1-1国際情勢についての簡単なレポート
最も古い記録によれば、エレフィアヴァントが植生侵食を始めたのは約四千年前という事になっている。その頃にはエレフィアヴァントも、数ある少数種族の一つでしかなかったが、徐々に勢力を拡大していき、幾つかの民族へと分裂しながらも、凡そ五百年前には現在の勢力図とほぼ変わらない範囲を支配するまでになった。
現在ではアレア大陸のほぼ全てを手中にし、南アレア諸島の全て、オウレイア大陸の一部にまでその支配地域を広げている。五百年もの長きに亘り、その広大な地域を支配しているのは「ルーマン帝国」。四千年前、当時五つあったエレフィアヴァント民族の内の一つ、ヴァルヴァロスがその始まり。現在では五つの民族のうち他三つがルーマン帝国に取り込まれ、エレフィアヴァントはほぼ統一されている。しかし残る一つの民族ルータが、「東アレア王国」として現在でもなお勢力を維持し、アレア大陸の一部を支配している。
これ程に植生侵食の規模を広めながらも、帝国は、その成立から現在までの約二千年間、新たな地域への侵食を行えていない。唯一新たに、凡そ二百年前にオウレイア大陸北西の一部へと進出しただけである。しかしそこは、所謂「死地」と呼ばれる地域であり、他の種族も住むことの出来ない捨てられてた土地である。帝国はそこへ半ば実験的に進出しただけであり、実際的な侵食には繋がっておらず、ただ土地の占有を宣言するのみに留まっている。
長きに渡り、ルーマン帝国が新たな植生侵食に芳しくない状況であるのは、無論それを望まぬ存在があり、帝国が他の諸勢力と拮抗した状態にあるからである。アレア大陸において絶対的優位にあるルーマン帝国であるが、他の大陸、エルリア大陸、オウレイア大陸、アムリレイア大陸、ロア諸島などにおいては、他の種族がその地位にある。ルーマン帝国をはじめとした五つの勢力が、其々の大陸において支配権と呼べるものを確立し、其々の力は拮抗していると言われているが、その内実、ルーマン帝国において問題となるのは二勢力のみ。山の民と呼ばれる種族「バシュガク」と、雑多な種族の連合体である「ゾク」と呼ばれる勢力である。つまり、「ルーマン帝国」、「バシュガク」、「ゾク」が五大勢力の三つを担っているのである。
バシュガクはアムリレイア大陸において最大の勢力であるが、主に山岳地帯と地下を住処としており、政治的な国家を成し大陸を支配しているとは言えない。アムリレイア大陸にはバシュガクの他にもいくつかの種族が住んでいるが、それぞれは干渉し合わずバラバラであり、バシュガクは大陸いおいて絶対的優位な種族ではあるが、ある種の自然状態が守られている。しかし、過去三度にわたるルーマン帝国によるアムリレイア大陸への侵食に対して、バシュガクは主だって抵抗し、ほぼ単一の力でのみルーマン帝国と戦った歴史がある為に、現在においてはバシュガクがアムリレイア大陸の支配権を握っていると見做されている。
それぞれの大陸は、大陸と云われながらも実際は陸続きになっている個所も存在し、それぞれの勢力は常に睨み合った状態となっている。現在においては過去の苦い経験からルーマン帝国とバシュガクとの間には停戦条約が結ばれているが、ルーマン帝国とゾクとの間では今なお小規模な紛争が相次いでいる。特にルーマン帝国がオウレイア大陸北西部の「死地」を実効支配してからは、大陸における諸種族はルーマン帝国への警戒心と懐疑を強めており、それによって現在進行形でゾクの規模と勢力は拡大し続けている。
ルーマン帝国による「植生侵食」とは、端的に言えば森林の拡大である。そもそもエレフィアヴァントは「植物」と「水」の力を司る種族であり、彼ら彼女らの目的は、全ての大陸を草木で埋め尽くすことにある。それは宗教的なものでもあるが、その根拠が彼に与えられた力だけにそれは疑われることはない。しかし時代の流れと状況の固定化によって、それが昔ほど重要視されなくなっているのも事実であり、エレフィアヴァントの中においても問題は複雑化している。
バシュガクがアムリレイア大陸において支配権と呼べるものを握っていながらも、実際的な支配をなさないのは彼らの特性に理由がある。バシュガクは主に山岳の洞窟や地下などの人目に付かない場所で暮らしている為に、その姿が陽のもとに晒されることは殆どない。バシュガクは「鉱物」と「土砂」の力を司っており、彼らが他種族と接触する際に見せる姿も本体ではなく身代わりの「泥人形」だと言われている。過去三度に亘り起こったルーマン帝国とバシュガクとの衝突においても、バシュガクの生身の姿を見た者は殆どおらず、そもそもがバシュガクにとっては防衛戦術であった為に、地の利を生かした戦いであった。そのために、バシュガクの勢力規模や構成人数についても殆どが謎となっている。
以上の状況を整理し言える事は、エレフィアヴァントによる植生侵食が下火になってから情勢は固定化されているが、各地域においてエレフィアヴァントへの警戒心は緩んでおらず、アムリレイア大陸において詳しい動きは不明であるが、アウレイア大陸においてはエレフィアヴァントを顕在的脅威とし、その帰結としてゾクの影響力は拡大し続けていると見ることが出来る。
ルーマン帝国内において侵食政策への関心が下火になっていることは事実ではあるが、依然として他大陸への植生侵食には右派からの根強い支持がある。
今後、ルーマン帝国において侵食政策がどのように傾くかは判断しかねるが、もしこの状態が依然と固定化され続けるならば、現在起きている以上の武力衝突は起きず、いずれ両者間の緊張も緩和される時期が来るであろう。
学部生のレポートってこんな感じな気がする