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マスコット、練習をする

ギリギリ間に合ったので投稿します。遅くなって申し訳ないです。

 トビスケ失踪事件の翌日、俺とエルの棲んでいる納屋の前には沢山のお供え物が用意されていた。


(え?何これ?)


 それは全て村人たちがトビスケに対して捧げたものであった。



 昨日の失踪事件で衝撃を受けた村人たちは、エルほどではないにせよ、それこそ村人総出に近い形で周辺を探索していた。だが懸命の捜索を続けるもトビスケは見つからず、肩を落として村に帰った村人たちは、守り神がいなくなった原因について話し合った。


「守り神様がいなくなっちまっただ!」


「ああ、なんてことだ!きっとこの村に嫌気が差してしまったんだ!」


「それもこれも、例の変質者の所為だ!」


「何とか許して貰わねば……。そうだ!お供え物を増やすというのはどうだ?」


「「「それだ!」」」



 そんな経緯でお供え物が増えていたのだ。



(うーん、食べるのに困っている村がこんな事していていいのだろうか?)


 まあこれで村人たちの気が済むのなら別にいいのだが、自分の為にあまり無理はして欲しくない。そう考える太助であったが、実はペルナ村の現状はというと、農作物はこれまでにない程の大豊作で、あっという間に村の食糧事情が改善されてしまったのだ。


 それを後で耳に入れた太助は“設定”を疑った。また自分の予期せぬところで設定が村に影響を与えているのではないかと勘ぐったのだ。だがいくら頭を捻ってもそれに関係あるような設定は出てこない。もしかして忘れてしまっているのだろうかと太助はその後も考え続ける。


 だがこれについてトビ助は全く関係が無く、実はエルの仕業であった。それを太助が知るのは、まだまだ先の話であった。



「よおトビスケ!お前、昨日はどこ行ってたんだ!?」

「ホントよ!私たち、かなり探したんだからね!?」


 ジンとカーナに絡まれる。それについては不可抗力だと弁明したかったが、詳細を伝える手段がないのと、彼らが捜している間、俺はゴブリンたちと楽しんでいた。その罪悪感もありトビ助はただ頭をペコペコと下げる他なかった。それを見た二人は思わず吹き出してしまう。


「ははっ、本当に変わった魔物だな。ま、これで俺らも一安心だよ」


「そうね。今度の戦いもアンタ頼みなんだからね!」


 そう、先の戦いからある程度時間は経過していた。もうそろそろ領主側も動いてくるはずなのだ。トビスケ失踪事件も無事解決し、<銀翼の狩人>は数名のメンバーを街へ偵察に出すことを決めたのだ。ウェズとケーリッヒが少しばかり村を離れることとなる。


 そしてやる事があるのは俺も同じであった。今度の戦いの前に確認しておきたい事が山ほど出てきたのだ。






「トビスケ、どこ行くの?」


 近くの森で少しばかり実験をしようとした太助であったが、道中エルに見つかってしまった。恐らく村を外れようとしたのを察知したのだろう。口の周りに食べかすが付いている。多分食事中だったのにも関わらず慌てて追って来たのだろう。


(これは俺の失態だな)


 先に少女へ声を掛けるべきであったのだ。昨日の今日で突如姿を眩ませば、また大騒ぎになってしまうだろう。


 俺はエルの口周りを丁寧に拭いてやると、身振り羽根()振りで少し出掛けてくると伝えた。


「エルも一緒に行く!」


 とくに断る理由も思い当たらず俺はそれに同意した。





 村の外れにある森の中へ来ると、俺は呪文を心の中で詠唱して魔術を発動させようとした。


 シーン………


 何も起きなかった。


「?トビスケ何してる?」


 エルもそんな太助を不思議そうに見つめていた。


(ううむ、やはりこの姿じゃあ駄目か……)


 人間の姿の時はあれ程簡単に使えたのに、トビ助の状態だと魔法が一切使えないようだ。恐らくこの姿では適性が全くないのか、才能がないのだろう。使えないのなら仕方がない。それが分かっただけ良しとしよう。それにトビ助形態であれば他に色々な事が出来るのだ。



 次に俺が検証したかったのは羽根から繰り出される熱風と冷風の件だ。



 右羽根で扇ぐと暖かい風が、左羽根で扇ぐと涼しい風が出る



 設定にはこうあるが、温かいとか涼しいとか、そんな生易しいレベルではない事を俺は知っている。あれはまさに地獄絵図であった。


 だが普通に振るっている分には何も起きない。あの時は熱風や冷風を強くイメージして放ったから起きたものだと推測される。もし仮にこの力を巧くコントロールできるのだとしたら、魔法に代わる強力な武器になるのではないだろうか。


 俺はエルに下がっているようジェスチャーをすると、一本の大木目掛けて右羽根で扇いだ。


 ゴウッっと炎を纏った熱風が大木へと襲い掛かる。前回ほど強力ではなかったにしろ、やはりどんでもない熱量であった。巨大な木はあっという間に燃え尽きてしまった。


(うーん、確かに強力だけど……これは人相手には使えないなぁ……)


 今回は地獄の夏合宿ではなく、炎天下で行われたトビ助サイン会のイメージで放ったのだ。一応球団サイドが冷風機などを用意してくれた為、夏合宿ほどの暑さではなかったが、何故あの季節に屋外でやらせるのか、俺は呪いの言葉を心の中で呟きながらも、子供たちに一人一人丁寧にサインを書いていった。


 どうやら夏のサイン会も威力があり過ぎるようだ。もう一つランクを下げて真夏の東北遠征の試合辺りをイメージするべきだろうか。


 俺がそんな他人には分からないだろう些事加減にヤキモキしていると、エルは目の色を輝かせて話しかけてきた。


「トビスケ凄い!魔術が使えるの!?エルは使えないから羨ましい」


(ん?そういえばエルは魔法使えないんだっけか?)


 彼女の話だと、お爺さんはかなり腕の立つ魔術師のようだが、エル自身魔術を使っている場面は一度も見たことがない。


 だがそれにしては解せない点がある。それは彼女のステータスだ。


 ちなみに現在のステータスはこちらだ。



 エル Lv23

 種族:翼人族

 称号:ペルナ村の救世主

 スキル:身体強化Lv5 魔力増幅Lv3 勇者の加護Lv4 テイムLv2

 ユニークスキル:【超耐性】【共感】【強化】



 またスキルが上がっている。勇者の加護というスキルがLv4に上昇していた。だが今回注目して頂きたいのはそちらではなく、魔力増幅というスキルだ。文字通りの意味ならば魔力を増やすというスキルなのだろうが、それなのに魔法が使えないとはどういうことだろうか。


 俺があれこれ悩んでいると、どうやら思いが伝わってしまったようで、エルがあっさり答えを教えてくれた。


「魔術は使えないけど魔力は使ってるよ。力を上げたり身を守ったり、魔力を使うんだよ」


 なんと、そういう仕組みだったようだ。確かに本をよく読んでみると、身体強化や魔術障壁なる技があるようだ。うっかり見落としていた。魔術を放つことはできなくても、魔力を動力源に能力を向上させる事は可能なようだ。


「それとね。これは皆には内緒だけど……トビスケにだけ教えてあげる」


 エルはキョロキョロと周りを確認すると小声で話しかけてきた。何だろう。彼女が周囲を気にする話題なんて。これが初めてであった。


 もしかして好きな子でも出来たのだろうか。ちょっとその小僧を呼んできなさい。お父さん、そいつと大事なお話があります。


「私、【強化】ってスキルを持ってるんだって。お爺ちゃん珍しいって言ってた」


(え?強化?)


 確かに彼女のステータスにあるユニークスキルの欄に【強化】というのは存在する。どうやら彼女自身もそれをきちんと把握していたようだ。


「それを使うとね、更にすっごくパワーアップするんだよ!これ、誰にも秘密だよ?」


 エルの言葉に俺は頷いた。どうやらその強化とやらが大人顔負けの彼女の力の根源なのだろう。しかしそうなるとその他のユニークスキル、【超耐性】と【共鳴】はきちんと認識しているのだろうか。


「チュンチュンチュチュンチュン?」

(他にスキルは持ってないのか?)


 俺は駄目元で尋ねてみるも、上手く通じていないのかエルは首を傾げていた。未だ完全な意思疎通は図れないようだ。多分テイムのスキルがもっとレベルアップすれば、会話もよりスムーズになるのかもしれない。




 結局エルのスキルについては未だ不透明なままで、俺は自分の技磨きに集中をした。その甲斐あってか多少は威力を調整しながら炎や氷を繰り出せるようになった。





 翌日、村に来客が訪れた。


「あんた達、何者だ?」


「今この村は戦時下にある。悪いが来訪の理由を聞かせてもらえないだろうか?」


 今ペルナ村の門番はハンス以外の若い村人たちが担当をしていた。見張りである村人たちがそう尋ねると、来訪者である男達は懐からカードのようなものを見せてこう告げた。


「俺たちはDランクの冒険者だ」


「ギルドの依頼で来た。そこを通して貰おうか?」


それは冒険者ギルドが発行しているランク証であった。彼らは正真正銘、冒険者であった。






「ジンさん、大変だ!」


「ん?どうした?」


 息を切らせながらやってきた若い村人にジンは尋ねた。


「それが……冒険者たちが村にやって来たんだ!」


「へぇ、成程ね。そろそろだとは思ったが……。目的は大方、魔物退治の依頼だろ?村に凶悪な魔物が出没したから捜索させろって言ってるんじゃねえのか?」


「な、何故それを!?」


 ジンの言葉に村人は驚いた。まさにジンの言うとおり、彼らは同じ様な事を口にしたのだ。


「それでランクは?何人で来たんだ?」


「えっと……数は5人で、全員Dランクだそうです。どいつも強面揃いで強そうでしたけど……」


「ふーん、Dが5人かぁ……。まぁ村の中に入れてやってもいいんじゃねえの?」


「え?だけど、連中は……」


 呑気なジンの態度に男は不安そうにするも、横でそれを聞いていたドアンが男の肩をポンと叩いた。


「大丈夫だ。連中が村人に手を出さないよう俺が目を見張っている。だから気にするな」


「いえ、そうじゃなくてですね……」


 男の不安は分かっている。彼ら冒険者の狙いは恐らくトビスケであった。村の守り神であるトビスケに万が一があってはならない。村人の男はそう考えるのだが、エルとトビスケの次に信頼の置ける<銀翼の狩人>のメンバーにそう言われると、それ以上強く反論できずに村の入口へと引き返した。




「お、やっと通してもらえんのか?」


「ったく、人が大人しくしてりゃあ、つけ上がりやがって……ん?」


「おい、アイツら……」


「ジンだ!Bランク冒険者のジンだ!<銀翼の狩人>のメンバーもいやがる!」


「あいつらもこの依頼を受けてやがったのか!?」


 ジンたち<銀翼の狩人>の姿を見た途端、冒険者たちは委縮してしまった。あのパーティの面子は最低でもCランク以上だというのは、ここら辺でも有名な話であった。長らくDランクで燻っていた男達にとって、彼らは格上の存在なのだ。先程まで村人たちに見せていた横柄な態度は既に微塵も感じられなかった。


(―――畜生!こんな美味しい依頼、すぐに受けようと急いでやってきたってのに……!なんでこいつらがもう居るんだよ!?)


 男達はレインベルの街にある冒険者ギルドから依頼を受けてここまでやってきた。受けたと言っても彼らにだけ依頼がまわってきた訳ではない。最近では珍しいランク無制限の討伐依頼であった。


 冒険者には成績や実力を反映したランクというものがあり、それに見合った仕事がギルドから割り振られるか、または冒険者側が己の身の丈に合った依頼を引き受ける。魔物にはそれぞれ討伐難易度というものが存在し、上は伝説級と呼ばれるSランクからA、B、C、D、Eランクと順に低くなる。


 ちなみに推奨討伐難易度は、Aランクの魔物相手にAランクの冒険者パーティといった塩梅だ。この前の森の大蟹(フォレストクラブ)退治が如何に無茶だったかが分かるだろう。



 話しは戻るが今回ギルドが提示した依頼の内容とはこちらだ。



【新種だと思われる魔物の討伐、またはその調査】

 依頼者:冒険者ギルド

 出現場所:ペルナ村

 報酬:討伐者には金貨10枚 有力な情報提供者には金貨1枚

 ランク制限:無し

 備考:大変狂暴な魔物で早期駆除を望む。目撃者から集めた情報によると巨大なスズメのような容姿をしている。


 それらの情報と共に張り出されていたのが、目撃者たちが描いたという魔物の人相書きだ。そこにはどうみても強そうには見えない間抜け面な魔物の姿が描かれていた。



 こんな美味しい依頼、受けない理由はどこにもないと考えた男達はろくに準備もせず大急ぎで村へとやって来た。間違いなく一番乗りだと確信をしていた。にも関わらず、目の前には自分たちよりも格上の冒険者パーティの姿が既にあった。もしかしたらあの間抜け面の魔物はもう倒されてしまっているかもしれない。冒険者達の誰もがそう思った。


「あ、あんたたちも例の魔物を狩りに来たのか?」


 恐る恐る冒険者の一人が尋ねると、ジンは隣にいるドアンと顔を見合わせた後、笑いながらそれに答えた。


「ああ、違う違う。俺らは別件だ。そんな依頼、受けちゃあいねえよ」


「ほ、本当か!本当にあの間抜け面な魔物を倒しに来たんじゃないんだな!?」


「お、おい!」


 迂闊にも口を滑らせた男に仲間は止めようとするも、ジンは気にした素振りも見せずにこう答えた。


「ふーん、間抜け面の魔物ね。そういえばそんな奴、さっきあっちの方で見たな。なあ、ドアン?」


「ああ、そうだったそうだった。黄色くて大きな鳥のような魔物だったなぁ」


 それを聞いた冒険者と村人たちは驚いて目を見開いた。冒険者たちは着いた早々ターゲットの情報が入ってきたことに対して、逆に村人たちは守り神であるトビスケの場所をあっさり吐いたジンたちに対して非難めいた視線を送った。


「感謝するぜ、ジンさんよぉ!」

「俺たちは仕事があるからこれで失礼する!」

「急げ!あっちだ!」


 冒険者たちはジンに感謝の言葉を送ると、慌ただしくジンの指差した方へと走り去ろうとしていた。


「お前達ー、気をつけろよー!」


 そんな彼らにジンは優しく声を掛けると、どうやら聞こえたのか彼らは親指をグッと立てて笑顔を返すのであった。釣られてジンたちも親指を立てて暖かく彼らを見送った。


「―――ちょ、ちょっとジンさん!何してくれちゃってるんですか!?」

「このままじゃあ俺たちの守り神様が討伐されちまう!なんで連中を通したんですか!?」


 村人たちはそんなジンを責め立てるも、そのやり取りを聞いていたのか、後ろからカーナの笑い声が聞こえてきた。


「あははっ、ジン。あんたも人が悪いわね?」


「ん?何がだ?俺は正直に答えただけだぞ?」


 おどけてみせるジンにカーナは腹を抱えて笑っていた。その様子を見ていた村人たちは、何が何だか分からずに困惑していた。それを感じとったジンはため息交じりにこう告げた。


「あのなぁ……。トビスケは俺たちが束になっても勝てねえんだぞ?Dランクの冒険者如きがどうやってあいつを倒すってんだ?」


「「あ……」」


 村人たちは失念していたのだ。守り神であるトビスケの実力を目の当たりにした村人はほんの数人程度であり、森の大蟹(フォレストクラブ)を撃退したり、領主の兵士を追い返したとは聞いていても、実際どこまで強いのかはあまり分かっていなかったのだ。


 そんなやりとりをしていると、森の奥から男達の悲鳴が聞こえた。先ほどの冒険者たちの声であった。そちらへ目を遣ると、大の大人が信じられない高さまで吹き飛ばされていた。悲鳴が途絶えると奥からエルとトビスケが何もなかったかのように帰ってきた。


「誰?このおじさんたち」


「ピュイ?」

(さあ?)


 ペルナ村は今日も平和であった。

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