2.いざ、料理召喚
まさかの所持金が150V
ハンバーガーを召喚してしまったら私の所持金は0よ!
お先真っ暗とはこのことか。
え、無一文は嫌です。勇者から150Vもらおう。
「すみません、剣はいらないんですけど150Vいただけませんか?」
「それでハンバーガーが手に入るのか?」
「はい」
勇者もアイテムボックスを持っているらしく何もない空間から革袋が出てきてそこから150Vを渡してきた。
片手にスマホ、もう片方の手に指定の金額を握りしめ、ハンバーガーの写真をタップする。
途端にスマホの画面が光りはじめ、握りしめていたはずの小銭が手の隙間から光の粒となってすり抜けていきスマホに吸収された。
すると画面から球体の光が飛び出てきたかと思えばそこから写真と同じハンバーガーがふわりと出てきた。
包み紙から覗かせるそのフォルムを見た勇者は涙を浮かべていた。
「あぁ……本当に食べれるなんて……」
泣きながらハンバーガーを食べる姿を見られたくないだろうと思い、何も言わず私は窓の外の景色を眺めることにした。
しばらくして落ち着いた勇者がすこし気まずそうにしながら話しかけてきた。
「みっともない姿見せちまったな……、情けない俺の図々しいお願いを聞いてもらえないだろうか?・・・ハンバーガをあと10個ぐらい出せないか?もちろん金は払う!」
そういって1500V追加で出してきた。
確かに久々に食べるとおいしく感じるのはわかるが、そんなに食べきれるのか?男性ならいけるのだろうか?
まぁ勇者が納得するならそれでいいかと了承し、1500V分の小銭を握りしめる。
確か女神が言うには、同じものを複数同時に出したいときは画面を長押しするんだったはず。
長押しすると個数指定画面が出てきた。
10と指定して決定を押す。
ところがエラー表示がでて召喚出来ない。
赤文字で魔力不足と出てきた。
え、私の魔力そんな無いの?
どうやって自分の魔力残高を確認したらよいかわからず、まとめて召喚することをあきらめて、一個ずつ地道に召喚した。
すると5個目を召喚し終わったあと、眩暈がしてよろめいたところを勇者に支えられた。途端に強烈な眠気が襲ってきた。
「無理言って悪かった!!魔力不足にさせちまってスマン!しばらく横になって休んだほうがいい。少しは魔力が回復するはずだ」
眠気が強すぎて立っているのがつらいのでお言葉に甘えて、側にあったベンチのような場所で横になろうとしたら、勇者に抱きかかえられた。
姫抱っこである。
生まれてから姫抱っこなんてされたことなんてない私は恥ずかしくなって抵抗しようとしたが、眠気に勝てず何も抵抗出来ないまま意識が遠のいていく。
気が付くと私はベットに寝かされていた。
どれぐらいの時間がたったのかすでに辺りは暗くなっていた。
起きてドアを開けて部屋を出ると、自分が二階にいることに気付く。
下からトントントンと包丁を使う音が聞こえる。
階段を降り、音のなるほうへ行くと勇者がキッチンで料理を作っていた。
「もう大丈夫なのか?」
「はい、多分大丈夫です。ありがとうございました」
「ちょうどいい、一緒に食事しないか?」
異世界の料理には興味があるのでそのまま食べることにした。
もちろん写真を撮るのを忘れない。カメラを起動して撮影をする。
「俺の料理なんか大した事ないんだから撮らなくていいだろ。」
記念すべき初の異世界料理は勇者の手料理というかなりレアなもの。
絶対撮影するに決まっている。苦笑いをしてる勇者をよそに出された食事を撮影。
ミネストローネのようなスープ
何かしらの焼かれた肉
ちょっと硬そうなパン
満足のいく構図で撮れたので実食。
見た目はミネストローネのようだが味は薄味だった。
焼かれた肉もシンプルに塩で味付けされていて、特に臭みもなく柔らかくておいしかった。味は鶏肉のようだった。
料理全般決してまずくはない。素材の味が活かされているのでおいしいと思うが、地球の料理の味を知っている以上どうしても味付けが物足りなく感じてしまう。
そりゃハンバーガーが恋しくなるよなぁと思った。
「タミエさんだったか?あんた宿をとったりしたか?それとも家があったりするのか?もしあるなら暗いし送っていくぞ?」
「……ないです」
「はぁ、やっぱりな」
私に家がないのをはじめから知っているような口ぶりは一体どういうことだろうか。
「あんたも俺も、あの女神の被害者だな。実はな……」
そう言って語りだした内容を要約すると、
当時28歳だった岡本勇斗もまた私と同じで唐突に地球から転移をさせられ、勝手に勇者が使える聖魔法スキルや身体強化スキル、この異世界での生活に必要な言語能力と生活魔法を付与されて簡単な説明だけサラッとされた後、この世界に放り出されたらしい。
どこかの王国の王城とか、人が居そうな街でもなく林に降り立ったそうだ。
当然林に降ろされて周りに人もいなかったため、村や町の場所を聞くことも出来ず、衣食住にかなり困ったそうだ。
そこからはなんとか情報を集め、自らを鍛えて、仲間を集めた。
この世界に放り出されてから5年後に魔王に臨みそして勝利した。
女神が魔王を倒したから望みを一つ叶えると接触をとってきたから、元の世界に戻してくれと頼んだがそれは無理と断られ、それ以外の望みが思い浮かばず願いを叶えるという約束は保留状態だった。
それから色々あって仲間たちと別れ、今の村にたどり着いて隠居生活を送っていたが久々に地球に居た頃の夢を見て、地球の料理が懐かしくなり保留していた望みでハンバーガーを頼んだという。
自身が転移させられてから10年経った今になって地球に居た頃の夢をみるなんてなと苦笑いしていた。
そして願ったハンバーガーが単品で来るのではなく、ハンバーガーを召喚できる人間が来るとは思ってなかったようで、かなり驚いたそうだ。
まぁ薄々この世界に私達を転移させた女神がポンコツなんだなというのはわかっていた。
何しろ人の都合を無視して自分勝手なことしかしてないのだから。
いくら強制的に送るから希望は叶えるとは言ったって、初心者セットみたいなものをあらかじめ用意しておいて欲しい。それを踏まえた上で、希望を叶えるならまだわかる。
普通に生きてて転移させられるかもなんて考えながら生活してないし、時間がないとか急かされながら希望を言えって言われてもとっさに異世界で必要なことが出てくる人って少無いと思う。
今だったら持ち家とか無限にお金が出てくる財布とか無尽蔵の魔力とかその他諸々願うだろうけど、時すでに遅し。
確かに勇者が言うように私達は女神の被害者だ。
「タミエさん、もしよかったら空いてる部屋あるしうちに住まないか?あ、別にやましい意味はないからな!俺に毎日ハンバーガーを出して欲しいんだ」
過去話の終わりにまさかのオファー。
しかも「俺に毎日味噌汁を作ってくれ」みたいな告白じみたアプローチ。
ただ毎日ハンバーガーって言われてもときめかないなぁ。
でも所持金が150Vしかなく、この金額で宿に泊まれるかどうかもわからない以上、勇者からのオファーは魅力的だ。
「とても嬉しいお誘いですが、勇者さまが望んだ10個のハンバーガーすら出せない人間ですがよいでしょうか?」
「問題ない!別に一個だってかまわない!一緒にいてほしい」
出会って一日も経ってないけど、話していて誠実……いや、素直な人だからそこまで警戒をする必要もないだろう。何より同郷だし。
「こちらこそお願いします。勇者さま」
「よっしゃーー!!よろしく!あ、そうそう勇者さまじゃなくてユウトって呼んでくれ。ここの村人達にも俺が勇者だってこと隠してるんだ」
「わかりました。ユウトさん」
「若い子に名前呼びされるってのは照れるな」
そういって少し頬を赤らめてるユウトさんが可愛いなぁと思ってしまった私は見た目20歳だけど中身がおばさんですよ。騙しているようで申し訳ない。
いや待てよ。
さっきの勇者の過去話で28歳でこっちに呼ばれて10年経ってるってことはユウトさん38歳じゃね?
同い年じゃん!!
私も料理召喚したい。そしたら買いに行かなくてもいいんだもの(゜ω゜)