れた分しっかり働けよ!」
近くにいたゴザレスが、ドラゴンの首に傷をつけながら俺に声をかけてきた。
「わかってるよっ!!」
それからなんとか6匹目を倒せたところで、左上の視界の一部が赤文字に変わった。
【玄関の結界が消失しました】
くそっ、やっぱり家に誰か来やがった。
急いで戻りたい。そのためには早く残りを倒さなければ。
周りに人が居なければ、勇者スキルで一撃で倒せる技があるがこんな人目の多いところで技を繰り出せない。
「危ない!ユウト!!」
焦っていたせいで周りが少し見えなくなっていた。
右斜め後ろからアースドラゴンが突進してきていたのをトゥイの遅延魔法のおかげでギリギリ回避できた。
「しっかりしてよね」
「悪い」
集中して残りの討伐をしていくことを決めてすぐに、再び左上の視界が赤く変化した。
【タミエさんの部屋の第一結界が消失しました。】
【トラップ・紫電撃発動】
ピンポイントでタミエさんの部屋が狙われた!?
狙いはタミエさんか!
急がなければ。ゴザレスやトゥイより強いと思われるわけにはいかないと思っていたがタミエさんの方が重要だ。
少しだけ力を解放して、三、四撃ぐらいで一匹仕留められるぐらいまで引き上げよう。
そうして二匹倒したところで左上の文字があり得ない表示になった。
【すべて消失しました】
そんな簡単に解除できる代物ではない。
それがすべて消えた?
凄い魔術師でも来てるのか!?
現地の情報が全く分からない以上、タミエさんの身に危険が迫っているかもしれない。
アースドラゴンは残り2匹。
俺が居なくても平気だろう。スッと気配を消して近くの林に移動し葉の広い木の上に登る。ここなら誰にも見られずテレポートできる。
家の前だと鉢合わせする可能性があるから、オミを育てているところへテレポート。
そこから猛ダッシュで家に向かい、半開きの玄関の扉を見つけた。
索敵魔法でもまだ家に人がいるのが分かる。
三人が集まって玄関付近にいる。
タミエさんが捕まっているのかもしれない。
勢いよくドアを開け状況を確認すると、酒臭い玄関とびしょ濡れになっているタミエさん。
知らない男どもが気を失って倒れているという状況。
全くもって意味不明。
俺をみて安心して気が抜けたのかへたり込んだタミエさんをとりあえず風呂に行かせて、残った男どもを縛り上げて、家の前に置いておく。
もちろん簡単に逃げ出せないように、火刑台のようにしてやった。
タミエさんが風呂から出てくるまで推測するに、タミエさん自身が部屋から出たから結界類がすべて無効になったのだろう。
そして、玄関の酒臭さと男どもが気を失っているのは酒瓶かジョッキかわからないがそういった類のものでタミエさん自身が応戦したのだろう。
タミエさんは風呂上りでさっぱりしてご機嫌になっているようだが、こっちがどれほど心配したか全く分かっていないようだ。
すこし反省してもらおう。
怒気を露わにすると、秒で謝ってきたが見当違いな謝り方をしてきた。
「玄関酒臭くしてすみません」
違うそうじゃない。
俺が怒っている理由がわかると、蒼い顔しはじめた。
うむ、どれだけ自分が危険なことをしたか分かればそれでいい。
次はしないだろう。
真面目そうなタミエさんには借金という罰を負ってもらうことにした。
人にお金を借りている状態をあまり好まないだろう。
タミエさんは俺に言われた通りに60個召喚した。
すると魔力不足状態になった。
まぁ、そうなるように計算して60個って決めたんだが。
すこし余裕があるだろうがだいぶ眠そうだ。
「そういえば魔物退治終わったんですか?」とふわふわした状態で聞いてきたから「まだだ」と答えると、「?なんでここに?」と眠さと戦いながらも聞いてくるので、正直に「テレポートしてきた」と言ったが、「?」みたいな顔して眠さに負けたようだ。
果たしてどこまで覚えているだろうか。
俺がハンバーガーを持って戻ると既に討伐は終わっていた。
「おい、ユウトてめぇ途中からどこにいた?」
俺を見つけたゴザレスが不機嫌に話しかけてきた。
「いや、俺が居なくてもゴザレスとトゥイがいるからもういいかなって思って一旦差し入れ取りに帰った」
「あぁ?差し入れだと?」
ハンバーガーを見せるとコロッと態度を変えてくるのが面白かったなぁ。実はゴザレスだけ俺が元勇者だと知っている。あいつも元・・・いやこの話はまぁどうでもいいか。
トゥイにも怪しまれているが、今のところ突っ込んで聞かれてはいない。
ギルドの連中には俺がアイテムボックス持ちだと知られているから、アイテムボックスから物を出しても驚かれない。
向こうの町の人間合わせて約30人ぐらいがこんな夜中に討伐に参加していた。一人二個食べれる。まぁ一個のやつもいたけど。
俺からの差し入れに大喜びのメンツ。
ついでに新商品の宣伝もしておくか。
これで沢山人が来ればタミエさんも借金返済はすぐに済むだろう。
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ようやく・・・ようやく・・・次回焼きおにぎりが・・・。
長かった・・・。
誰のせいだよ。
・・・私だよ!!
すみませんでした。




