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マスコット、覚悟を決める

 太助たち潜入班はもぬけの殻となった洞窟内部を進んでいった。中はもっと暗いかと懸念していたが、洞窟内に付着している苔が発光しているのか、視界は割とクリアであった。なかなかに幻想的な光景である。


「こっち」


 大量の金貨があるという場所を知っているエルが三人もとい二人と一匹を先導する。とは言っても洞窟内部はそこそこ深く距離があったが、分かれ道はそれほど多くない。あまり枝分かれしていない洞窟なのか、かれこれ10分以上も歩いているが未だ分岐点が二度しか訪れなかった。


「拙いな……」


 ジンがぽつりとそう呟くのを太助は聞き取った。彼がそう思うのには理由がある。何しろ太助たちはこの洞窟の主である討伐難易度Aランクの化物、森の大蟹(フォレストクラブ)の留守を狙って潜入しているのだ。時間を掛ければ掛けるほど危険度は増していき、洞窟が単純な道であるほど帰り道で大蟹と遭遇する可能性も高まるのだ。


「嬢ちゃん、目的地はまだなのか?これ以上は危険だ」


「もうすぐ……あそこ」


 少女が指差した先には曲がり角があり、そこからは強い光が漏れている。どうやら目的地は更に光源が強い場所のようだ。


「あそこか……ウェズ」


「あいよリーダー」


 ジンの意図を察した探索職(シーカー)のウェズはエルより先行すると、忍び足で曲がり角へと近づいていった。そして暫く進むと足を止め、少しの間耳を傾ける動作を見せる。それが済むと再び忍び足でこちらへと引き返してきた。


「……中に大物がいる。さっき見た一番でかい奴と同サイズだ」


 どうやら目的地にも森の大蟹(フォレストクラブ)が一匹居座っているようだ。しかもそこにいるのは、さっき見た三匹の中でも一番巨大な蟹と同等以上の大きさだとウェズは言う。しかし見てもいないのに聞き耳を立てるだけでよく大きさまで分かるものだと太助は感心した。


「……釣るのは無理そうか?」


「無茶言うなよ!ここまでほぼ一本道だぜ?しかも距離がそこそこある。絶対逃げ切れねえって!」


「……だよなぁ」


 さっきと同じように一匹だけなら誘い出せないかとジンは提案するも、洞窟の構造上あの化物から逃げ切れるとは思えなかった。ジンは深い溜息をついた後、エルの方を見てこう告げた。


「悪いな嬢ちゃん、予定変更だ。このまま一旦外に戻るぞ」


「?あいつ倒さないの?」


「無理だ。この面子じゃあ戦力不足だ。気持ちは分かるがここは無茶する場面じゃない。一旦引き返して策を練り直そう」


 危険な地へと赴くことの多い冒険者は、時に進むか引くかの二択に迫られることがある。それを冷静に見定め、上手く取捨選択できる者が上へと昇れるのだ。


 ジンの判断は概ね正しい。Aランクの魔物相手に戦闘をするには明らかに準備不足であり、ここは一旦引いてもまた次回チャンスがあるかもしれないのだ。ジンでなくともほとんどの冒険者は引くことを選択するだろう。冒険者は生きて帰って来るまでが最低限の仕事なのだ。命を懸けてまで戦うのは騎士や傭兵の領分だ。


 だが彼は間違えてもいた。


 ジンやウェズは冒険者だが、エルはそうではない。何故なら彼女は―――


「困ってる人は見捨てられない。私は行く」


「ちょ、ちょっと待て!それは無謀だ!いくらなんでもおチビちゃん一人だけでなんて行かせられねえ!」


 ウェズの言葉にジンも賛同する。


「そうだぜ、お嬢ちゃん。また出直せばいいだけなんだ。今日は下見で十分だ。明日また作戦を立て直せばいい。それにここで死んでしまったら、それこそペルナ村の人たちはどうする?」


 ジンはペルナ村を引き合いに出してエルを説得する。人助けの為に少女が行動しているのだとしたら、その言葉で思いとどまるのではと考えたからだ。


 だが彼は思い違いをしていた。


「ペルナ村は助けたい。けど私もあそこには用がある。二人は先に戻って。奥のあいつは私とトビ助で倒す」


(なんと!?)


 まさかの指名に太助はギョッとする。どうやら彼女の中で俺が付いていくことは確定事項のようだ。本心から言えば、あんなおっかない化物を相手にするなど真っ平御免である。だがこの少女を一人で行かせるのも気が引けた。


「おいおい、勝算あるのか?Aランクだぞ?見ただろう?あの巨体に甲殻の硬さ。魔術ですら貫通できなかったんだぞ?」


「その為のこれ(・・)。小さいのなら叩き斬れる」


「実証済みかよ……」


 自慢げに斧を見せびらかした少女にジンは呆れていた。どうやらエルは既に小さいの―――つまりは子供の森の大蟹(フォレストクラブ)だろうか―――を相手取っていたようだ。恐らくその際に金貨を数枚くすねてきたのだろう。


「おいジン。あんまりのんびりしてると、他の三匹も帰ってきちまうぞ?」


「ううむ。だが……」


「安心する。私とトビスケなら勝てる」


(いやいや!どこにそんな自信あるんだよ!?)


 色々と文句を言ってやりたいが口を開いてもチュンチュンと囀ることしかできない。ジンや太助がどう説得しようかと考えている間にエルは一人で奥へと進みだした。それを見た太助は慌てて彼女の後を追う。


(ええい、くそ!マスコットは度胸だ!一度死ぬのも二度死ぬのも同じだ!やってやらあ!)


 幼い子を見殺しにするなどマスコットの沽券に関わる。始めから少女を見捨てる選択肢など太助には無かったのだ。一人と一匹が覚悟を決めて奥へと進んで行くのを後ろから見ていたジンは頭を掻きむしりながらこう呟いた。


「あー、くそっ!こりゃあ後でカーナから説教だなぁ……」


「ジン?」


 様子のおかしいジンにウェズは心配そうに尋ねると、彼は苦笑しながらこう返答した。


「ウェズ、お前は一人で先に帰ってこの事を他の連中に伝えろ。俺は……嬢ちゃんの子守だ」


「おいおいおいおい、冗談だろ?相手はAランクの化物だぞ!?無理だって!勝てる訳ねえ!」


「冗談なら良かったんだがなぁ……。知ってるだろ?俺の冗談は下らないから止めろって何時もカーナから小言言われてんの……今回はマジだよ!」


「だから笑えねえって!やるならせめてカーナやドアンを待てって……おい、ジン!」


 ウェズの制止を余所にジンはエルたちの後に続いていく。これ以上大声で叫ぼうものなら森の大蟹(フォレストクラブ)に気付かれてしまう恐れがある。ウェズは死地へと向かう三人を苦悶の表情で見送ることしかできなかった。





「よう、嬢ちゃん。待たせたな。腕の良い冒険者は要らないか?」


「助かる。ジンは左のハサミを相手して」


「……本当の本当にマジなんだな。分かった。だが無茶だけはするなよ?」


「だって、トビスケ」


(いや、君に言ってるんだよ!?)


 思わず心の中でつっこむ太助。


「止まって。これ以上は見つかる」


 エルもウェズ並に五感が鋭いのか太助とジンを制止させる。ここより先は相手の警戒網に引っかかるとの事だ。エルは小声で二人に話しかけた。


「私が突っ込む。次にトビスケ。ジンは最後」


「オーケイ。後“ジンさん”だ。目上の人には“さん”を付けるんだぞ?」


「……トビスケさん?」


(いや、確かに中身は目上だけど……。そういやあ俺ってこの世界では生後四日目になんの?それで化物退治させられるの?)


 異世界生活の何と過酷なことだろうか。だがこれもマスコットの宿命。年齢など関係が無い。一年目だろうが年季の入ったベテランだろうがチームの勝利の為、安い年棒で必死に働かせられ続けるのだ。ああ、何ともブラックな世界だろうか。もっとゆるいキャラ設定なら楽して働けたのだろうか。そこら辺に転がってるだけの見た目可愛いメタボ系マスコットが正直羨ましい。



「―――いく!」


 くだらない事を考えていたら突如エルが先陣をきった。この少女は本当に迷いがない。それにかなり行動的(アクティブ)だ。この世界の幼女は何とも逞しいものだろうか。


(エクスプレイズ魂見せてやる!万年Bクラスファンの強心臓を舐めんなよ!)


 自棄になった太助も少女へと続く。ジンも肝が据わっているのか臆することなく後に続き、鈍足なトビ助はあっという間に抜かされてしまった。


「キシャアアーッ!!」


 突如の侵入者に大蟹は立ち上がり威嚇をする。ギョロッとこちらを観察する不気味な視線に太助は若干ビビるも、他の二人は歩を緩めることなく相手へと迫った。


「たあああっ!」


 エルは大声で叫びながら巨大な戦斧を、右から左へと横一文字に振りきる。


(うん、見事なスイングだ。メジャーを狙えるな)


 冗談抜きにそう思えるほどの信じられない速度で巨大な戦斧は森の大蟹(フォレストクラブ)が繰り出そうとした右ハサミを薙ぎ払った。


「ギャアアアァッ!」


 まるで鋼鉄でも叩いたかのような甲高い音が響き渡る。エルの一振りは巨大蟹の親指(ハサミの付いた脚は親指と言うらしい)を叩き斬ることは出来なかったものの、その衝撃で間接でも折れたのか変な方向へと曲がっていた。


 だがまだ安心は出来ない。この巨大蟹、ただデカいだけでなく厄介なことにハサミが四つもあるのだ。すかさず右側にあるもう片方のハサミがエルへと襲い掛かる。重たい斧を振り切ったエルは隙だらけだ。


「チュチュチューン!!」

(させるかー!!)


 エルの気合の籠った一撃に感化されたのか、太助もやけくそだと言わんばかりの跳躍力で巨大蟹へと跳んだ。鈍足なトビ助であったが脚力やパワーが異常なまでに上がっており、走るよりも跳躍した方が断然早いのだ。


 一度は抜かされたジンを再び追い抜いた太助はそのままの勢いで巨大蟹へと体当たりをぶちかました。


「グギャアアッ!」


 これまたトラックが人でも刎ね飛ばしたかのような鈍い音が響いた。その音と衝撃に太助は一瞬、この異世界へ来る原因となった交通事故の光景をフラッシュバックするも、今は戦闘中だと自分を言い聞かせ妄想を振り払った。


 それに今回轢かれたのは自分ではない。相手の方だ。


 身体の体格的にはあちらがトラックでこちらが人の構図なのだが、どうやらこのトビ助、恐ろしいまでのパワーを秘めていたようで、全長5Mはありそうな巨大蟹を軽々と吹き飛ばしてしまったのだ。これには後から畳み掛けようとしていたジンも驚き立ち止まってしまう。


「お、おい!何なんだ、そいつ!?目茶苦茶強いじゃねえか!」


「トビスケ強い!」


(俺が一番びっくりだよ。なんだ、もしかして楽勝なのか?)


 そう油断していた太助の背後から突如叫び声が聞こえた。


「気を抜くな!あいつ何かしてくるぞ!」


 その声の主はウェズであった。彼はジンに戻るよう言われていたが、三人をそのまま置いて行けなかったのか後を追ってきていたようだ。彼は姿を見せるなり大声で警告をする。


 吹き飛ばされた巨大蟹の方へ視線を向けると、洞窟の壁面に埋もれながらも口らしき部分から何やら泡だてている様子が見て取れた。最初はあまりの衝撃に泡を吹いて気絶しているのではと考えたが、どうやらそれは太助の思い違いのようだ。


「―――!?全員散れ!」


 ジンの言葉に反応したエルは咄嗟に横へと跳躍をする。ジン自身も別方向へ転がり回避をするが太助だけは行動が遅れた。何と森の大蟹(フォレストクラブ)は口から泡を放出してきたのだ。太助はまんまとそれを受けてしまう。


(な、なんじゃこりゃあ!動けない!?)


 ただの泡と思いきや、なんとそれは急速に固まっていき強度の高いゴムのように変化してトビ助の身体を拘束してしまったのだ。力持ちのトビ助でも弾力性のあるゴム泡の拘束を解くことは難しいようで身動きがとれなくなってしまった。


「ちっ、厄介な攻撃をしてきやがる!」


 泡で相手を足止めし捕食する。それがこの森の大蟹(フォレストクラブ)の狩りの仕方なのだろう。距離を取ると不利だと感じたジンはすぐさま巨大蟹の左側を攻める。


「おら、蟹野郎!こっち向け!」


「キシャアアー!」


 ジンの連撃を鬱陶しいと感じたのか、森の大蟹(フォレストクラブ)は左側へと注力をする。


 だがそれは悪手だ。


「やあああ!」


 再びエルが斧を振りかぶって今度は縦に真っ直ぐ振り降ろした。


「グキャアアアアッ!」


 今度は脆い関節部分にキッチリ決まったのか、見事相手の親指を一本斬りおとした。これで右側のハサミは全て使い物にならなくなった。慌てた森の大蟹(フォレストクラブ)は残った左二本のハサミで今一番の脅威である少女へ対抗しようと向きを変えようとする。


 だが横移動こそ素早い動きを見せる森の大蟹(フォレストクラブ)も、それ以外の動きは然程機敏ではなかった。更に太助の体当たりのダメージも抜けきっていないのか少し弱々しい。重たい斧を持った少女の動きにさえ追い付いていけていない。更にそこへジンとウェズも参戦し、波状攻撃を畳み掛ける。


「うおおおお!」

「やってやる!俺だって……!」


 森の大蟹(フォレストクラブ)の硬い甲殻はなかなかに頑丈であったが、それでも徐々にダメージを蓄積していた巨大蟹は更に動きを弱めていく。そこへエルが止めだと言わんばかりに斧を振り降ろす。


「せいっ!」


「グギャアアアアアアアアッ!!!」


 脳天をかち割られた巨大蟹は今日一番の断末魔を上げた後、地面へと倒れ伏しそのまま沈黙した。どうやら完全に仕留めたようだ。


「お……おっしゃあああああッ!!」

森の大蟹(フォレストクラブ)を倒しやがった!信じられねえ!!」


「ぶい」


 少しだけ笑顔を見せたエルはドヤ顔でブイサインを太助へと送った。だが太助はというとそれどころではない。


(そんな事よりこれ、どうやって抜けだしたらいいの?)


 森の大蟹(フォレストクラブ)のゴム泡攻撃で一人身動きの取れない太助だけが勝利の余韻に浸りそこなっていた。





「おお!この袋の中にも金貨が入ってたぞ!」


「こっちにも高そうな宝石や魔石が入ってやがる!お宝の山だ!」


 森の大蟹(フォレストクラブ)を仕留めたジンたちは、邪魔者のいなくなった洞窟内部を散策していた。


 どうやらここが洞窟の終点のようで、エルの言う目的地になるようだ。今までの狭い通路と比べると若干広い空間だ。


 その空間には森の大蟹(フォレストクラブ)が食べ残した残骸や糞と思われるものが散乱しているが、それとは別に木製の収納箱や布袋、それに本棚といった明らかに人の手で作られたものも存在していた。しかも不思議なことにそれらの人工物は魔物などに荒らされた形跡が全く見られなかったのだ。


 それにおかしなことはそれだけではなかった。


「妙に明るいと思ったら松明まであるのか……」


「これ、多分マジックアイテムだぜ?ずっと火を灯していられる魔法の松明だ」


(何それ!?ちょっとした永久機関じゃないか!魔法ってすげえ!)


 ぜひ持って帰りたいと思った太助は松明を取り外そうとするも、岩壁に設置されたものを引っこ抜いた瞬間火が消えてしまったのだ。色々いじりまわしても全く点火する様子がない。それを見ていたウェズがこう呟いた。


「ああ、それ恐らくここの空間と魔術で連動していやがるな。松明だけ持って帰ってもただのガラクタだ。本棚や木箱が魔物に荒らされなかったのも魔術的な何かで守られているみたいだな」


「え?嘘だろ!?それじゃあ、このお宝も持って帰れねえってことか!?」


 ウェズの見解にジンは慌てふためく。折角命懸けで森の大蟹(フォレストクラブ)を倒したというのに、このままでは何も得られるものがないからだ。


 そこへエルが声を掛けた。


「大丈夫。金貨や本は持って帰れる」


「そ、そうか!そういやあ、お嬢ちゃんは実際に金貨を持って帰ってるんだもんな。ふぅ……焦ったぜ」


 そうであった。エルは少なくとも一度この洞窟に忍び込んで金貨を取ってきているのである。そのことを完全に失念していた。


「けど松明や本棚は持ち出せない。お爺ちゃんがそう言っていた」


「おいおい、本棚なんて持ち運ぼうとしたのか……って、お前の爺ちゃんもここに来た事あんのか?」


 エルの言葉にジンは質問を投げかけた。するととんでもない返答が返ってきた。


「ここはエルのお爺ちゃんの蔵。金貨も本も全てお爺ちゃんの」


 エルの爆弾発言にジンとウェズは二人して手を止めてしまう。それも仕方が無い。今まさに彼らは木箱や袋の中身から金目の物を持ち帰ろうと漁っていたからだ。それが他人の、しかも目の前にいる少女の祖父の所有物だというのに堂々と盗めるとしたら余程肝が据わっているだろう。


「……ええと、エルお嬢ちゃん?ここはお前の爺ちゃんの宝物庫だったのか?」


 恐る恐る尋ねるジンの言葉にエルはこくんと頷いた。


「ここはお爺ちゃんの蔵。その後魔物が棲みついた。お爺ちゃんは“門番に丁度いい”って言ってた」


 どうやら本当の事らしい。そもそもこの子がそんな嘘をつくとも思えない。だがこれで少しだけ納得がいった。エルのお爺ちゃんとやらは依然正体不明の存在だが、この洞窟に人の手が加えられている事も、そしてこの少女がやけにこの洞窟について詳しい事にも得心がいった。


 ジンは深い溜息をつくとこう呟いた。


「……よそう。盗みはしねえ。早くここを出よう」


「……だな」


 二人は見るからに気落ちしてしまう。それも無理はない。これだけのお宝の山があれば、おそらくペルナ村の分を救えるだけでなく、自分たちの懐にも報酬として余り分が沢山入ってくるからだ。だがそれが他人の所有物だとハッキリ分かると二人はそれを戻し始めたのだ。彼らは余程のお人好しなのだろう。


 ジンとウェズが自らの荷袋に詰め込んでいた金貨を戻そうとすると、それを不思議そうに見ていたエルがこう尋ねた。


「なんで戻すの?これで村の人助かるんじゃないの?」


「へ?い、いや……だって、なぁ?」


「流石に悪いだろ?これ、おチビちゃんの爺様のもんなんだろ?」


 顔を見合わせたジンとウェズがそう答えるも、エルはあっけらかんとこう答えた。


「別にいい。お爺ちゃんに何かあったらここの物、全部エルの物って言ってた。だから好きに使っていい」


「ま、マジか……」


「この子、聖人か何かか!?天使なのか!?」


 二人はエルに向かって両手を合わせてお祈りをするように頭を下げた。それをエルはキョトンとした表情で見つめるも、二人が回収作業に戻ると彼女は一直線に奥の木箱の方へと歩いていった。


「けど、これだけはエルの。お爺ちゃんがエルにくれるって言ってた大切な物」


 彼女がそう口にして指したのは、他の木箱より小さめで古めかしい小箱であった。


「ああ、勿論だ!他にも欲しい物があったら遠慮なく言ってくれ!ここにあるのは本来全部お嬢ちゃんの物なんだからな」


 ジンの言葉を聞き届けたエルは小箱を開けて中身を取り出そうとする。だがその小箱には鍵か掛けられているようでエルはそれに気が付いていない。少女の後ろで気になって見ていた太助は鍵穴を指差してエルにアピールをする。


「あ、そっか。これ使えって言ってた」


 何やら思い出したのか、エルはポケットから小さな鍵を取り出した。どうやらキチンと小箱の鍵をお爺ちゃんから受け取っていたようだ。カチリと開錠された音が鳴り響きエルは箱の蓋を開ける。そして中から出てきたのは―――


「……絵?」


(これは……写真か!?)


 そこには二人の男性と女性が写った写真が一枚だけ入っていた。

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