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黒影をあなたに  作者: 君鳥いろ
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第8話



漫画研究部夏旅行の、二日目の朝がやってきた。

昨晩しっかりと睡眠を取れた者はほとんどいないらしく、目をこすったりあくびをしながら朝食のために大広間へと足を運んだ者が大多数だった。昨日一同の前で自分を白だと主張していた前寺だけは、顔色も比較的明るい。ただ、いつもの気怠げな雰囲気はそのままだった。

大広間に集まった順番としてはまず最初に二年の岡村と相羽が入り、その次に部長の横井と一年の星野が到着した。そして部屋が同じだった一年の栗原と西水と三年の日賀、三年男子の河ヶ谷と六宮、最後が一年の前寺といった具合である。

御膳に乗った朝食は、旅館の女将によって既に、向かい合わせになった状態で二列に並べられており、まず到着した二人は料理の内容を覗き込み確認してから席を選んだ。それから各々、来た順で好きな位置に座る。一同が揃ったところで日賀が声をかけた。

「みんな昨日はちゃんと寝れた?」

「私は正直あんまりです」

「僕も、色々考えるとあまり眠れませんでした…」

そう返したのは昨晩話し合いの中心となっていた、岡村と星野だった。やはりみんなの揃う場で積極的に発言するのはこの三人らしい。他の者たちは座布団の上で正座をしたり胡座をかいたりして態勢を整えながら、席が隣の者同士で言葉を交しあっている。

「でも、あの話をするのはまた夜になってからにしましょう。朝から気分が優れなくなってしまいます。今日はこれからお城を観たり、屋形船に乗ったり楽しみなことがありますし」

「そうだね。香枝ちゃん、ありがとう!」

岡村によって、昨日の話に触れることは避けられた。旅館の料理は絶品で、一同の間に飛び交う言葉は次第に「美味しい」というごく平和で一般的なものへと変わっていく。焼き魚などは特に、旅館の近くの海で獲られたものらしく新鮮な旨味があった。

「はあ〜、食った食った」

河ヶ谷が一番に食べ終わり、満足気にお腹をさする。隣に座っている栗原がそれを見て、食べる速度を上げた。栗原の手元には、まだ半分ほど中身の残ったお茶碗があった。

「瑠花、あんまり食べるの急がなくて大丈夫だよ。まだ朝食の時間いっぱいあるし」

彼女の斜め前の星野が、優しく声をかける。しかし栗原は食べるのが遅いのを気にしているようで、少し急いでご飯を口へと運んでいった。

そうこうしているうちに栗原を含め全員が朝食を済ませた。しばらくたわいもない話をし、昨日の夜とは違う柔らかい空気が流れる。前寺や、口数の少ない横井もその輪の中に入っていた。

そろそろ部屋に戻ってまた集合しようかと何人かが腰を上げ、部屋を出る前に壁の紙が自然と視界に入った。旅行中ずっと貸切にしている部屋であるため、旅館の者も配慮して壁の紙は貼られたままにしておいてくれていたようだ。その紙がずっと貼られていたのは今朝ここに来た時からみんなが気づいていたことだったが、あまり注視はしていなかった。しかし、ふと立ち止まってじっと見つめた相羽がその紙の異変に気付く。

「ねえ、これ書いたの誰?」


『春川のどかの死は自殺ではない。彼女を殺した犯人はこの漫画研究部の中にいる。

この中の一人は、犯人候補である。

この中の一人は、部内に好きな人がいる。 …西水

この中の一人は、春川に好意を寄せていた。

この中の一人は、春川の原稿を破り捨てた。

この中の一人は、卵アレルギーである。 …岡村

この中の一人は、部内に恋人がいる。 …日賀・六宮

この中の一人は、部費を横領したことがある。

この中の一人は、春川から好意を抱かれていた。

この中の一人は、コスプレが趣味である。

この中の一人は、この事件の真相を突き止めかけている。』


二つ目の項目に、新しくボールペンで西水の名前が書かれていた。

「えっ、どうしたの?」

急いで岡村が壁の元へ向かい、その紙を確認する。みんなが集まり、西水の顔を紙と交互に見た。

「なんですか?これ、誰が書いたんですか?こんなの、私、知らないです…っ」

西水は駆け出し、大広間を一人で出て行った。

「参ったなあ…」と星野。

「面倒くせえ…」と前寺がそれぞれ呟く。

漫画研究部旅行の二日目は、これからだ。



※あけましておめでとうございます。新年早々更新か遅れてしまいましたが、今年もよろしくお願いいたします。この前アンケートを取ったところ、多くの方が読んでくださっていることを知れて嬉しかったです。今回もご愛読ありがとうございます。 君鳥いろ


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