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放課後HEROES-children of the twilight-  作者: いでっち51号
第1章「言葉のいらない約束」
2/15

第1幕

 ――少年はヒーローの仲間になることを夢見ていた。これはそんな彼の物語だ。



 新たなに購入したパソコンのワードにそんな一文を打ち込む。しかしこの後がなかなか続かない。苛立った青年は煙草を吸って一旦落ち着くことにした。こないだまで高校生だった感覚がどうも拭えない。彼は専門学校を卒業して晴れて念願の介護士となった。念願と言っても、周囲から「伊達君は優しいから介護士になりなよ」とか「今の時代すごく必要とされているのよ」とか言う勧めを受けて何となくその道を選んだだけことだ。やっぱり念願なんてものじゃない。




 伊達賢一は22歳になった。今の職場に転職してちょうど1年ぐらいになる。最初の職場はそのハードさと人間関係の不和で3カ月ももたなかった。それから色々とあったものだが今の職場に辿りついた。縁とは不思議なもので賢一が資格取得の際にお世話になった老人介護施設での就職。彼は自分が何かの物語の上を歩いているような感覚で生きていた。いや人間誰しもそんなものか。だんだんと気持ちが落ち着いてきた。彼は灰皿に煙草を擦りつけて火を消した。



 賢一が一人暮らしをはじめて1年にもなる。ただ独立を志して何となく始めた一人暮らしだが不器用な彼にとってその道のりは苦難の連続だった。それは介護の仕事も同じ。少年時代から彼は冴えない根暗っ子だったのだ。自分で自分にそう言い聞かせて励ましきた。それで良い結果が出ているとは言い難いが。



 自叙伝を小説にしてみたら良いのでは? そう考えてみたが人に評価されるのがどうの言う前に自分自身が面白くない。趣味で書いている小説のほとんどが『ある日突然異世界に行って冒険やら生活やら何となくしている』作品ばかりだ。リアルなものを書こうと思っても、いざ筆を執ってみれば臆病になってしまうのである。



 天井を見上げて横になっている。次起き上ってPCに向き合っている時にはもう小説の執筆なんか止めてYoutubeで適当な動画でも観ているのだろう。なんせ趣味で小説執筆をはじめて完成した作品は1つもない。



 目を閉じると思い出す光景がある。いや、思い出す時代があると言っておこうか。あれは今から約十年も前のことだ。一人の親友が文芸部を中学で立ち上げることに成功させた。彼の誘いを受けて賢一もその文芸部の一員となった。思春期の多感な時期。荒れ気味だった彼の嫌がらせを受けながらも、賢一の誘いで入部した先輩もいた。彼女は生徒会だった。



 それから色々あったものだった。あの狭い図書準備室に中学を卒業するまで毎日のように通い続けた。あの感覚。今となっても不思議でしかない。



 文芸部は賢一が中学3年生の夏に自然消滅した。文芸部を立ち上げた友人が家庭の事情で岩国へ引っ越したのだ。しばらくは彼と電話などで繋がってはいたが……賢一が高校生になる頃にはどこにいるのかもわからなくなった。しまいには名前すらも忘れてしまった。



 気がつけばあっと言う間に賢一は大人になった。



 目を開けると電気が点いている天井。ただそれだけだ。だけど賢一が文芸部の誘いを受けた時、彼は電気すらも点いてない図書室の天井に夢を膨らませた。「本をつくる部活か……もうちょっとカッコよく言いたいな」「カッコよく言いたい?」「物語をつくる部活だよ」「……何言っているのだろうな。俺」



 賢一は独り言を呟くと目を閉じて眠りに入った。



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