表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『アカイハナ』

作者: 幻想狂気取扱い技巧人

これは「どのようにすれば人は精神に異常をきたすか、」という不快極まる実験です。

御容赦を。

自動ドアが開く、耳になだれ込む雑踏の音。

午後二時、気温は29度。とあるエンタテインメント店にて。

私はゲームコーナに横目を馳せ、それだけで喧しい誘惑を断ち切った。

真っ直ぐに陳列された本に向かい、それの表紙を眺めて行く。

何冊もある「失敗しない」が持ちネタのレクチャー本・・・。ベタな展開を只歩む小説・・。政治家を批判する小うるさい本・・・。

つまらない、実につまらない。

(何か他の本がないものか?)私はそう思い、本棚をジックリと探し始めた。

幾つかは(これは面白そうだ。)と思うようなタイトルの本はあるが、中身はほぼ只の文字の羅列であった。

なんの意味も持たず、そこにただ印刷されているだけの文字・・・。

しくじった、と思いそれを棚に戻し、また本を探す。

程なくタイトルや表紙が良いものが現れる。

手に取る、中は。やはり面白味の欠片もない文字の羅列である。

私は本を閉じ、棚にしまった。


(つまらない・・・・)

私は、最近退屈していた。

仕事に出ても、何も変わりは無く。業務は無味のまま消えて行く。

失敗をしても、素晴らしいほどの成功をしでかしても。

賛辞も、怒号も無かった。

親しい友人は職場には特に居ない為、接待の呑みにも誘われる事も無い。喩え誘われても、「いいえ、遠慮しときます」で会話は終了だ。

仕事以外も無味乾燥な物だった。

天から男性のみに与えられたといっても過言ではない最高の娯楽である酒と女性にも、私は興味がなかった。

酒はただ呑んでも記憶は消えることもなければ感情のタガが外れる事も無く。女性に至っても、性的なことをしたいとか、あわよくば家庭を築きたいとかは無く。

むしろ全く興味が無かった。女性にも男性にも。

只繰り返す、繰り返して又繰り返す。終わり無きラビリンス。

そんな毎日なのだ。

だから今日は趣向を変えて、本で面白味を得ようと店を訪れたと云う訳だ。

(他のコーナーに、行ってみるか・・・)

漫画のコーナに移動して、最近流行りの漫画のサンプルを手に取る。・・・・いかんせん私の趣には合わないな・・・?

サンプルを元に戻し、又タイトルを眺め始める。

色々なタイトルがあるな・・・?どれが面白いんだ?

暫く眺めていると、あるタイトルが眼に入った。

『アカイハナ』

背表紙にはそう手書きのようにタイトルが入れてあり、他の本とは明らかに異質で不気味な雰囲気を感じた。

顔をしかめ、眼を背ける。

他の本を見始める・・が。

(何故だ?どうしてもあの本の中が見てみたくて堪らない・・)

他の本のタイトルを見ても、目に残る紅い幻影がそれを想起させる。どんな魅力的な物でも、あのシンプルで奇怪な本には勝てないと思う程の奇力が私の中に渦巻く。

直ぐ様、眼を件の本に向けた。・・・どすぐろい朱がやはり有る

私は固唾を呑みこみ、其の本を触れようとした。

手を近づけると、恐怖が走り、びくりと手が震える。

それでも本が誘うが如く手が惹き付けられ、とうとう本を掴んだ

ぬるり、そんな触感がしたような気がするが。手は本を離さず棚から引き出す。

・・ん?待てよ、私は本を引き出そうと・・読もうと思ったか?

そんなことは、思ってもない。まさか・・。

ずずず・・・。本がみるみる内に私によって引き釣り出されて行く。・・・あぁやはり、手が勝手に動いている!

ずるり、本が棚から出されてしまった!

ぎょろり、眼が私の意識如何にも関わらず、本の表紙を凝視する。そこには

『アカイハナ』と書かれ・・・。赤、朱、紅!それ一色だ。

ヘラリ、手が頁を捲った、それと同じく眼も頁を見つめる。

「アカイハナ花は棘の色、真っ白鳩に刺さりは染まる・・・」

「キイロイ花は小便の色、緑の草を汚して止まない・・」

「アオイハナハ、心臓の色、死人の心はウゴカナイ」

「ダイダイイロはハナノイロ・・太陽浴びて動キダス・・」

意味不明な、花を象ったであろう詩(?)が頁にはいた。

それぞれの文字は、まるで手書きのようでもあり・・ディジタルの様でもあり・・・?

ヘラリ、又々手が頁を拐って右手へ失せる

「ガラスの小鳥は陶器の体に肉塊の心臓、割れたら大変血が溢れだす・・・」

「木々の舌は根っこ也、切り落とされては叫ぶ地底に叫ぶ・・」

「ヒトの心は獣と機械、狂い狂いテクルクルと」

「カラスの眼はシロノサフャイヤ、切りオトサレテぎぁぁと泣く」

「?の、心はハテナキジゴク、オチロヨオチロ、眼をクロニシテ」

又しても意味不明な詩である、至極不気味だ、もうみたくない。

私は必死に手の主導をまた握ろうとした。

フルの力を使っても、手は鉛でコーティングされているように全く動かない。

せめてものと目を瞑ろうとしても、眼は本をジッと見つめているだけだった。

私の頭に眼に詩が記憶されたのを見受け、またしても手が頁を掴む。

やめろ、やめてくれ。狂う、狂ってしまう。

私は右手を必死に下へ下ろそうとする、手はそれを物ともせず

なんなく頁をめくった。

「手は貴方の写し鏡、動いて蠢き主を翻し」

「まなこは貴方の心のカタチ、見たくないもの遮るコトセズ」

「頭はア方のユメミルキカイ、蛋パく質はユメをミル」

「ココロハ貴方の寄生虫、脳喰いアラシ、カラダヲ犯す」

「シルは貴方のオブツ、ドコカラアラワレ、また戻る。」

「シン臓器はアナタノ枷、ドグドクゥゴイデ夢見さぜす」

「子宮はハアナタノ悪夢のハジマリ、オワラムユメガアフレダス

やめてくれ、やめて。罷めて、それでも手は蠢めいて頁を捲りたがる、辞め、ろ。手が蠢き。頁を引き出酢。眼が曾れを懸命に見よう戸する、頭が祖れを命令している。

もう辞めだ、辞め手くレ、やめろ!

ワタシは狂いかけた体を床に叩きつけた。

ゴヅン、鈍イ音、私の体は店の硬イ床に叩きつけられた。

頭から何かが抜け出シテ行く触感?何かがでてイル。

紅い、アカがワタシの目に入って来た。これは・・・血?

ドクドグと溢れてくる、どうやら血管がイカレタらしい。

(・・・・・・・・アァ、だから。『アカイハナ』ネェ)

私は理解した、すると唐突に腹と頭の底から尋常じゃないほどの可笑しさが、込み上げてきた。

(アァ、面白い。)

ハハハ、ハハハハハハ。笑いが溢れた。

赤が目を覆う、ダァレモイナイ、此れなら良いだろう。

ハハハハハハ、ハハハハハハ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

可笑しさが、どんどん何処からか溢れてくる。おかしい、おかしすぎる!

アハハハハハハ!!!気が狂ってしまったかのように、私は笑い続けた。

壮絶を越える程の嗤い声は、朱に吸われて、何処か、消えていった・・・。

・・・・・


・・・・・・・?


・・・・・・・・・・・・。


「・・・で、この症例は?何時から?」

「はい、・・どうやら発症・・いや、感染したのは2ヶ月前。それから患者の発見現場付近で、この症例の患者が大量に発見されています。」

「ふぅー・・・。感染、ねぇ・・・」

精神病院のドクターはカルテを机に下ろして強化ガラスの向こう側・・・。2ヶ月前から急増している「嗤い続ける人々」を見た

アハハハハハハ!!!

ぎゃハハハハハハハハハ・・・ハハハハハハ!!

うフフフフフフフフフ、ふ、アハハハハハハ!

何人もの人がベットに縛り付けられ、目をぎろぎろと蠢かせながら嗤い続けているのは不気味以外の何物でもなかった。

ナースはその博士の厳しい横顔を見て、自身も後ろを向いた。

そこにも、嗤い続けている人が、数十人ほど。

「・・・余りにあり得なさすぎる・・。突如精神をこんなに大量の人が、しかも同じ症状を発症するなんて・・・」

「ええ・・。先生・・・。」

何人もの人々は、ある日突然この病院に運び込まれた。

なんの抵抗もせずに、只嗤い続けるだけ。

老若男女問わず、それはそれは不気味な表情で。

それは昼夜を問わずあらゆるところで。

何の前振りも無しに・・・・。

「・・・あたし、少し外の空気吸ってきます・・」

「ん、あぁ・・。」

・・・キィィ・・バタン。



「カチッ、カチッ、ボッ」

「お、やっと点いた。全く・・煙草がなければマジこっちもイカれてるっての・・・ん?」

足元に何かおちている、手帳?

拾い上げ、表紙をミルと。そこには『アカイハナ』と・・・。





・・・アハハハハハハ!!!!!

御苦労様でした。

今の気分はどうですか?

先ずは、深呼吸をしてみてください・・。

落ち着きましたか?駄目ですか?

では、今回の実験はこれにて終了です。

頁を閉じて、お帰りください。

またのご閲覧を心から御待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ