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黒影をあなたに  作者: 君鳥いろ
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第5話



栗原と星野がペンを取りに大広間を出たのを見送り、残された面々はそれぞれ足を崩したりした。そうすることで、先ほどまでの張り詰めた空気から一時的に解放された。

「あの二人、仲良いよなあ」

三年生の河ヶ谷が座ったまま腰の後ろの床に手をつき、足を伸ばす。

「確か瑠花ちゃんと星野くんは幼馴染だって言ってたよね。兄妹みたいでほっこりするなあ」

日賀が少し顔をほころばせた。同意を求めて岡村を見たが、彼女は西水の方を気にかけていた。

「ねえ、大丈夫?さっきからずっと俯きがちだし、なんだか虚ろじゃない?」

そう言われて西水は、はっと顔を上げて岡村と目を合わせる。それからまた視線を落としてから、申し訳なさそうに謝った。

「ごめんなさい先輩、私ちょっと眠たくて…」

彼女の言葉に何人かが時計を確認する。そして真っ先に河ヶ谷が、「まだ十一時にもなってないぜ?もう眠いのか?」と訝しんだ。

「あ…すみません…。あの、私お泊まりとか、お外で遊ぶのも今日が久々で…。久しぶりに、こんなにエネルギーを使ったというか…」

言いながら西水は、かけていた眼鏡を外して浴衣の裾でレンズを拭いた。彼女は眼鏡をかけた時とそうでない時で印象が大きく変わる。黒縁でレンズの分厚いそれは、元々内気で消極的な彼女の雰囲気をより暗く見せていた。

「でもさ、これって人狼みたいなもんだろ。そんなんじゃ怪しく見えんぞ」

気だるげな前寺が西水の顔を覗き込んだ。眼鏡をかけ直した彼女は、へこへことまた謝った。

「さっきもぼそっと言ってたけど、たしかに前寺くんの言う通り人狼みたいだね、これ」

「そうですね。役職とはちょっと違いますけど、一人一人が何に当てはまるか考えるところとか似てると思います」

「どのみち今日の夜は人狼ゲームしてたかもしれないし、ちょうど良かったかもねっ」

岡村と話しながら日賀が笑ってみせたが、その場の空気は和むことはなくただただ凍えたばかりだった。

「全然笑えませんよ、先輩」

冷めた目で後輩の岡村から見られ、日賀は背筋を伸ばす。それから気を取り直して真面目な表情に戻った。

「でも、人狼ですか…。今のところの会話は私と日賀先輩と星野くんで主に進めていた感じがしたので、他の人の意見も聞いてみたいですね。横井部長の口数が少ないのはいつものことですが、他の人はいつもの部会ならもうちょっと発言している気がします」

進行を務めていた岡村が、相変わらずの調子で話を戻した。名指しされた横井は肩をすくめる。その他の者たちが、次々に口を開きだした。

「俺は正直だるいし早く終わらせたいっす。だからこの紙を貼った人と、何か重要なことを知っている人は早く出てきてほしいです。それ以外の項目とかは興味ないしどうでもいい」

と、まずは前寺。続けて、

「私はのどかが死んだのが他殺だとしたら、その犯人と理由は突き止めるべきだと思うわ。私は犯人じゃないし、何も知らないし、この項目の重要なものには当てはまらないけど、自分が何に当てはまっているかはまだ言うタイミングじゃないと思う」

きっぱりと相羽は話した。

「言うタイミングじゃないっていうのはどういうこと?」

その言葉に引っかかりを覚えた岡村が彼女に質問する。

「わざわざ今この場で言うようなことじゃないってことよ。もし必要になったら言うけど」

「ふーん」

岡村はそれ以上は聞くのをやめ、次に先輩である河ヶ谷へと視線を運んだ。

「俺も悪いことはしてねえよ。相羽と同じように本筋に関わってないから言いたくもねー」

「私も…殺したりなんかしてないです…」

河ヶ谷の後に間髪入れず、西水が弱々しく主張した。六宮はさっき日賀との交際を宣言し、一応みんなから認めてもらったことで落ち着き安心している。残る横井に一同の視線が集まった。

「横井部長はどうですか?」

彼に対してもやはり岡村が問いかけた。横井は困ったように眉を下げながら、

「僕も何もしてませんし知りません…まさか旅行でこのようなことになるとは…」

と静かに答える。彼は年下の後輩にも敬語を使うタイプの人間のようだった。

岡村に名前を出された者以外はこれで一通り意見を述べ終え、特に新しい情報を得られることもなかった。そうしている間に星野と栗原が帰ってきた。「おかえり、ありがとう」と岡村に声をかけられ、星野は元の位置に座る。栗原は立ったまま、ペンを持って壁に向かった。


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