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単調傀儡の案内人  作者: がおがお
7/8

勇姿亡き島

「ああもう、これだから他人に関わるのは嫌いだ」

「火種飛ばしたのは明らかに誠司くんなんだよなぁ」

 誠司とその案内人シュトラーゼは広い大地をひたすら全速力で駆け抜けていた。

 上空からはそれを余裕と言わんばかりのゆったりとした羽ばたきをしながらもこの世界シュメルツ案内人シュトラーゼ住人アングストらが追いかけ、時折速度を上げろと言わんばかりに鳥人の案内人シュトラーゼがビーム砲を放つ。怒りを通り越して遊ばれているというのは何となく分かってはいるのだが、逃げなくては命が危ない。

「どうしたらいいんだよアレ!」

「僕に聞かれても困るってぇ」

「とりあえず本出せ、あの本!」

「アレは壊されたらダメなんだってばぁ!こうなったら誠司くん、あの手を使おうかぁ」

「あの手?」

 案内人シュトラーゼは誠司を左側から少し追い越し、懸命に走るその肩を掴むと追い越した勢いを利用してそのまま誠司を回れ左にする。とてつもなく嫌な予感がした。

「おい、何やろうと……」

「まあまあ、ここは僕に任せてよぉ」

 嫌な予感以外何もしないのだが、なら任せようと誠司は案内人シュトラーゼにその身を任せる。案内人シュトラーゼはよし来たと誠司の肩をポンと叩くとふわりと宙にひとつまた高く浮かび、一気に加速して誠司を置き去りにして逃走。

 まさか自身の想像主トラオムを置き去りにして行くとは思ってもいなかったのだろう、誠司を取り囲みながらも鳥人らは呆気どころか愕然としている。

「この野郎……」

 そうつい出てしまった言葉に同情してか、先程までやりたい放題誠司にビーム砲を放ちまくっていた鳥人の案内人シュトラーゼが翼をたたみ、どんまいと言いたげな哀愁漂う表情で誠司を見つめる。

「ああいうやつははじめてみた。みすてられてやーんの!あはははは!」

「……」 

 誠司は暗い表情をしていたがそれを取り消し、鳥人らの笑い方と何よりその外見からは想像もしていなかったたどたどしい幼児特有の舌足らずな口調に真顔になり、それもまた笑いの火種となってか鳥人たちの声はより一層大きいものとなった。

(こいつら、やっぱりあの緋色ひいろって幼女の住人アングストだ。この清々しい感じ……間違いない)

 外と中がさっぱり一致しないこの鳥人をどうしたら説得でき、どうすれば無理矢理連れてこられたこの世界シュメルツから出られるのか。自身の案内人シュトラーゼは一人で逃げ、もうどこに行ってしまったのか行方も分からない。

 これはまさに袋の鼠、絶体絶命というわけだ。

「こいつどうする?」

「もういっぴきはにげちゃったし、どうしよう?」

「ボス、こいつたべれないでしょ?」

「おいしくなさそうだもんね、みたかんじせかいがちいさいしどうしようもないね」

 もうどうしようもないと項垂れる誠司をよそに、外見と使用言語の釣り合いがまるでなっていないおっさんの姿をした鳥人たち。声は幼女でおっさんの身体とは、身体が先に進化したと言うよりも中身が外見そとみと合っていないという事がイマイチ脳が受け入れないらしく、頭がぐらぐらする。

「おまえもたいへんだな!」

 がはは!と豪快に笑いながらも住人アングストたちは長である案内人シュトラーゼの指示の元、誠司を蔦を編んで作ったらしい縄で縛っていく。他人の世界シュメルツは夢のようにふわふわしたものだと思っていた誠司は、強く縛られた事による苦しさと痛みにこれは現実だと事実を示されているようでいたたまれない気持ちに突き落とされる。

(くそが、どこに逃げた……!あいつ見つけたらただじゃおかない)

 舌打ちする誠司をよそに、誠司を縄で縛り終えた鳥人たちはいっせーのの掛け声で翼になっている手腕で器用に自身の腹や足に巻き付けた縄を誠司を縛る縄と繋ぎ、どこへ向けてか歩き出す。

「どこ行く気だ?」

「しんにゅうしゃにはなすきはない」

 淡々と誠司の前を行く白肌に茶髪の住人アングストは答えたが、それが気に食わなかったのか周りで同じく誠司を連れて歩いていた住人アングストらは口々に騒ぎ始める。

「ちがう、しょうたいしたのはおさだろ?だからしんにゅうしゃじゃない」

「ちがうちがう、しんにゅうしゃだよ」

「おまえばかだろ、しんにゅうしゃじゃない!」

 さすがは幼女の世界シュメルツと言うべきか、ああでもないこうでもないと口喧嘩を始めてしまった。こうなってしまっては、通常保護者による仲裁が必要なのだが……生憎ここには保護者と呼べる者がいない。いたとしても案内人シュトラーゼの知能がそこまで高くはないということはこの口喧嘩をする住人アングストを見れば一目瞭然。

 静かにしろと例のビーム砲で黙らせるやり方をする姿しか浮かばない。

「なあ、お前が長……って言うか、ここを纏める案内人シュトラーゼなんだろ?早くこの喧嘩を止めろ、あと俺をどうして喚んだりしたんだ、教えろ」

「けんかはほうち、かってにしずかにするのをまつんだ。よんだりゆうはおまえがつみをつぐなっているけはいがしたからな、たいくつだったしあそんでもらおうとおもったんだ!」

「力加減の保証がない喋り方するおっさんと遊びたくないんだが」

「なまえでよべ!」

「うわっ!」

 言ってすぐに鳥人の案内人シュトラーゼは誠司に向けて威嚇するように間近で翼を大きく広げ、思いもよらない動きに誠司は驚きその場にへたり込む。

 自身の案内人シュトラーゼは自分を案内人シュトラーゼとしか名乗っていなかった為に、案内人シュトラーゼにはそれ以外の名前はてっきり無いとばかり思っていた。しかし、鳥人の案内人シュトラーゼ曰く、案内人シュトラーゼ以外にも住人アングストにさえ個々の呼び名が別にあるらしい。

「こころだからってなめるな、たましいはなくてもいきているんだ!」

 バサバサと羽音を騒がしく立てて誠司に必死にそう訴える案内人シュトラーゼの姿は、まるで過去にも同じように誰かに言われた事があるかのような、そんな悲痛な想いを抱いているかのようにも見える。

「……分かった、分かったから、いい加減ちょっと離れてくれ」

「わかった?ほんとうにか?」

「本当にだ」

「ふん……ならよし!」

 鳥人の案内人シュトラーゼはようやく誠司から離れると、本当に誠司が理解したと判断してか鳩胸ならぬただの胸……もはや巨乳と言っても過言ではない大胸筋を張り、これ見よがしに誠司に見せつけた後にその翼である手腕で胸をドンと叩くと勇ましいままに自身を語った。

「あたしのなはブラーヴ。てんかけるしはいしゃ、ここでいちばんつよくてかっこいい、ゆうかんなせんしだ!ほんとうはまなはいっちゃいけないんだからな、おまえにはとくべつだぞ!」

「その顔で一人称があたし……んんっ、何でもない」

 どう見ても中年顔で一人称があたしという中身が幼女だけでなくオカマ口調になっているという爆弾にどうにか耐えながら、誠司は本当は言わないという部分について詳しく聞きたいながらもこの案内人シュトラーゼ……ブラーヴの相手は疲れるからと後で自身の案内人シュトラーゼにでも聞こうと判断する。

(それにしても、あいつどこ行きやがった……。俺の案内人シュトラーゼなのにどうして想像主トラオムの俺を置いて我先に逃げた、俺のーー……)

 延々と自身の案内人シュトラーゼに恨み言を内心で吐きまくっていた誠司だったものの、そうして考えていくうちにはたとその理由をようやく理解した。

(俺が、そうするから……か?)

 嫌な事、面倒な事はできるだけ自分には来ないよう他者を盾にするように陰に隠れて過ごし、できるだけ目立たないようテストだって均等になるよう平均点に届くようにして過ごしている誠司。その感覚もあの案内人シュトラーゼが持っていたとしたら、それはあながち間違いではない。ただ、盾にしたのが身近にいた想像主トラオムである誠司だったというだけ。

「げんきがないな、そんなににしょくもちがきになるのか?」

「二色持ち?」

 誠司を馬鹿にしていたブラーヴではあったが、誠司が自身の案内人シュトラーゼについて考えているのを察してか大丈夫か?と首を傾げる。誠司はそれよりもブラーヴの言う二色持ちに反応し、ブラーヴはそっちか?という顔をしながらも頷いた。

「おまえのやつはしろとくろ、にしょくだろ?ああいうのをあたしらはにしょくもちっていうんだ。にしょくもちはふめいよのあかし、だからにしょくもちはあたしらのなかでもかとうなあつかいをうける……らしい」

「らしいってなんだよ、らしいって」

「にしょくもちはあたしのとこにはいないんだ。だからうわさしかしらないし、どんなあつかいだろうがあたしはみょうなことをしなければひどいことはしない。おじょうはそうしてる、だからあたしらもしない」

「お嬢ねぇ」

 オカマなのかそっちの道の人なのかおっさんなのか幼児なのか、個性の混合体にどうにかならないのかと頭を悩ませながらも、今はこうして縛られてはいるが鳥人たちは案外思っていたよりも優しいのだと誠司は会話を通して知る。

 こんなにも、仮にも自分自身の内面であろうが愛される世界があるのか。恵まれた環境だからこその感覚なのか自身が最初から持っていた感覚なのか、定かではないがきっとこれは世間的には素敵と賞賛されるのだろう。

「二色持ちってのはどうしたらなるんだ?」

「さぁ?あたしにはさっぱり」

 できるだけ気を緩ませてそのうちに逃げようとしていたがそうはいかないらしく、ブラーヴは住人アングストたちが持っていた 誠司の身体を縛る縄を束ね自らの身体に括りつけると数名の住人アングストに何かを指示して飛び立たせる。恐らくは逃げていった自身の案内人シュトラーゼを捕まえに行かせたのだろうがあの案内人シュトラーゼの事だ、巧みにかわしているに違いない。

 それよりも気がかりなのはブラーヴが言っていた二色持ちという新たな言葉。言われてみれば確かにここの世界シュメルツには髪の色が二色の者がいない。個体差はあるにしろ皆、何かしら暖色を中心として髪が一色に染まっている。

(あの真っ暗な俺の世界シュメルツとは違う、生き生きとした世界シュメルツ。それに二色持ちと言われる俺の案内人シュトラーゼと二色以上ではない案内人シュトラーゼ。似ているようで明らかに違う……)

 現実で生きる人間、想像主トラオム想像主トラオムの思考や願いなど、様々な物を固めて作り上げられた箱庭、世界シュメルツ世界シュメルツを統べ、一番想像主トラオムに近い形で具現化される世界シュメルツのほぼ全権を持つ案内人シュトラーゼ案内人シュトラーゼに唯一成り変われ世界シュメルツ案内人シュトラーゼ同様支えている住人アングスト想像主トラオムを害し、それにより世界シュメルツに生み出されてしまう想像主トラオムにとっても世界シュメルツにとっても案内人シュトラーゼにとっても住人アングストにとっても絶対的な悪であるという侵食プリュンデラー侵食プリュンデラーにより侵され負傷し、或いは喰らわれ堕ちた存在の虚無フォイルニス

 異国には異国の発音や言葉があると言うが、これらもきっとそれと同じなのだろう。

「とりあえず、おまえはりこうみたいだからなわをはずしてとじこめてやる。ありがたくおもえよ!」

 閉じ込めるにありがたいもクソもあるかと言い返したいが、中身は幼女なのでどうしようもない。そうして誠司がブラーヴに連れてこられたのは人が二、三人は入れそうな周りを積み重ねた岩で囲まれた木製の檻の前だった。

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