10.商人に目をつけられました
唐突な営業を受けました。
やはり商人というのはお金になりそうなことにすばやく飛びつくものなんですねぇ。
私もお金になると思っていますけど、それをメインにしているわけではないんです。
モデアさんは穏やかな笑顔でこちらの様子を見ている。
「タミエさん、私の拠点になっている街にちょうど飲食店ができそうな空き物件があります。そちらに住み込みでやられたほうが、この村より多く人が住んでますから今と比べもにならないほど売れますよ!私が家主に交渉すれば家賃等々少し安くなるはずですしどうでしょう?」
とてもとても魅力的なお話ではある。
自立という意味では。
しかし異世界に来て右も左もわからない宿の無い私を空いてる部屋に住まわせてくれたり、日用品など買ってくれたりしているユウトさんになんの恩返しもできないまま、大きな街でお店持ちます!なんてできない。
安定してきたらユウトさんにアルバイト料をお渡ししようと思っていたけど、売上た利益をいつも事前召喚分に回してしまってまだ渡せていないし、気にしなくていいって言ったけど、余裕が出来たらちゃんと買ってもらった日用品分も色をつけてお返ししたいと思っている。
「えっとぉ……」
やんわりお断りしたいけど、なんて返すことがベストか悩みながらも何かしらの返事をしなければと声を出すものの、うまくまとまった言葉が出ず先を続けることができなかった。
語彙力ください。
周りで聞いていた村人たちもこの先どうなるのだろうと誰ひとり喋らず静まり返っている。
その静寂を破りユウトさんがモデアさんへ話しかける。
「モデアさん、俺を倒してからと言いたいところだが恋愛ごとではなく店のことだ。あんたの言う通り大きくなればタミエさんが豊かになると思う。けど……タミエさんはどうしたい?」
ユウトさんが優しく問いかけてくる。
私がどうしたいか・・・それは・・・。
「私はまだ突然のことで全然心の整理がついてないので。今は……決められません」
それ以上のことは考えられなかった。
自立はしたいけど今じゃない。
ちゃんと恩返しが終わってからがいい。
「わかりました。またこの村に来ることがありますので、その時にもう一度お誘いさせてください」
モデアさんは私の横を通り過ぎる時、私にだけ聞こえるように囁いてきた。
「これからたくさん人に会うでしょう。変な輩もいるかもしれません、その時は私が贔屓にしていると言えば絡まれなくなるはずですよ」
にっこりと笑顔を残して帰って行きましたけど・・・・。
えぇぇぇぇぇ!そういうフラグいらないんですけどぉぉぉぉ!
私の心情なんて知らない村人達からホッとした空気がリビングに流れている。
「いやーどうなることかと思ったぜ」
「寂しくなるところだったな」
「タミエちゃんが大きな街に行っちまったらこの飯が食えなくなっちまうからな」
「おめ~は飯のことじゃねぇか!ひでぇやつだろこいつ。タミエちゃん気をつけな」
「も、もちろんタミエちゃんのことも気にしてるぜ?せっかく仲良くなり始めたじゃねぇか」
「調子いいこといいやがって。ははは!」
村人さん達が思い思いの言葉を口にしている。
私もようやくこの世界に慣れてきてみんなと日常の他愛のない話で楽しく過ごせているのだ。
また一から新しい場所で人との繋がりを作っていくのはなかなか大変だ。
モデアさんが出してきた条件は決して悪くない。むしろいいと思う。
だけどやっぱり私はこの村が最初の村だからこそ愛着がある。
お金持ちになることが目標じゃなくて、ここで適度に生活できるだけのお金が欲しいだけだから。
今の私には大きなお店は必要ない。
誰かに縛られて何かするより、自由にやりたいことをやれている今を大事にしよう。
周りにいてくれるユウトさんや村の人たちに感謝感謝。
その日の夜、ユウトさんとそばを食べながらモデアさんに言われたことを話していた。
「タミエさん、やっぱり大きな街に行ってお店やってみたいか?」
「大きい街には行ってみたいです。この村とどう違うのかとか見てみたいから。でも、お店をその大きい街で持ちたいかって聞かれたら、別に必要性を感じてません。今のままでも十分楽しいですから。ユウトさんのお家を間借りしてるのはちょっと申し訳なく感じてますけど」
「はは、気にしなくていいって言っているのに。そこがタミエさんらしいけどな」
苦笑いをしながら楽しそうだ。
「まだまだユウトさんに甘えっぱなしなってしまいますけど、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む」
眩しいほどの笑顔が返ってきた。
勇者とは心の器の広い人のことをいうのかな。
そんなこんなで変わらず、ユウトさんの家のリビングを開放して今日も今日とて営業しております。
ここ最近は村の人じゃないない人達が来ている。
というのも宿屋のオーナーがここに食べに来た時に
「タミエちゃんありがとうね。最近タミエちゃんのおかげでうちの宿屋が儲からせてもらっているよ」
「え?どうしてです?」
「いや、どうやら噂を聞きつけた人達がこの村に滞在してくれるようになってね。最近タミエちゃんの店にも村のやつじゃないやつらが多いだろ?」
「たしかに……」
「だから村全体が活気に溢れてきてるんだ。商店やってるやつらも喜んでるよ。タミエちゃんのおかげだね。これからも美味しいごはんよろしく頼むよ」
と情報をもらっていた。
私もいろんな話を皆さんと出来るし、まだまだ知らないことが山ほどある。
そんな私でもこの村に貢献できているのがとても嬉しい。
お酒の提供もないから酔っ払いに絡まれることもない。
まぁ、お昼だしね。
ただ村の人じゃない人達は時々文句を言ってくる。
どうしてこんなに待たなければいけないんだ!とか
並んでも目当てのものが食べれないなんて最低だ!とか。
お待たせしてしまって申し訳ないけど、わざわざ遠くから来たからなんて理由で特別扱いなんてしない。
逆にこの村の人間だからって理由でも特別扱いはしない。
みんな平等に朝から並んでもらっている。
目当てのものが食べれないって言うのは私の魔力不足が原因だから申し訳なく思うけど、でも実際のお店だって仕入れがうまくいかなかったときは品切れにしているんだから、うちが品切れにしてても問題ないはず。
絡んでくる人をユウトさんがまるでボディガードのごとく守ってくれるのはありがたい。
慌ただしくも日常は順調に過ぎていく。
ですが、フラグは忘れそうになった時にやってくるんですよね。
あぁぁぁ!本当読んで下さりありがとうございます。
ブックマークしていただき感謝ぁぁぁ!>ω<ノシ




