第2幕
翌日賢一は寝坊した。それだけにとどまらず、この日の賢一はいつもに増して冴えない介護士だった。ふと気を緩めている隙に寝間着姿の入居者を外に出してしまったり、服が汚れたのもそのままにしていたり……
「あなたはそれでプロなの!? しっかりしなさいよ!?」
「はい……すいません……」
賢一が教育を担当している筈の新人職員の婦人からこっぴどく怒られた。確かに今日の自分はおかしい。仕事終わりの日報には反省の弁ばかりが残った。
職場から自分の住むアパートは近い。余談だが街から自宅も近い。まあ、この性格だ。街に出ることなんてほとんどない。今日は散々な日だった。明日は休みでもある。久しぶりに雰囲気の良い店に入ってお酒を嗜んでもいい。
賢一は繁華街に向かって歩きだした。
時刻はまだ夕方の6時。暑い夏の陽射しが照りつける今は6月だ。お酒を飲み入るにはまだ早い。賢一はアリスガーデンの階段状になっている客席から流れる人を眺めていた。若い男女のグループがワイワイと何やら騒ぎながらクレープを購入している。別に羨ましいとも思わない。賢一は顎に手をあてて退屈な時間をただ過ごした。この空虚さ、文芸部から図書部になったあの頃を思い出す。
やがて陽は沈み、アリスガーデン一帯がライトアップされるようになる。うたた寝しそうになっていた賢一は重い腰を起こして埃を払い、再び歩きだした。
携帯の画面を見ながら目的の店を探す。画面上で見る店の雰囲気は良いが実物は違うのかもしれない。そう思いながらも目的の店のドアを開けた。うん。それなりに雰囲気を楽しめそうな店だ。そう思った賢一はカウンター席に座り、メニューを適当に見て注文した。
「スクリュードライバー。お願いします」
「スクリュードライバー、かしこまりました」
店員と交わす会話はこれだけだ。客は自分だけじゃない。他にもいる。ここに通い詰めればこの店員と親しくもなるのだろうか……眼鏡の店員を見ながら彼はあれこれ想像を膨らませた。
目の前に注文したお酒が来る。それをちょっとずつ口にする。この前に職場の飲み会で同僚に勧められ、飲んでみて虜になった飲み物だ。最初のうちは甘くて舌心地の良い感触なのだが後々にアルコールがじんわりと効いてくる。こないだまでカルピスウォーターが好物だった賢一も随分と大人になった。
何かの映画かドラマならここでバーテンダーが「お客様、何かお悩み事でも?」と話しかけてくるのだろうが……現実にそんな面白い事はそう起きない。3杯目のスクリュードライバーを飲み乾した賢一は勘定を済ませて店を出た。
足が若干ふらつく。あまり酒に強くない賢一だ。帰りはタクシーで一気に帰宅してしまおうとも考えたが彼はお金を持っているワケでもない。歩いて帰るのが何よりも優先的な手段に他ならなかった。
「?」
飲み屋街を過ぎて人通りの多い通りに出た所だ。通り過ぎていく人たちがすれ違いざまに何かを見物して過ぎ去っている。賢一も立ち止まってそれが何か見てみることにした――