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黒影をあなたに  作者: 君鳥いろ
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第9話



「とりあえずみんな部屋に戻って準備して、予定通りお城の観光には行こう。バスもちゃんと元の時間のに乗りたいし。私はちょっと蘭ちゃんを探してくるねっ」

日賀はそう言うと、大広間を出て行った。残された者たちは顔を見合わせ、口々に、「誰が書いたのか」「いつ書いたのか」「本当に西水はこの中の誰かのことが好きなのか」「誰のことが好きなのか」といった疑問を発する。答えはすぐには見つからなかったが、少なくとも西水の反応からして、彼女に想い人がいるということは確かだと考えられた。

「日賀先輩の言う通り、とにかく部屋に戻って準備をしましょう。バスの中や観光中でもこの話はできると思いますし」

一同が大広間から出るように星野が促した。栗原がまずそれに従い、スリッパを履いて星野とともに階段へ向かう。それから次々に部員たちは廊下へと出ていった。部長の横井は難しい顔をして、ゆっくりと歩く。最後に大広間を後にしたのは、昨晩と同じく相羽と岡村だった。

「早速事件が起きたって感じだね。蘭ちゃんあの様子だと図星だろうし、誰が書いたんだろ」

「昨日最後にここを出たのは私たち二人でしょ?その後誰かが書き足しに来たってこと?」

「そうなんじゃない?私たちが部屋に戻った後か、今日の朝か」

「朝だとしたら、大広間への人の出入りは旅館の方がもしかしたら見てるかもしれないわね。後で聞いてみましょ」

「うん」

二年生の女子二人は、みんなの背中を追って階段を登り同じ部屋へと戻った。


一番に大広間を出た星野は、栗原を彼女の部屋まで送った。

「瑠花、部屋の鍵は持ってる?」

「うん。ありがとう」

栗原と同室の西水は、栗原が鍵を持っていたため、部屋の中には逃げていない。彼女たちの部屋と、相羽・岡村の部屋は階段を上って右に位置していた。対して星野たちの部屋は、階段を上って左だ。このフロアには他に客は宿泊しておらず、今は何も物音がしないため、西水や日賀は他の場所にいるようだった。

「聡くん、あの紙に書いてたことだけど…」

階段を上ってくる他の部員に聞こえないように、小さな声で栗原は身長差のある星野を見上げた。

「おかしいよね。分かってるよ」

優しい目で、彼は栗原を見つめる。

「でも、瑠花は本当のことも無理して言わなくていいから。お前だけは守りたいんだ」

「…ありがとう」

「瑠花の気持ちを明かさなくたって、犯人を突き止めて終わらせてみせるよ。だから心配しないでね」

「うん…。聡くんも、無理しないでね」

二人の間に流れる空気は、昨日恋人だと宣言した日賀と六宮よりもよっぽどそれらしかった。しかし、星野は栗原に対してはそれ以上の、家族のような愛情を持っていた。

階段を登りきった六宮や前寺たちが、親密に話す星野と栗原を横目で確認してすぐに視線を戻した。星野は栗原の元を離れ、彼らに合流する。栗原は一人で鍵を回し、その扉の向こうへと消えていった。星野は自分の部屋の前の廊下でそれを見届けた後、六宮に扉を開けてもらい、みんなで部屋の中に入る。

「なあなあ、西水が好きな相手って誰だと思う?」

扉を閉めてみんなが奥の畳に座ると単刀直入に、河ヶ谷は星野に切り出す。星野は「分からないですよ、先輩」と眉を下げた。

「先輩は何か心当たりがあるんですか?」

星野の質問に、河ヶ谷は生き生きと答える。

「何もヒントがねえけどよ、星野のことが好きだったら面白いなって思うぜ」

困り顔から呆れ顔に変わった星野の表情を見て、河ヶ谷はけらけらと笑った。そして「冗談だよ、お前には栗原ちゃんがいるしなあ」と肩を小突く。星野はムッとして、

「僕と瑠花は家族のようなものなんです。そういう関係ではありません」

と断言した。それからすぐに冷静な顔つきに戻り、いつものように流暢に話す。

「でもそもそも有力な候補は、僕と河ヶ谷先輩と六宮先輩と横井先輩と前寺ぐらいですしね。六宮先輩は日賀先輩と付き合っているとなると、こうであれば良いなという候補はだいぶ絞られますね」

星野の意見を聞きながら、六宮は頷く。前寺はその隣で大きなため息をついた。

「てかさ、誰が誰を好きだとか別にどうでもよくねーか?犯人と何の関係もないじゃねーか」

胡座をかきながらそう言う彼は、いかにも不機嫌極まりない様子だった。

「まあ、それはそうだけどさ。それだと一つも進まないだろ」

この二人は普段の活動からよく意見を対立させる仲だ。今回の旅行でも、そのようだった。



※今回もご愛読ありがとうございます。とても中途半端なところで終わらせてしまいましたが、お許しください。次回はついに十話ですね…!これからも応援よろしくお願いします。 君鳥いろ

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