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単調傀儡の案内人  作者: がおがお
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恵まれた子

 案内人シュトラーゼに言われるがままされるがまま、現実世界に戻って来た誠司は放課後になるまでずっと依頼書の内容とそれを出てきた依頼主の案内人シュトラーゼについて考え続けていた。

 世界シュメルツの構成自体は海に沈んだ町、または元は町だった海。そうしてしまった一番の原因である星屑というものが何かはまだ解明できてはいないが、町を海で埋めてしまうだけの雨を降らす悲しみを抱いた人物だという事は分かってきた。しかし、案内人シュトラーゼ曰くそれだけでは足りないと言う。

(一体何が足りていないんだ……)

 わしわしと髪を掻き乱し、イライラを打ち消すようにして机に伏せる体勢をとった誠司だったが、ふと自身に視線が向けられているような気配を感じて扉の方を向く。

「……え、あ……起きてた?」

「起きてたって言うか……最初から寝てないだけだ」

 慌てふためきながらも去る事なくそこに立つ人物に何をしているんだと言いたげな目を向けると、おどおどしながらも緩いカールのかかった栗色の髪を青いリボンで高くひとつに纏め、制服は学校指定のままながら黒のニーハイソックスで少々上品さを増した女子生徒が姿を見せた。

 彼女の名前は時雨言葉しぐれ ことは。お淑やかで大人しく、上品で凛々しい、両親が金融機関の務めである事もあってか幼少の頃から習い事に通い文武両道、容姿端麗を極めたクラスのマドンナ的存在である。所謂生まれながらに裕福な家庭で育った恵まれた子、というのもあり中には彼女を毛嫌いする輩もいるが「人が万いれば少なからず嫌いなものがあっても仕方ありませんよ」とまるで神の後光に照らされているような発想をし、一定数の男女から人気を得るスーパーガールだ。

「どうかしたか?」

 そんな個性をあちこちからかき集めて継ぎ足したような人物に声をかけられるとは思ってもいなかった……というよりも興味すらなく忘れかけてさえいた誠司がそう言うと、言葉ことはは呆れた表情をしながらも数秒で切り替え、コホンと咳払いをする。

「先生が起こしてこいって言うから起こしに来たんだよ。教室閉めなくちゃいけないのに寝ているから……だから来たの」

 閉める?教室を?と不思議に思った誠司が入口の壁の真上に掛けられている時計を見ると既に時刻は下校時刻とされている17時半をとうに過ぎており、早くも19時になろうとしていた。

(でも待て、仮に俺を見に来る為とはいえ、どうして時雨はまだこんな時間になっても残っているんだ?)

 いくら何でも下校時刻はとっくに過ぎている。それは見れば当然分かる事で、さすがに教師も黙ってはいないはずでは。そう思い声にしようとした誠司だったが、答えは簡単だった。

「生徒会があったの。今日は特に話し合いで時間がかかっちゃったから……今終わったところだよ」 

「そうか、じゃあ帰る」

 このまま話をしていてもただ時間が無駄になるだけ。そう判断した誠司はゆるりと立ち上がり、さっさと机に押し込めていた教科書を通学カバンとして使用している黒いリュックに押し込めていく。対する言葉ことはは既に帰る支度はできていたようで、既に青いリュックを背負いじっと誠司が支度をするのを眺めている。

「先に帰れ、後は鍵とか俺が返しておくから」

 待ってくれているとはいえ、さすがにじっと見られているのは水槽にいる魚になったようでいい思いはしない。鍵だけ渡してくれと手を出したがあっさり「私がやれって言われているからいいです」と却下された。

「さて、支度できたぞ」

「じゃあ行こう。早く行かないと妹たちに怒られちゃう!」

 教室を出て鍵をかけ、さあ職員室に届けようというところでふいに言葉ことはが駆け足で廊下を走って行く。ぼんやりとそれを見ていた誠司ははっと我に返り後を追うが、思いの外言葉ことはの足は誠司よりも早くあっという間に置いていかれてしまった。

(……先に帰ろう)

 一人廊下に残されてしまった誠司が仕方ないと職員室へと向かっていた身体を回れ右で昇降口に切り替えると、遠くの方から微かにトタトタと靴とはまた違う足音が聞こえてくるではないか。

「ん?」

 足音に耳を傾けると、それは徐々にこちらへ目掛け走っているのが分かる。加えて、足音はどうやら一つではなく二つ……つまり、下校時間を過ぎた校内に靴を履かずに彷徨いている輩が少なくとも二人いるということ。トタトタという拙い足音は、聞いているうちにトタトタという足音とドタドタという足音の二つに分かれ、明らかにドタドタという足音がトタトタという足音よりも早くこちらに近づいてきている。

 電気もろくに灯されていない、日の暮れた薄暗い校舎内。夕暮れ時から夜に染まる時間、そんな時間に足音が響くとなると低学年時によく流行った学校の怪談や七不思議を思い出す。あれやこれやと正体を考えながらもまあ人間だろうと淡々とした答えを想像しながら待ち受けていると、暗闇から現れたそれは助走をうまく生かした大ジャンプで誠司に跳びかかる。

「おねーちゃーん!おねーちゃんおねーちゃん、むかえにきたよおねーちゃん!おそいからきてあげた!」

「……は?」

 それはあちこち顔や身体に絆創膏や包帯、生々しい傷の跡を残したガキ大将のような幼女だった。

 前髪をウサギの髪留めで上げ、黒いスカートの中にスパッツを履いた幼女は好き放題誠司を「おねーちゃん」と連呼し、キャッキャと騒ぎ立てる。

「だめだよひーちゃん、みーくんがひーちゃんみててって、ねーねにいわれたのに……っ、ねーね、の……っ、おはなし、まもれ、ながっ……うっ」

 途中鳴き声になりながら野獣のような幼女に次いで暗闇からこそこそと姿を現した幼女は自らを「みーくん」と言いながら「ひーちゃん」と呼んで誠司に物理的な攻撃をしだす幼女をどうにか引き剥がそうとする。

 フリフリのフリルが付いた白いカチューシャにリボンがたくさんあしらわれたいかにもお嬢様という印象を受ける服装に身を纏う幼女は、ひーちゃんひーちゃんと涙目で必死にもう一人の幼女を引き剥がそうと懸命に名を呼ぶ。似た容姿でありながら性格は真逆の二人は、世に言う一卵性双生児による双子だろうか。

(それにしても、後から来た方……自分にくんを付けてなかったか?)

 そう思いながらも誠司は早くどうにかしてくれとみーくんと自身を呼ぶ幼女?にまるでやる気のない声で「どうにかしてくれー」とだけ言う。自分からは一切触れず、どこからどう見ても男のはずと思いつつ幼女による幼女の格闘を間近で見学していると、職員室に鍵を返し終えたらしい言葉ことはが誠司の異変に気づいてかやってきた。

「離れなさい!」

 子を叱る親の眼差しで二人の幼女を叱りつける言葉ことはに誠司にくっついていた幼女は離れ、もう一人の幼女はだから言ったのにとぐずりながらも片割れを盾にするように寄り添う。

 言葉ことははようやく解放された誠司が助かったと安堵する間も与えず、ズカズカと誠司の前に来ると深々と頭を下げ、ついでに両端にいる双子と思わしき幼女の頭も両手で掴み強制的に下げさせ謝罪する。

「ごめんなさい、二人が迷惑かけて。ほら、ごめんなさいして二人も」

「みーくんごめんなさいするの。ひーちゃんとめられなくてごめんなさい……ひぐっ」

「みーはよわい!あたしわるくないもん、みーくんがあやまるからあやまらない!」

緋色ひいろ!」

 謝る謝らないと数分言い合い騒いでいた言葉ことはだったが、結局幼女が先に折れ誠司にしぶしぶながらも謝罪した。

「……妹?」

 しきりにおねーちゃんおねーちゃんと呼ぶ、そして何より名前を知り親しげにしている辺りでなんとなく予想はついていたが、誤った認識のままにしておくわけにはいかないと意を決して誠司が問うと、ぱっと表情を明るくした言葉ことはが素早く反応する。

「うん、妹。両親は残業ばかりしてるから帰りが遅くて。だから私が面倒を見ているの。今日はその、逆に迎えにこられちゃったんだけど」

「ああ……さっき言ってた妹いるから帰らなきゃってやつか」

 昇降口に向かい、互いに靴を履き替えながら他愛もない会話をする二人。クラスメイトとはそうしようと思ってもいなかった為ろくな会話もしてこなかった誠司だが、今日はあの自身の案内人シュトラーゼに出会ってから不思議と活力が湧いてくるような気がする。それもあってか最初こそただ言葉ことはに合わせるように返答するだけだった会話も弾み、いつの間にか自分からも質問を投げかけていた。

 そんな様子を見ていてか、元気な方の幼女は校門目指し歩く二人の前に出るとニマニマと笑いながら無邪気な声で言う。

「おねーちゃん、そのおにーちゃんは?おにーちゃんはおねーちゃんのかれし?」

「違う」

「か、彼氏じゃない、ただのクラスメイト。大体私はまだ彼氏いないし」

 何もそこまで否定しなくともと思わず言いたくなるほどの反応をしつつも、双子が呆れたように落胆の声を漏らすと言葉ことはは誠司が聞いていないにもかかわらず、まだ名前を言ってなかったねと双子の名前を改めて紹介する。

「今彼氏?って聞いてきた元気なのが緋色ひいろ。そしてこっちの泣き虫な子が深宙みひろ。一卵性双生の双子だけど、女の子と男の子なの」

「え、姉妹じゃない、のか」

「うん。女子に囲まれてたからか可愛くなりたいって可愛い服が好きでね、深宙は自分も女の子って思って……」

「?」

 やってしまったと言わんばかりに自慢げに深宙について熱く語る言葉ことはが俯き、それを傍で見ていた深宙はそれすら不安を掻き立てる要素になったようでまたしても泣き出してしまった。しかし、言葉ことはは一体どうしたという事もなく深宙を宥めるよりも先に誠司に謝罪する。

「深宙は人見知りで涙脆い子だから御園くんのせいじゃないよ。男の子なのに女の子になりたいとか気持ち悪いって思っちゃうかもしれないけど、個性を拒むのはダメだもの。新しい事を拒んだら進めないって私は言われてきたから、したい事は法でどうにかなる程度ならさせてあげるの」

 自由に放し飼いするのとはまた違うから勘違いはしないでね、と付け加えて誠司に自身の家庭の教えを恥じるでもなく教える言葉ことは。そんな言葉ことはの言葉に救われたのか、目に涙を浮かべ今にも溢れ出しそうになっていた深宙の涙はいつの間にか引っ込み、にこにこと初めてここで誠司にも笑顔を見せた。

(涙脆い子……)

 涙という単語に、依頼書に書かれていた詩を思い浮かべる。町を沈めた涙の海、涙脆いというのならそれは容易く出来てしまうに違いない。案内人シュトラーゼは深い意味もあると助言してはいたが、当てずっぽうでも最初の依頼だからこその早期解決が目標。星屑というのが課題だが、よくよく考えると星屑というものはよく動き静止のさせようがない緋色を指しているのではないだろうか。

 先を行く双子の姉妹を追いながら暗い夜道を行く言葉ことはと距離をある程度保ちながら歩く誠司。これで鍵はできたはずだ、最初の依頼などどうというものでもないと自信を持ちながら言葉ことはら姉妹と分かれ、自身の家の方向へと足を向けた時。

開門ツェアファル!」

 どこからという事もなく直接頭に響く声が誠司の頭を支配したかと思うとゆらりと足元が歪み、ついには歪んだ足元から切り取られた景色が誠司を呑み込むようにして全てを包み誠司は意識を手放した。

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