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放課後HEROES-children of the twilight-  作者: いでっち51号
第2章「結成記念日をもう1度」
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第4幕

 悟が光明塾にやってきたのはメールで連絡を取り合った翌週のことだ。帽子を被っているとはいえ、金髪で禍々しい恰好した彼に職員は玲以外誰しもが恐れおののいた。しかし話してみると意外と礼儀正しく気さくな感じの青年だ。花本は彼を今日ばかりは信用してみようと思ってみた。悟は大きなトランクを持ってきていた。それが何なのか玲にはわからない。しかしこれが彼の思いついた奇策らしい。玲はただ悟を信じるのみだった。



 一限目の授業。特に問題生徒ばかりを抱える中1~中2のクラスだ。生徒達は悟の姿を見るなり皆萎縮していた。警戒するのは当然のことだろう。



「紹介します。こちら私の中学時代の――」



 玲が悟の紹介を始めた途端に彼は教卓の上に胡坐をかいて座りだした。玲は「ちょっと!」と怒ってみせたが「オレを信じて」という悟の小声に黙ってしまった。全て意味があるのだ。彼を信用して私が彼をここに連れてきたのだ。玲は改めて彼に賭けてみた。



「はじめましてだな。お前らがどういう事しているかはこの姉ちゃんから聞いた。でも今日は怒りに来たワケじゃない。お前らの気持ちと共鳴したくてここに来た。まぁ~わからないよな? よっし、お前ら全員今から机に顔を伏せろ。全員だぞ。今すぐだ! やれ!」



 漏れなく生徒全員が顔を伏せた。



「勉強することが嫌いな奴は手をあげろ」



 誰も手をあげない。この事実に驚いた玲だが悟の奇策にはもっと驚いた。



「この塾に怖い先生がいると思っている奴は手をあげろ」



 誰も手をあげない。悟は「ふん」と言って玲に笑ってみせた。



「この塾に怖い奴、強い奴がいると思っている奴は手をあげろ」



 一人の生徒を除いて全員が手をあげた。悟が玲に小声で尋ねる。



「おい、アイツは誰だ」

「渡辺……渡辺隼人君」

「なるほどね……よっし! お前ら最後の質問だ! よく聞け!」



 何とも言えない空気が狭い教室に漂う。



「ここに来ることが嫌な奴は素直に手をあげろ!」



 問題児、渡辺隼人のみが手をあげた。全ての事実が明白となった。



「よっし! 全員顔をあげろ! 渡邊とか言う奴は前に出てこい!」



 渡邊はおどおどしながら教卓の前に出てきた。



「よぉ、お前は大人が嫌いか?」

「別に」

「別にじゃないだろ? 好きか嫌いかはっきり言えよ」

「どうだっていい……」

「はっきり言えって言っているだろうが!! このクソガキッ!!」

「嫌いだよ!! 大嫌いだよ!! お前らみたいな大人なんて!!」

「そうだ! それでいい!!」

「!?」



 悟と渡邊は両者真剣に睨みあっていた。しかし悟の方には余裕がある。そして悟の次に出した言葉は教室にいる全員の度肝をぬいた。



「そうだ。オレはお前のダ~イキライな大人だ。殴れ。会心の一撃を見舞え!」



 躊躇する渡邊。悟の言葉がそんな中途半端な彼の心臓を突く。



「どうした!? 早くしろ!? お前は大人が嫌いなんじゃないのか!?」

「う……うう、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「やめて! 2人とも!!」



 玲の声が教室に響く間に渡辺は渾身の一撃を悟に放っていた。



 息をきらす渡邊。一人の女子が立ち上がった。帰ろうとしたのだろう。しかし悟が「待てよ。姉ちゃん。遊びはこれからだぜ?」と立ち上がったのに反応して立ちつくした。立ちつくしているのは彼女と渡辺だけではない。玲もまた同じだ。



 立ち上がった悟は鼻血を垂らしながらトランクを開けてみせた。トランクにはトランクいっぱいの札束が入っていた。悟はその一束を掴み、束を解くとその雨を渡邊の頭上に降らせてみせた。怒った渡邊は一枚のお札を悟に投げ返したが悟に届くことはなかった。サンタのように悟は一人一人に札束の雨を投げまくった。



「これが本物の遊びだ!」



 悟がこう叫ぶ頃には教室中で紙幣の雪合戦が行われた。真剣になる生徒もいれば思い切り笑って楽しむ生徒もいた。やがて他の教室からも見物客が訪れてはこの遊びに参加していった。




 札束の絨毯と化した光明塾の一室。そこに残ったのは悟と玲、そして涙に濡れる問題児。悟は渡邊にそっと近づいて頭をポンッと叩いた。



「どうした? まだ俺を殴り足らなかったか?」

「違う」

「あ?」

「アンタなんかにわかってたまるものか……」

「ああ。そうだろうな。だけどお前のパンチはよく効いたぜ。気持ち良かった」



 渡邊と悟の顔が合う。悟は彼の被る帽子を渡邊に被せて頭を押さえてこう言う。



「オレも大人が大嫌いだよ。今でも大嫌いだよ。だけど堪えろ。いつまでもガキでオレたちはいられないのさ。この帽子はお前にやる。オレは22歳だけどさ、お前がその歳になったらオレに返しに来い。それまでうんと漫画読め。恋愛しろ。セックスしろ。親とも喧嘩しろ。何でもいい。やりたいことをやれよ。未来は明るいぞ。隼人!」

「うぅぅぅぅぅっ」



 渡邊は悟の体に縋りついて泣き崩れた。泣いているのは渡邊だけでない。悟も玲ももらい泣きをしていた。彼にも抱えるものはある。でもそれはいつか彼の宝物に変わる。そう思って悟は彼の背中をそっと撫でた。




 悟の特別授業から光明塾の雰囲気は一変した。講師に対する嫌がらせはからっきりなくなり、生徒一人一人の成績も不思議なぐらいに上昇していった。問題の中心人物にいたとされる渡邊に関して言えば塾生でもトップの成績を残すまでになった。人は何が縁で変わるかわからない生き物だ。玲は一人そう思った――

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