11.印籠みたいにつかえるんですね。
営業開始数時間前。
いつもならにぎやかな談笑が聞こえてくるのに、今日はなんだか違っていた。
誰かと誰かが言い争いをしているようだった。
外はユウトさんにお任せしてしまっているから、どうなっているのか玄関から薄くドアを開けて覗いてみた。
「ですから、順番を守ってくださいとお願いをしているだけです」
「何故わしがお前らのような奴の言うことを聞かねばならんのだ!わしを誰だと思っている」
「この店では立場は関係ありません」
「お前では埒があかぬ、この店の料理人を出せ!」
ユウトさんが、高圧的なおじさんを相手にしてる。
はぁ……テンションの下がるタイプの相手が来てるのかぁ。
どなたか存じ上げませんが、偉そうにするタイプ嫌いなんですよねぇ。
いや、本当に偉い人なのか?
普段どおり列に並んでるみんなの表情から察するに……別に大したことなさそうだな。
私でも、なんとかなるかな?
でも、語彙力ないから無理かも。
「どけ!わしが来てやっているのだありがたいと思って道を開けるのが普通だろ!」
「ですから、順番を守っていただければ店には入れます」
「だから!何故待たなければいけないんだ!と。わしを一番にするのが普通だ。どこの店でもそうだぞ!」
並んでいる村人や冒険者の目が死んだ魚……いや、ハイライトが消えて……なんか乱闘とかおきちゃいそうなんですけど。
私が出ていって何か出来るかわからないけど、あんなでかい声で料理人を出せって言ってるから私が出ていけば早く終わる?
このままじゃお店を開けることもできないし、意を決して出て行く。
「あの、何事ですか?」
振り返り「どうして出てきてしまったんだ」という顔のユウトさんと、
私の外見がぴっちぴちの20歳程度の女とわかったからなのか、すご~くニヤニヤした顔になった見知らぬ高圧的おじさん。
メタボ体型で全く魅力的ではないけど、着てる服はしっかりしていそう。
「おまえか?この店の料理人は。名乗れ」
「えっとどちら様でしょうか?見知らぬ人に私が何をしているか答える必要ないんですけど」
それを聞いたメタボは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしてきた。
怒鳴れば何でも解決できると思っているのかしら?
「わしを知らんだと!!しかも答える必要がないだと!!こんな辺鄙な村の人間がエラそうに!常識だろ!」
偉そうにしたつもりは無いんですけどね。
「人に尋ねるときは自分からって知りませんか?あなたのおっしゃる辺鄙な村では何か尋ねたいなら自分から名乗るが普通です。それとも大きな町ではあなたのように大声で『名を名乗れ』とか『お前か?この店の料理人は』とか聞くのが普通なんですか?私大きな街に行ったことないので、いつか行く機会がありましたら街の人たちを観察させていただきますね。もし、あなたの言うようなことが当たり前に街中で見ることがありましたら、この村でもその常識を伝えておきますね。大きな街はこの村とは違うみたいですって」
列に並んで聞いていた数人がくすくすと笑いだした。
「とりあえず、郷に入りては郷に従えって知ってますか?この村で何か尋ねたいなら、名乗っていただいていいですか?そうしたら御答えしますよ?」
何食わぬ顔で相手を見る。
それはもうこめかみの血管切れそうなほど顔赤くしてるけど大丈夫かな?
こういうクレーマーみたいなやつに感情的になってはいけないと本でみた。
冷静に冷静に行こう。
「いいだろぉ……わしはシュウェーラの街で一番の料理店をやっている料理人兼料理評論家のミステイストだ。お前の名はなんだ」
「はじめましてミステイストさん。私はタミエと申します。本日はお店にご来店ありがとうございます。最後尾はあちらです」
再び列に並んでいる人たちからくすくすと笑い声が聞こえる。
何かおかしなこと言った?普通じゃない。
「お前はさっきの話を聞いてなかったのか!わしは料理評論家であるぞ!王都でもわしに味をみてほしいと頼み込んでくるぐらいわしの料理界での影響力はすごいのだぞ!そのわしが、ここまで来てやったんだ。一番に案内するのが筋だろう!」
「すみません。王都の料理人さんは頼みこんだのかも知れませんが、私頼んでないです」
ついに並んでいた人達は爆笑した。
え?何で!?普通のことしか言ってないよ!
面白いところないよ!
どちらかというとミステイストさんと話すより、列に並んでる人達と話し合いたい気分だ。
「き、きさま!わしの凄さがわからないようだな!王都で発行しているグルメ紙にきさまの店を対応の悪い店と記載を残してやる。それを見たら誰も行こうと思わなくなるだろうなぁ~」
「あ、別に王都からお客様来てほしいと思ってませんから大丈夫です。この村に住んでる皆様や冒険者の方々に来ていただくだけで十分ですもの。これ以上列が長くなっても困りますし」
わなわなと震えているミステイストさん。
こういう面倒な人もフラグを立てて行ったあの人の名前を出したら、鎮まるのかしら?
ふと思い出したので、一応言っておこう。
「あぁ、そういえばリベール商会のモデアさんに贔屓にしていただいてるのでミステイストさんにご助力いただくことは現状ありません。ここまで来ていただきありがとうございました」
リベール商会のモデアさんの名前を聞いたとたん。
顔を真っ青にして口をあけて固まってしまった。
凄い!モデアさんって「この紋所が~」みたいな感じだ!印籠かなにかなの!?
っていうかすごい人だったの?
また来るらしいからそのうち聞いてみよう。
とにかくそろそろ昼だしお店オープンしたいけど、この人居ると邪魔だなぁ。
「どうぞお帰りはあちらです。もし何かこちらに来た記念に召し上がるようでしたら最後尾に並んで下さいね」
それを言われとぼとぼと村に向ってミステイストさんは歩いていった。
列に並んでいた人たちがミステイストさんが過ぎ去ったあと、みんなして一斉にサムズアップしてきた光景はなかなかだった。
邪魔者いなくなったし、営業を始めるとしますか!
本当に本当に見に来てくださってありがとうございます。
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