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黒影をあなたに  作者: 君鳥いろ
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第7話



それから新たな情報も特に見つからないまま、時計の短針は深夜十二時を回っていた。相変わらず話は岡村、日賀、星野を中心に進められ、その他の者はあまり口を開かない。日賀が西水を気にかけ、声をかけた。

「蘭ちゃん、さっき眠たいって言ってたけど大丈夫…?」

西水は急に自分の名前を呼ばれ、すかさず顔を上げた。

「眠たいですけど、だ、大丈夫です」

「そっか。だったらいいけど…」

彼女の語尾は少し残念そうに小さくなっていった。しかし一同の様子をぐるりと見渡し、言葉を続ける。

「なんかさ、このまま今夜話し続けてもこれ以上進展しないと思うんだよね…。急なことだったし、みんな言いたがらないし。一人で考える時間もいるんじゃないかなって思うんだけど…」

そう提案する日賀。どうやら先ほどの西水への気遣いは、これを口実にこの話し合いを一旦明日へ持ち越す目的があったようだった。

「確かに、今の状態では埒が明かないと思います。旅行は三泊四日ありますし、明日に持ち越すのもいいのではないでしょうか」

「それもそうね」

星野と岡村は同意したが、前寺が星野を気怠げに睨む。

「埒が明かないって言うけどさあ、お前だって何も自分のことを話さないじゃねえか。それは日が経ったら言えることなのかよ」

彼は顔は整っているが、不機嫌そうな時には特に、その切れ長の目は迫力を感じさせる。数時間前に大広間に来てからずっと、彼の表情は少し凄みを纏っていた。

「でも何も言わないのは前寺も同じだろう」

それでも冷静な星野が、彼に言い返す。

「前寺はいつになったら自分の項目を教えてくれるんだ?」

やれやれ、と言わんばかりの溜息をついて、前寺は胡座をかいたまま腰の後ろで床に手をつき、壁の前に立つ星野を見上げた。

「だからさ、春川先輩が殺されたとして、俺はその犯人じゃないしこの紙を用意した人でもないんだよ。俺がこの話し合いに深く関わる必要がないぐらい何の重要度もない人だってことは、俺が一番よく分かってる。だから無駄にプライバシーに関わるようなことをこの場で発言したくないってこと。俺は自分自身が白だって分かってるから、そうじゃない星野の方が怪しく見えるわけ」

一同の中でちらほらと、頷く者がいた。そのくらい前寺の口ぶりは説得力を持っていた。星野も彼の様子からして、彼が白であることを納得したらしく、「なるほど」と呟く。

「でもそれを言うなら僕も同じだよ。それに犯人や紙を用意した人以外はみんなそう思ってると思う。だからこの話し合いは平行線のままだ。そうなったら、いずれ誰かが口を割らないといけないのかもな」

「まあとりあえず、今日はもうお開きにしませんか?みんな、今からお酒飲んだりゲームをするような気分ではないと思いますし」

岡村が三年生の日賀や横井の顔色を伺う。日賀はもちろん賛成のようで、部長の横井も同じ気持ちだった。

「では今日はもうお開きにしましょう。各自、自由に部屋に戻るなりここに残るなりしてください」

あまり会話に参加しない横井だったが、このように最後には彼の声でこの場が収められた。

今回の旅行で取ってある部屋は三つだ。一つ目の広めの部屋は、三年生の河ヶ谷、六宮、横井、一年生の前寺、星野の五人が使う。二つ目の部屋には三年生の日賀、一年生の栗原、西水。三つ目の部屋には二年生の岡村、相羽…そして本来はもう一人、同じく二年生の春川が使う予定だった。

しばらくしてまず、前寺が部屋の鍵を持って大広間を出た。そから次々と、他の部員たちも廊下へと出て行く。最後に残ったのは、相羽と岡村の二人だった。

「私たちもそろそろ戻る?」

壁の紙を見つめていた岡村に、相羽が話しかける。

「…そうね。ねえ、恵実は大丈夫?」

「大丈夫って?」

相羽は神妙な顔をして、岡村からの言葉をそのまま聞き返した。

「恵実はのどかとすごく仲良かったじゃん。もしもこの部の中に犯人がいたとして、さ…。なんていうか精神的に、色々」

「さっきの話し合い中にはそんな気遣いなかったじゃん。むしろ私に対して怖かった気がするんだけど」

恐る恐る相羽を気にかける岡村に対して、相羽は笑いながら率直にそう言った。岡村は「ごめん、あの時は気が回らなくて…」と申し訳なさそうに謝る。

「もし殺されたんだとしたら絶対に許せないけど、まずはこのリストを暴くことが優先だよ。そういう気持ちで香枝はさっきいたんでしょ。だったら仕方ないよ」

それから二人は立ち上がり、大広間を出て部屋へと向かった。春川がいない二人だけの部屋である。彼女が生きていれば、ここで一緒に泊まったのにという想いが脳内を渦巻いていた。


それぞれが色々な思いを抱いて夜を過ごし、漫画研究部旅行の二日目の朝がやってきた。

『この中の一人は、部内に好きな人がいる。 …西水』

誰かの手によっていつの間にかこの項目に西水の名前が記されていたことに一同が気づいたのは、朝食後のことだった。



※今回もご愛読ありがとうございます。もう今年も終わりですね〜。読んでくださる人によっては、この第七話で確信を持てた部分もあるのではないでしょうか? 「#黒影をあなたに」お待ちしてます。メリークリスマス 君鳥いろ

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