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マスコット、聞き耳を立てる

 ムントに家まで招待された二人は村長宅にお邪魔をしていた。本来ムントの父であるクアドというご老体が村の長を務めているらしいのだが、今は病気を患っていて寝たきりになっていた。息子の彼がその代行として現在村の運営を任されているのだという。


 村長に続いて奥さんと娘さんも紹介された。娘さんの名前はニミトという可愛らしい女の子でエルよりも少しだけ年下であった。二人とも最初はトビ助の風貌に驚いていたが、行儀よく座って大人しくしている俺を見ると安心したのか、ニミトちゃんに至ってはエル同様すっかり懐いてきた。これぞマスコット効果というやつだ。



「そうか、君のおじい様が戻って来ないと……お気の毒に。しかし、まさか森の中に人が住んでいたとは……」



 これまでの情報を整理すると、どうやらここはペルナ村という農村らしく、伯爵家が統治する村の一つだそうだ。エルが住んでいた森は村人曰く“北の森”というまんまのネーミングらしいのだが、森深くには恐ろしい魔物が棲んでいるという噂から誰一人入ろうとしない魔境なのだと聞かされた。森付近で暮らす村人でさえ普段は浅い所までしか踏み込まないのだそうだ。


(恐ろしい魔物?熊くらいしかいなかったようだけど……)


 それと最近見慣れない魔物の群れがやってきたとエルが話してはいるが、太助が実際に見た感想ではそこまで人外魔境という雰囲気ではなかった。


 そういえばその謎の魔物の群れだが、どうやらこの村にも悪影響を及ぼしているらしく、群れを避けた他の低レベルな魔物たちがこの村近くへと住処を移住させているのだとか。その所為で畑の農作物や時には人も襲われ始めているのだという。その上悪天候も重なり不作続きで、今ペルナ村ではかつてない程食糧が不足しているのだそうだ。


(ここでも食糧不足か……)


 これでは安心してエルを預けられることができそうにない。仮に提案したところで断られるのが目に見えている。尤もこの身体では満足に喋ることなどできないのだが……。歯痒い思いを抱きながらも太助は大人しく成り行きを見守った。



「うーん、しかし困ったなぁ。エルちゃんのことは放っておけないが、今は状況が状況だし……」


「あなた、何とかならないかしら?」

「パパ、エルお姉ちゃん一緒に暮らせないの?」


 奥さんと娘に説得されてムントは難しそうな表情をしながら考えを巡らせる。ムントとしてもいたいけな少女を放って置くのは忍びないが、村全体の事を考えると食い扶持が増えるのは避けたい。村長代行としては苦しいところだろう。だがそんな困った様子のムントを見かねたのか、エルが口を出してきた。


「……?私はここで暮らせない。やりたいことがある」


(やりたいこと?)


 それは初耳だ。どうやらエルには何か目標があるらしい。それが何なのか太助は大人しく話の続きを聞こうと耳を傾けていた。


 その時であった。


「―――村長はいるか!早く出てこい!」


 外から男の大声が響き渡った。その言葉にムントたち一家はギョッとする。どうやら声の主に覚えがあるようだ。


「あ、あなた……」


 不安そうな奥さんを心配させまいとムントは彼女の肩に手をかける。


「心配ない。ちょっと行ってくる。エルちゃん、くれぐれもトビスケ君を外に出してはいけないよ。姿を見せたら連中に殺されてしまう」


(え?何それ!?怖いんですけど!?)


 何やら物騒な言葉を残してムントは外へと出ていった。その言葉に興味を抱いたのかエルは奥さんやニミトちゃん同様、家の窓から様子を伺い始める。太助は見つからないように隠れながらも聞き耳だけはしっかりと立てていた。


「これはこれは徴税官様。よくぞ起こしに……本日は如何されましたか?」


 ムントの声に応じたのは下卑た笑い声であった。声の主は人を不愉快にさせる笑い声を上げた後、用を伝えた。


「私が来たという事は概ね察しているのだろう?当然税を取り立てに参った。すぐに用意をせい!」


 どうやら各村の税を集める役人でも来たのだろうか。笑い声からして他にも複数の人間がいるようだ。そちらは恐らく護衛あたりだろう。


「お、お待ちを!今期の分は既にお支払している筈です!何かの間違いではないでしょうか?」


「ほお?貴様……よもやこの私が間違っているとでも言うのかね?」


 徴税官の一言で場の空気が凍りついた。ここで返答を間違えるとムントの命が危ない。村人たちの誰もが固唾を飲んで状況を見守っていた。


「申し訳ございません。ですが、確かに今期の分は既にお納めをした筈。家に戻れば徴税官様から頂いた受領のサインもあるかと存じます。この度の件は何かの思い違いではないかと……。何卒、ご確認をお願い致します」


 ムントは震える声でそれでも徴税官へと訴えた。自分の命可愛さに税を払ってないなどと口にしようものならペルナ村全員が冬を越せなくなる。妻や娘の命には代えられない。ムントは自分の命を投げ打ってでも徴税官に税を支払い済みである事を告げなければならなかったのだ。


「ふむ、成程。おい、この男の言っている事は本当か?」


 徴税官は護衛の兵士に訊ねた。


「は!……確かにペルナ村は今期の分、既に支払い済みであると記載されております」


 その報告にムントや村人たちは胸を撫で下ろした。


「……そうか。本当に支払い済みであったようだな。これは部下が失礼した。許せ、村長」


「は!ははぁ!そんな滅相もないお言葉……」


 何とか事なきを得た。その時は村人の誰もがそう思った。だが、そうは問屋が卸さなかった。


「おや?しかし納めた収穫量が半分にも達していないようですが?」


 兵士のその言葉にムントは顔色を青ざめた。徴税官らしき男は再び嫌らしい笑い声を響かせる。


「ほお、ほお。量を誤魔化しておったか。これはいけないのぉ、村長」


「お、お待ちください!我々はきちんと言われた量をお納め致しました!何卒、今一度ご確認を……」


「ふう、お前もしつこいのぉ。おい」


 徴税官は再度兵士に確認をさせる。だが兵士から告げられた言葉は無情なものであった。


「ペルナ村は前期の1.5倍、税を支払っていると記載があります」


「そ、それでは……!」


 今期指定された税は前期の1.5倍となんとも無茶な量であった。普通に考えたらとてもではないが納められる量ではなかったのだが、領主に楯突いた村が焼打ちにあったという噂を耳にしたたムントは泣く泣く村の蔵を開けて万が一の備えからきっちり全額支払ったのだ。お蔭で今年は超節約生活を強いられている羽目になっていたのだ。そこまでしておいて税が未払いなどという世迷言など、到底聞き入れる訳にはいかなかった。


 だがそんな村人たちの考えはあっさりと踏みにじられた。


「やはり足りぬではないか。私は前期の(・・・)1.5倍の量と伝えた筈だ。確かこの村の前期は1,400納めている。そうであったな?」


「お待ちください!前期もその前もうちの村はずっと700ずつ支払っております!数が倍も違っております!」


「それはそうであろう。何せ諸君らは前期、前々期とまとめて納めているのだからな」


「な!?」


 徴税官の言葉にムントは今度こそ絶句した。確かに前期はその前の徴税分と合わせて二期分納めていた。だがそれは向こうが指示したことであった。


 丁度その時期は領主が新たに代わり、管理体制を変更させる間、納税を一時停止するよう村々へと伝えていたのだ。ペルナ村はその指示をきちんと守り、前期に二期分をまとめて支払ったのだ。


 つまりこの徴税官はまとめて支払った二期分の1.5倍を要求しているのだ。そんな量、村中ひっくり返しても払いきれる筈もない。


「それはあんまりです!今期は稀にみる不作続きで、これ以上の出費は本当に村が壊滅します!どうか御考え直しください!」


「くどい!約束は約束だ!不作で野菜が作れないのならば、物でも家畜でも売り払って金を用意するのだな!いいか?一週間後にまた取り立てにく来る。それまでに用意が出来ておらぬようなら、代わりに私がお前たちの家族でも売り払って金に換えてくれよう」


 そう死刑宣告に等しい言葉を言い残すと徴税官たちは兵を引き連れて村を去っていった。ムントはそれをただ呆然と見送る他なかった。




(……酷いな。まんま悪代官じゃないか。しかし、とんでもない場面に出くわしてしまった)


 徴税官が去った後、村の広場には村人たちが集まり出してあれこれと議論を述べていた。だがこれ以上作物やお金を捻出するなど到底不可能であり、話し合いは一向に進まなかった。一期分の1.5倍でも無茶ぶりだというのに、二期分の1.5倍の量を納めろというのだ。無い袖は振り様がなかった。


 徐々に村人たちからの意見が減り静かになると、一人の男が重い空気を割ってこう呟いた。


「……やはり、売り払うしかないのか?」

「おい!正気か!?」

「家畜を売ったところで足しにもならんし、確実に村は潰れる!」

「だからと言って家族を奴隷商に売り飛ばすなんて言語道断だ!俺は反対だ!」

「……けど!だけどよぉ……一体どうすりゃあいいんだよ!」


 このまま納める税を用意できなければ村は焼打ちにあうか村人全員奴隷に成り下がる。かといって身を切り出して売り払ったとしても先がない事など、少し考えれば誰にでも理解できる。いや、徴税官だけはそこのところを理解していないようだ。これでは後は領主に反旗を翻すくらいしか道が残されていない。



「トビスケ……この人たち困ってる?」


 聞き耳を立てていた太助の横でエルがそう尋ねてきた。


 困ってるか困ってないかと言われれば、目茶苦茶困っていると思う。太助は首を縦に振って頷くと、それを見たエルは広場にいるムントの方へと近づいて行った。


(ん?エルの奴、何をするつもりだ?)


 慌てて太助も後を追う。


「ムント、私、力になる」


(ド直球だなぁ)


 エルは口数が少ないというよりかは、ただ言葉を飾らないだけなのだ。他人と喋るのにまだ慣れていないというのもあるかもしれないが、美味しい物は美味しいときちんと口にする。つまり素直なのだ。


 まだ幼い少女に気を遣われたと思ったのか、ムントは作り笑いを浮かべるとこう切り返した。


「……ありがとう。けど、ちょっとエルちゃんにはちょっと無理かな。僕らは今、偉い人に納める食べ物やお金がなくて困ってるんだ。エルちゃんも食べ物がなくて困ってたんだろう?」


「……うん。エル、食べ物持ってない」


 エルは正直に答えた。そして―――


「―――でも、お金持ってる」


「「え?」」


 思わず聞き返した村人たちの注目を集めたエルは、ポーチの中をゴソゴソ漁ると一枚の金貨のようなものを取り出した。


「こ、これは……!?」

「おい、これって……西部諸国の流通金貨じゃねえのか!?」

「これ一枚で米俵三俵分は買えるぞ!?」


(おお!この世界にもお米があるのか!……じゃなくて!エルの奴、何やら大金を持っているな)


 しかも一枚だけではなかったのか、エルはポーチから二枚三枚と続けて金貨を取り出した。合計五枚、米俵に換算すると約十五俵分もの金額になる計算だそうだ。


「こ、こんなに……!」

「信じられん……」

「しかし、これなら!」


 村人たちの話を聞いている限りでは、どうやらこれだけでも不足しているようだが、半分くらいは納められる額だという。それにしてもあの徴税官、こちらの相場など知らないが、ぼったくり過ぎてはいやしないだろうか。


「……だが、これはエルちゃんの大事なお金だ。私たちの都合で使う訳には……」


 ムントの水を差す言葉に村人たちは黙り込んでしまう。そうは言うが村単位での危機とあれば、目の前の少女を殺してでもお金を奪い取る行動に出ても何らおかしくはない。遊ぶ金欲しさに家族すら殺害する。悲しいが現代日本では稀にそういった事件も起こるほどだ。


 だがここの村人たちは少女から金貨を受け取ることを良しとしない。かなりのお人好し集団なのだろう。


 そしてそれはこの少女も同じであった。


「あげる。困ってる人いたら助けろってお爺ちゃん言ってた」


「お、おお。何という……!ありがとう……本当にありがとう!」


 村人たちの誰もが少女の寛大な言葉に頭を下げて礼を述べた。エルは少し恥ずかしいのか困った顔で太助の方へと視線を投げかける。こういう時どうしたらいいのか対応に困っているのだろう。太助は羽根で優しく少女の頭をぽんぽん叩いた。


「し、しかしよぉ。これでも後半分……残りはどうするんだ?」

「やはり家畜は売り払うしかないか?」

「そんな!今後どうやって生活していけばいいんだ!?」


 まだ完全に解決とはいかなかった。どうやらあれだけの大金でも指定された額の半分しかないらしい。それほど徴税官に要求された額が異常とも言えるのだが、村人たちはそれに従う他道は無かった。


「お金、まだいる?なら、森にある」


 そこへまたしても少女は爆弾を投下した。


「へ?」

「今……何と?」


 聞き間違いかと思った村人たちは恐る恐る少女へと尋ね返す。それにエルは淡々と答えた。


「森の中に同じ金貨まだ沢山ある」


 ゴクリと誰かがツバを飲み込む音が聞こえた。


「そ、それは……一体どこに?」


「案内する」


 少女の言葉に村人たちは歓声を上げた。


「うおおおお!マジか!?」

「奇跡じゃ!神様が奇跡を与えてくださった!」

「この子は天使か女神か!?」

「すると後ろの珍獣は……もしかして聖獣?」


 何やら話がおかしな方向へと進み始めた。村人たちは泣きながら喜び合い、直ぐにでも森へ向かおうと準備を始めた。エルはというとそんな村人たちの様子が嬉しいのか笑顔であった。



「よーし!それじゃあ準備OKだ!」

「早速森へ向かうぞ!」

「おお!」


 ハンスという名の槍男はまだ治療中なのか姿は見えなかったが、先程エルにのされた男達は槍や鍬を手に持つと一斉に声を上げて拳を突き上げた。だが、それにエルは待ったをかけた。


「待って。……これだけ?」


「ん?これだけ、とは?」


 質問の意図が分からなかった男が少女に尋ねると、エルは先程までの笑みを消して真顔でこう告げた。


「それだけじゃあ皆死ぬ。人も武器も全然足らない」


 真実味を帯びた少女の言葉に村人たちは全員固まってしまう。いきなり全滅すると告げられればそれも無理はない。


 ようやくフリーズしていた思考を動かし始めたムントはエルにこう尋ねた。


「ええと、エルちゃん?君は……一体どこに連れて行こうとしているのかな?」


森の大蟹(フォレストクラブ)の洞窟。そこの奥にこれと同じ物がたくさんある」


 聞いたことの無い名だ。この世界特有の生物だろうか。太助と同様、村人たちも聞き覚えがないのか首を捻っていた。


「フォレストクラブ?魔物の名前か?」

「お前、聞いた事ある?」

「さぁ……」


 全く聞いたことの無い生物の名に村人たちは困惑の色を浮かべる。確かに魔物であれば恐ろしいが、そこに村の危機を救うための金貨があるのだとしたら背に腹は代えられない。だが少女の言葉を無視するのはあまりにも危険な気がするとムントの感が告げていた。そこへ―――


森の大蟹(フォレストクラブ)だと!?Aランクの魔物じゃねえか!」


 治療を終えたのか、ハンスがこちらへと歩み寄ってきた。どうやら途中から話を聞いていたようだ。


「Aランク!?」

「それって魔物の討伐難易度、最高ランクだったか?」

「馬鹿!最高はSランクだって」

「Sランクなんて伝説やお伽噺の類だろ。実質Aランクが最高だよ」


 どちらにしろAランクという高難易度の魔物相手では、こんなちっぽけな村など討伐できるだけの戦力も武器も持ち合わせているはずがなかった。北の森が魔物の棲みかで危険だと言っても、せいぜいEかDランクが関の山で、稀にCランクの魔物が出没すると大騒ぎになるレベルだ。Aランクなど、とてもではないが手を出せる相手ではなかったのだ。


「だ、駄目かぁ」

「畜生……」


 希望を絶たれた村人たちは見るからに気落ちしてしまう。それも仕方のないことかもしれない。


 だが少し待ってほしい。ならば何故この少女はこんな高価な金貨を持っているのだろうか。本当に無理ならば、何故少女はそれを知っていて、実際に金貨を持っているのだろう。


 そう考えた太助はエルから金貨を拝借すると、それを村人たちへと見せてアピールをした。


 すると思いが通じたのかムントが同じ考えに行き着いたようだ。


「ところでエルちゃんはどうやってその金貨を手に入れたんだい?」


 確かに、と村人たちはハッと顔を上げる。


「盗ってきた。森の大蟹(フォレストクラブ)は動きが単純。親の居ない間なら潜入できる」


「おお!」

「そうか!何も倒さなくてもいいんだよな?」

「いいぞ!希望が出てきたぞ!」

「よーし、やってやる!」


 さっきまでのお通夜状態とは打って変わって村人たちの表情は明るかった。どうやら一縷の可能性を感じたのか、村人たちは各々気合を入れ始めた。


「おいおい、飛んで来てみりゃこれは……一体何の騒ぎだ?」


「あ、ジンさん」


 するとそこへ村人たちとはあからさまに風貌が異なった集団がこちらへとやってきた。ハンスに負けず劣らずの体格に剣を腰に下げた男が話しかけてくる。他にも様々な武装をしている男や、中には女性の姿も見えた。


 総勢7人の一行がペルナ村の広場へとやってきていた。一行は村人たちの只ならぬ様子に訝しげな表情を浮かべていた。


「……誰?」


 新たな来訪者にエルは隣にいたムントへと尋ねた。


「彼らは冒険者パーティ<銀翼の狩人>のメンバーですよ。こちらがリーダーのジンさん。よくペルナ村に来ては魔物退治を引き受けてくれる凄腕冒険者です」


「ん?見たことねえ嬢ちゃんだな。俺はジンってんだ。よろしくな!」


「ん、エル。よろしく」


 エルは簡潔に自己紹介をした。見慣れない少女に挨拶をした後、ジンと名乗った男は後ろにいた太助へと視線をずらすとギョッとした。


「うお!?なんだ、この珍獣は!?」


「今更かよジンさん……」

「村に入る前から気が付いてたわよ」


 ジンと共にいた仲間たちは既に太助(トビ助)の存在に気が付いていたのか、彼ほど驚きはしなかったが何時でも迎撃できるよう武器に手を掛けており、鋭い視線を投げかけていた。どうやらかなり警戒されているようだ。太助も思わず身構えてしまう。


 そんな彼らの心情を汲み取ったムントがすぐさま間に入る。


「ま、待ってください。この魔物はこの子がテイムしたモンスターなんです。無害ですから、どうか手荒な真似は止してください!」


「うん。トビスケ良い子。とっても大人しい」


「お、おう?まぁムントがそう言うのなら間違いないんだろうけど……こいつ一体なんて魔物だ?」

「さぁ……見たことないわね」

「鳥類?にしては太っているような……。黄鋼怪鳥(デザートハンター)の亜種でしょうか?」

「砂漠に住んでる奴らだぞ?流石に違うんじゃねえか?」


 マスコットである俺の姿はこの異世界でも物珍しいのか、彼らはあれこれと正体を詮索する。だがトビ助とは架空の存在だ。いくら議論したところで答えなど出てくるはずもない。


 ただ一人エルだけは真理をついていた。


「トビスケはトビスケ。私の友達」


「はっはっは!嬢ちゃんの言うとおりだな。分かんねえこと幾ら考えても時間の無駄だぜ」


 ジンは豪快に笑い飛ばすとエルの頭をポンポンと叩いた。


(おのれオヤジ!それをしていいのは俺だけだ!)


 その様子にちょっとだけ嫉妬した俺はエルの肩を掴んで移動させると、負けじと羽根で頭を優しく撫でた。


「ん、気持ちいい」


「何だ何だ?この珍獣、もしかして嫉妬してやがるのか?」


(ああ、そうですよ。こんな荒っぽいおっさんに、可愛さ要素を詰め込んだこのトビ助が後れを取ろうものなら、マスコットの沽券に関わる。子供をあやすのは俺の仕事だ!)


 これでもかというくらいエルの頭をなでなでし続けた。だがちょっとしつこかったのか―――


「―――ん、トビスケ、邪魔」


(ガーン)


 ショックを受けた俺はそのまま地面へと両手(羽根)を付いて四つんばいになった。


 一方先程まで警戒し続けていた冒険者たちは二人のコントのようなものを見せられて、すっかり毒気を抜かれていた。


「あー、まぁこいつは置いておくとして……」


 ゴホンとジンはわざとらしく咳をすると、急に真面目な顔つきでムントへと話し掛けた。


「少し前に徴税官たちがここに来なかったか?ちと気になって様子を見に来たんだが……」


 ジンの視線の先には槍やら鍬やらを手に持ち武装している村人たちがいた。それを見たジンはこう呟いた。


「悪いことは言わねえ。反乱なんて馬鹿な真似は止せ。今の領主は本当に洒落が通じねえぞ?」


 どうやら盛大に勘違いをさせてしまったようだ。ペルナ村での騒動はまだまだ続く。

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