1.不親切な女神による強制転移
目の前はすでに真っ白く何もない世界だった。
どうも独身貴族の会社員、柊 多美恵38歳です。
私はおいしいご飯に時間を使っているので彼氏などというものに時間を割いていられません。そんな考えだから独身貴族ですけど何か?
それはさておきこの真っ白い世界にくる直前までは帰宅する途中だったはず。ここに至るまでのことを思い返す。
今日は花の金曜日。
仕事終わりの飲み会ではなくめったに食べることのできないお店でおいしいご飯を食べる日だった。
私はSNSに料理などを撮影してアップするのが趣味でアカウントは数十万のフォロワーがいる。
それを知っている私の上司はおいしいお店を紹介してくれるようになったのだ。
今回誘われたお店は会員とその紹介者しか入れず、予約は2年先まで埋まっているとてもおいしいと評判の焼肉屋さん。
上司は焼肉屋の会員で待ちに待った予約日に一緒に行くはずだった取引先の社長が急遽行けなくなってしまい、その代役として私が選ばれた。
今日もおいしい料理を撮影してそして味わえたという幸せを噛みしめながらの帰り道、ただただ普通に歩いていただけなのに足元のマンホールが光ったと思ったら、身体がふわっと浮き上がるような感覚と同時に視界が歪み目の前がまるでプロ仕様の撮影フラッシュのごとく一瞬で真っ白になり目をつぶってしまう。
そうして次に目を開いた時には360度どこを見渡しても真っ白い世界におりました。
これは流行りの異世界召喚というやつですか?
そんな考えをしていると突然目の前に薄水色のウェーブのかかったロングヘアをした女性が光りながら現れた。
たれ目でおっとりしていそうな感じだ。
女神的な何かだと思うが、夢だという可能性も否定できない。
お酒はほどほどにしていたはずなのだが、おいしいお店だったからか飲みすぎたのかもしれない。
そう思いたかった。
しかし現実はそう甘くなく、女神っぽいその人から発せられたのは私にとっては衝撃的な内容だった。
「こちらの都合で申し訳ないのですが、料理についてたくさんの資料をお持ちの貴女には突然ですが異世界に行っていただきます。独身貴族さんですから地球からいなくなっても困らないですよね」
笑顔で言い放った女神はこちらの都合を聞こうともせず発言を続ける。
絶対申し訳ないなんて思ってないな。
「もちろん強制的に転移させますので貴女の希望もできるものは叶えます。さぁどんどん希望を言ってください! ここにいられる時間もそんなに長くありませんから」
悪びれもせず当たり前のように話を続けているが、こっちは困惑していて希望を考えるとかそんな状態じゃない。
大体こういうのはもっと若くてかわいい子の身に起こる現象なのでは?
38歳のおばさんの私がどうして……そんな思考まで読み取られたのか女神が言葉を紡ぐ。
「なぜ? と言った顔をしてますね。簡単に説明しますと、貴女の世界から以前こちらの世界に勇者として一人召喚しまして、勇者として魔王を倒してくれたので女神である私が彼への褒美に願いを一つだけ叶えるとお約束しておりまして、その願いのために貴女にはこちらの世界に来ていただきます」
小説や漫画の話じゃなかった!
しかも私の前に召喚されている人がいる!!
私が真っ白い世界に来ることになったのは勇者のせいか!!
こっちはまだまだ地球でおいしい料理を写真におさめてSNSにアップする予定だったのに!
ん? そういえば、さっき料理の資料がどうとか女神が言っていたような。
「あの、私は勇者の願いのためにそちらの世界に強制的に向かうことになるんですよね? 勇者の願いって何ですか?」
「勇者の願いは……某チェーン店のハンバーガーを食べたい。ですね」
なんということだ、私は勇者のハンバーガーが食べたいという理由で異世界に行かなければいけないなんて。
「勇者が地球に戻ればいいのに……」
つい本音が漏れてしまったが言葉に発してしまった以上取り消すことはできない。
女神はこれまた当たり前のように「一方通行ですから」と取り付く島もない。
こうして私は望まぬ異世界転移に巻き込まれた。
勇者のハンバーガー食べたいという理由の為に。
そして女神はさらっと重大な発言を落としていく。
「貴女には特別スキル料理召喚を授けます。SNSでフォロワーが数十万人ということはみんなが良いなって思うものを世の中の人に提案できるものがあるということですよね。なので今まで貴女が撮りためた画像の料理をお持ちのスマホで召喚できるようにします。貴女も食に困らないくてよいでしょ?」
こうなりゃ自棄である。私に地球へ戻るという選択肢が与えられない以上、異世界で生きるため私が思い浮かぶ能力を希望するしかない。
ただ、異世界転移に詳しくないので何を希望すればいいのかわからず、スマホが重要みたいな女神の言い分を主軸に、
・スマホの充電不要
・私以外スマホを使えない
・スマホが盗まれないように私が望んだ時に出てくる仕組み
・現地の言語補正能力
・身体を若くしてもらう
・アイテムボックス
時間がないからと急かされながら考え付いた必要そうなことを女神に頼んだ。
そっちの都合で異世界に転移されるなら、若返りぐらい安いものだろう。
ピッチピチの20歳を希望した。お酒が飲める歳ではいたいからね。
もうなるようにしかならない。諸々の説明を簡単にだが受けた。
「それでは転移させますね。アイテムボックスに必要経費入れておきましたので。では勇者のもとにお送りします。ハンバーガーをよろしくお願いしますね」
女神自身が発光しあまりの眩しさに目を閉じた。
次に目にしたのは、林だった。
一応目の前に道らしきものはある、その先には村が見えている。
この先の村に勇者がいるのだろうか? と思ったら後ろから声をかけられた。
「お、おまえどっからきたんだ?」
振り返った先には、二階建ての一軒家と、その前に立つ栗色の短髪にこげ茶の瞳をもった引き締まった身体のイケおじが見えた。
女神から言語補正能力をもらっているから何の問題もなく聞き取りが出来た。
どこから来たかと聞かれたけど、素直に異世界からきたと言っても信じてもらえないだろうから、遠くからということにしておこう。勇者のもとに送るって女神に言われたからきっとこの近くに勇者がいるんだろう。
「ここから遠くのところから来たのですが、道に迷ってしまって。すみません、この辺りに勇者さまがいると聞いたのですがご存じないでしょうか?」
イケおじが怪訝そうにこちらを見ている。
こちらとしては、さっさと勇者とやらを見つけてハンバーガーを提供する任務を終わらせたい。
女神が必要経費入れてくれたって言ってたし。きっとこの世界で生きていけるものが準備されてるはずだ。
「あんたは勇者の居場所を知ってどうするつもりだい?」
不審者に思われたようだ。まぁ魔王を倒したあとで勇者に話がある人はだいたい勇者を利用したいやつらしかいないよね。
「すみません私はタミエといいます。勇者さまにハンバーガーという食べ物を頼まれているのです」
「な!? あんたハンバーガーを知っているのか!! ちょっとこっちに来てくれ」
私の発言に顔色を変えたおじさまは強引に私の腕を引っ張って、おじさまの後ろにあった家に引き込んだ。
家の中は整理されていた。リビングにはお客様が招けるだけの広さがある。
ちょっとそこで座って待っててくれと言い残し、おじさまは二階に駆け上がりそしてすぐにドタドタと降り戻ってきた。
「これで頼む!!」
そう言っているおじさまの手には立派な剣があった。
ど素人の私が見てもすごいんだろうなとわかる装飾の剣。聖剣と呼ばれていそうである。
おじさまに名乗られていないけど、この反応はおじさまが勇者ということでいいのだろう。
念のため一応確認しておこう。
「あの、おじさまが勇者さまなのでしょうか?」
「あ、すまない、そういえば名乗っていなかった。俺はユウト、岡本勇斗っていうんだ。あんた女神からの遣いか?」
日本の氏名でしかも女神のことを知っている。何より女神からの簡単な説明の中で「ユウト」という単語が確かに出ていた。
そして私は勝手に勇者は若者だと思い込んでいた。
こういう異世界に召喚された勇者はほとんど若者が定番。
まさかこのイケおじが勇者とは。
「じゃあ貴方が勇者さまなんですね。女神からハンバーガーを提供するように言われました。ですが用意していただいた剣は必要ありません」
「な! 代償なしで食事を出せるのか!?」
「代償なしというわけではないんですが、剣じゃご飯は出せません」
女神から受けた簡単な説明だとスマホの写真アルバムを開き食べたい料理の画像をタップすると、
左下に必要な魔力
右下に必要な金額
が記されているそうだ。
そういえばまだここの世界に来てスマホを出していなかった。
私が念じるだけで手の上に出てくるスマホ。
それをみて驚くおじさま。
「あ、あんたそれスマホじゃねぇか!」
剣士に剣、魔術師に杖、私にスマホそんなノリだろうか。
おじさまの驚きを無視してスマホをいじる。
写真アルバムを開き、過去に撮影した料理の中からハンバーガーを探し出す。
私は決して高いものばかり食べていたわけではない。
どんな料理も魅せる写真を撮ってSNSにアップすることを心掛けていた。
だからファーストフードだってアルバムの中にある。
目的の画像をタップし必要な魔力と金額を調べる。
<某チェーン店のハンバーガー>
魔力15 金額150V
金額の単はVというらしい。
アイテムボックスに必要経費があると言っていたから財布を探すとやけに軽い布袋が出てきた。
袋の中には小銭のようなものが入っている。
150V。
……は? まじで必要経費しか入ってない!!
え? 無理やり異世界転移させておいて嘘でしょ?
「だって、なんでも希望叶えるって言ったけど、貴女お金について望まなかったでしょ?」
という幻聴が聞こえたような気がした。
文章を書くのって本当に難しいですね>△<
書いている皆様を尊敬しております。




