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単調傀儡の案内人  作者: がおがお
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天空の支配者

 開門ツェアファル――それは想像主トラオムの一番の理解者であり一番影響を受ける写し身でもある案内人シュトラーゼのみが行える、他者を自身の世界シュメルツに招く為の呪文。或いは言葉。痛みや苦痛を乗り越えて、または弾かれて、じわじわと固められた経験という土壌の上で成り立つまさに理想の場所……だから開門ツェアファルと呼ぶらしい。

 そうして召喚された誠司は、いつの間にか現れていた自身の案内人シュトラーゼである左右非対称に白黒のカラーリングをした大した名も知れぬ人物とその地を歩いていた。

「……おい」

 ジリジリと肌を焦がすような太陽の下、滝のような汗を流し歩く誠司と汗などこれっぽっちもかかずにふわふわと重力とは無縁な有様で宙に浮く白黒の案内人シュトラーゼ。見るからに暑いはずの服装のはずなのに汗が無いのはおかしい、暑がる素振りもないその体質を妬ましく思いながら誠司は横目で案内人シュトラーゼを見ながらうんざりしたように言う。

「あの詩は明らかに海とか町とか、雨とかそういうものに関係する内容だっただろ」

「そうだねぇ」

「これをどう思う? 」

 誠司は辿り着いた崖から、足を踏み外さないようある程度距離を置いた場所からその下を眺め、案内人シュトラーゼは面白い発見に胸をときめかせる子どものような笑みを維持したまま追って下を見る。

「感想は?」

「高いねぇ。標高どれくらいあるかなぁ?」

「違う」

 浮いている限りは到底無理だろうが今すぐに案内人シュトラーゼを崖から突き落としたい。標高云々というレベルでは予測不能なくらいに高い場所だというのは崖の下を覗いてすぐ見える雲で予想できる。そういう意味じゃないと下から上へ向けて吹く風に衣服をはためかせ、見入っていては落ちてしまいそうだと足場に気をつけながら数歩下がり誠司は案内人シュトラーゼにふざけるなと顔を近づけた。

「どう見ても海の欠片も無いだろ、これ」

「誠司くんがそう思うならそうかもねぇ」

「ひとつ教えてくれ、ここはあの依頼書出てきた奴の世界シュメルツか?」

「それは……」

 あははーと誤魔化すように案内人シュトラーゼは頭を掻きながら軽い笑いをした後、深くため息をついてはっきりと返す。

「違うねぇ」

「だよな?」

「依頼書とはまた別の案内人シュトラーゼが僕らの状態に気づいたのか強制的に飛ばしたみたいだねぇ」

「依頼書無しに出来るのか?」

想像主トラオムが心を大っぴらに開いているとね、依頼書とかが無くても案内人シュトラーゼが他の人を招き入れる事が出来るんだぁ。僕が誠司くんをお呼びしたみたいにねぇ。それにしてもこれは……飛ぶ系の世界シュメルツかなぁ」

 どこをどう見回しても見えるのは空、そして空浮かぶ大陸の数々である。一定の距離を置きながらも転々と浮かび風に漂う大陸の様子は水面に垂らした浮きのようで、一部の大陸からは地上に向けて大量の水が滝のように流れ落ち、陽の光に反射されて綺麗な虹を描いている。豊かな森がある大陸もあれば、砂だらけの砂漠にも似た大陸、延々と湧き出しているのか一定の水量を保ったまま水だけを排出する大陸、家のような樹の皮や蔦で出来た建造物しかない生活感あふれる大陸など、その種類も様々だ。

「いかにも自然って感じぃ?」

「こんな大自然しかない世界シュメルツを持った想像主トラオムもいるのかと思っただけだ」

「素直じゃないんだからぁ、綺麗って言えばいいのにぃ」

 案内人シュトラーゼはそう言って誠司の小脇を肘でつつき、誠司はやめろと瞬時に死んだ魚のような目で反撃をするでもなく淡々として言う。

案内人シュトラーゼみたいなのはいないな」

「そうだねぇ。もしかしたら案外、すぐそばにいたりしてーー……うぎゃっ!」

「おい!」

 一歩下がった位置から悠長に話をしていた案内人シュトラーゼが突然物凄い勢いで上空に突き上げられるようにして何かによって吹っ飛ばされた。何かしようにも誠司には上空まで行く手段も翼も無く、ただ呆然と間抜けな声を出しながらそれに見合わぬ速度で落下してくる自身の案内人シュトラーゼを見ている事しか出来ない。

 一体何によってこのような状態にされてしまったのかとふと空を見上げると、逆光を浴びながら翼のシルエットを抱く人影が誠司の真上を飛行しているのが見えた。

「なんだ、あれ……」

 その影はよく見れば一つだけではなく、目を凝らしてみれば少し前まで見ていた雲の中、各大陸、そして空、あちこちにいたのだ。

「あれがここの住人アングスト……と言うよりも、鳥人みたいだけどねぇ」

「相手は女か……」

「いやぁ、それは違うよ」

 逆光で姿を確認したとはいえ、明らかに胸部が発達していた。そこから推測し女人だと認識していた誠司は案内人シュトラーゼの否定に振り向く。

「あれは女だろ?どこからどう見ても、ただの……」

 その時、ちょうど急降下し誠司の真横を通過した鳥人の姿をはっきりと目で確かめた誠司は真顔で青ざめる。

「なんだあれ」

「鳥人」

 違うだろそうじゃないだろ!と誠司は見てしまった鳥人を指差しながら絶句する。

 女人だと認識する鍵となった発達した胸部はよく鍛えられた筋肉で、他はどう見てもただのおっさんなのだが誠司のよく知るおっさんと違うのは両腕に備わる空高く飛ぶ為に発達したのであろう大きく逞しい翼と羽毛の生えた耳だ。手腕に代わりそこにある翼が無ければただの人間であったであろう翼に白髪の混じった黒髪、彫りの深い顔にある皺、外見的に言うなら五十代くらいの年齢の俗に言う加齢臭嗅ぐわうおっさん……の姿をした筋肉の発達具合が著しい鳥人。

各大陸にいるのは全ておっさんの外見をした鳥人で、顔や肌の色、髪の長さや量など個体差があるが女性の鳥人の姿は見る限りどこにもいない。

「おっさんが飛んでる……」

「あれは世に言うイケおじってやつだねぇ。小太り平均収入低身長加齢臭パワハラセクハラモラハラハゲとは全く異次元の女性の理想の具現、物理で解決する筋肉。高収入高身長いい匂いのするハラスメントは無いのにさりげに口説いちゃう憧れの的、マッチョおじさんだねぇ」

「そこまで世のおっさん敵に回すな」

 誠司がそう忠告すると、案内人シュトラーゼはしたり顔で笑い、袖で口元を隠し古の貴族のように笑う。

「おやおやいいのかい?僕は誠司くんの知る言語でこのイケおじパラダイスと街に蔓延る自称イケおじ(笑)を並べたんだけどなぁ。自我の擦り付けよりも相手の心情を見る、それが本当の紳士だって」

「少し黙れ」

 一人キャッキャと住人アングストを見つけたという安心感からかはしゃぐ自身の案内人シュトラーゼなどよそに、誠司はマッチョが空を支配するこの個性が濃すぎる世界シュメルツを持つ想像主トラオムについて考える。依頼書を送ってきたのは誠司の憶測では言葉ことはの弟……兼妹の深宙みひろ。だとしたら、見るからに物理耐久のありそうな住人アングストを生み出したのはやんちゃな遊び盛りである双子のうちのもう一人の妹である緋色ひいろだろう。

 言葉ことはは所謂皆が憧れ慕う何でも出来る子、出来てしまう子。そんな言葉ことは案内人シュトラーゼがまさか依頼書を出すようなヤワなわけが無い。むしろ、そんな言葉ことは世界シュメルツがこれ程までに壮大でカオス極めた物だとは到底思えないし、正直思いたくない。

(よりによって、どうしてあの幼女がこんな筋骨隆々のおっさん従えてるんだよ。空飛ぶムキムキの洋顔のおっさん……いや、需要は無くもないのか)

 ツッコミはいいにしろあくまでも他人は他人。自分の価値観でその価値について善悪の割り振りをしてはいけないと頭を左右に振り思考を散らした誠司は、どうすれば自由自在に飛び回る住人アングストたちを自分たちが今いる場所まで誘導できるのかと考える。

 第一、捕獲するとしてもあの体躯をどう押さえれば上手く大人しくさせられるというのか。

 宙に浮かべるらしい自身の案内人シュトラーゼでさえ、案内人シュトラーゼより力の弱いという住人アングストのタックルにされるがままに空高く突き上げられていたのだ。その威力は傍にいたからこそ理解でき、だからこそその攻撃を受けるわけにはいかない。

「何か手はないのか?」

「僕に思いつくはずないでしょ~?僕の知識は誠司くんに委ねられてるって言ったでしょう、誠司くんに分からないものは僕にも分からないんだってばぁ」

「飛んで捕まえたりは?」

「僕はあくまでも飛行できるフォルムじゃないからあんな馬鹿みたいな高度まで飛べないってばぁ」

 今は上空に留まり円を描くように飛び様子を伺っているようだが、案内人シュトラーゼだけでなく想像主トラオムたる自分がいつ狙われるかは分からない。それに、この世界シュメルツ案内人シュトラーゼに会わなくては元の世界に戻る事も叶わないのだ。

(何か武器さえあれば……。武器?武器が必要……。そうだ、アレがあるじゃないか!)

 考えろ、考えろ、脳に血液を回せ、今出来る最善の策を練れ、今しか出来ない抵抗を考えろ、怠惰を先に回すなとどうにか冷静のまま踏み止まる為に誠司はそう復唱し、はっとある案を思いつく。それは自身の案内人シュトラーゼが見せてくれた物、大切だと言っていた最終兵器らしき本だ。

 ただの本といえど、あれは使用していた所を見るにどうやら自分がこれまでに得た知識を詰めた本らしいそれなら、素早く飛行する対象を捕獲する知識も載っているのではないのか。そう辿り着いた誠司はあらまぁと空を見上げる案内人シュトラーゼに言う。

「あれは使えないのか?」

「あれ?あれって……ああ、あれかぁ」

 さすがと言うべきか、誠司が言いたい物をすぐに察した案内人シュトラーゼはそれもありかと獣耳をぱたつかせたものの、なかなか本を出そうという素振りはせずそうだねぇと肯定するだけで動こうとはしない。

「出さないのか?あれがお前の武器なんだろ!」

「確かにあれは僕にとっては武器たる代物だけど、だからって所詮はただの本。使える箇所だってたぶん角だよ?命を削る最終兵器だよ?」

「俺はあいつらの誰かを捕まえて脅したいだけで確実に致命的な傷を与えたいわけじゃない」

「うん、知ってるよぉ」

 唯一武器と呼べるであろう物がありながらもいざそれを出すように言えば渋る案内人シュトラーゼの様に苛立ちを覚えた誠司は、もういいと言わんばかりに案内人シュトラーゼの肩にわざとらしくぶつかりながら前に出て住人アングストらを煽るように侮辱する。

「この筋肉馬鹿!どうせ物理でしか解決できないんだろ?悔しかったら物理でしか解決できないようなその身体、改造手術でもして来たらどうだ!ああ、でもあれか?ダチョウとか鶏なんかは鳥頭なんて言うし、同じ鳥のお前らも散歩歩くどころか三回羽ばたいたらぜーんぶ忘れるんだろ?なぁ?悔しかったら捕まえてみろ馬鹿!加齢臭してるとか自覚してんのか?」

「誠司くん……」

「やれるもんならやってみろ、どうせお前らの想像主トラオムなんて大した事ないんだろ!?」

「誠司くんそれはダメだ!想像主トラオムを侮辱するのは一番やってはいけない悪だ!喧嘩を売るのと侮辱は違う!」

 一歩後ろで誠司が散々言いたい放題鳥人を煽る様子を見ていた案内人シュトラーゼは、誠司が鳥人らの想像主トラオムを侮辱する言葉を並べ始めた所で咄嗟に誠司の口を後から塞ぎにかかる。悠長にしていたあの案内人シュトラーゼが殺意に満ちたオーラを纏いながらも自制しようとしている事が誠司をそれ以上喋らせまいとする手から伝わり、やってはいけない事をしたのだと誠司は自覚し口を噤む。

 しかし、それでも誠司が好き勝手に煽った言葉は住人アングストらの怒りを見事に買ってしまったらしい。上空では地響きが起きる程の怒りの雄叫びを住人アングストらが上げ、目は明らかに先程以上にぎらついていた。

「あーあ……あれはやばいやつだぁ」

「やばいやつだぁじゃないだろあれ、ミンチにされる……」

「原因は明らかに誠司くんなんだけどねぇ。でも僕もあんなムキムキのイケおじにミンチにされちゃうのは御免だよぉ」

 こうなったらもう、できる事は一つしかないよなと誠司と案内人シュトラーゼは顔を見合わせる。

「「逃げる!!」」

 やってられるかと回れ右で走り出した時、細い一筋の光が二人の数歩前に差し、それはまるで地面を抉るようにジリジリと焦がす。

 刹那、カッと光に焦がれた地面が光ったかと思うと、ドォオオンと凄まじい威力で爆発したではないか。目の前で起きた爆発だったが、誠司は攻撃に気づいたらしい案内人シュトラーゼが咄嗟に庇ってくれた為無傷で済んだ。案内人シュトラーゼ案内人シュトラーゼで誠司を抱えて数歩だけでも逃げた為に爆発の直撃を免れ擦り傷程度で済んだようで、爆発や怪我よりも衣服が汚れた事を気にしていた。

「い、今のって……」

「ビームってやつぅ?」

「なんでビームなんて撃てるんだ!あいつらはビーム銃とか持てないだろ!」

「うん、だから……ほら」

 案内人シュトラーゼが指す方を見れば、住人アングストの中でも極めて大きく古傷が多い白髪褐色肌、羽を模した装飾品をあちこちに散りばめられた外見年齢四十五歳くらいの男が口を大きく開き、大きく光られたその口の中では小さいながらも鈍く光る小さな玉が見えた。

 その姿から先程のビームはそうして放たれたものだろうと察し、加えてそれを武器としているという事は彼こそがこの世界シュメルツ案内人シュトラーゼなのだと誠司はその姿を目に焼き付ける。

 手腕が翼で出来た彼らの武器、それは逞しい筋肉など塵に帰すような破壊力を誇るビーム砲だった。

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