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放課後HEROES-children of the twilight-  作者: いでっち51号
第2章「結成記念日をもう1度」
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第3幕

 7月になって蒸し暑さが増したようだ。賢一はハンカチで汗を拭きとっていた。横には金髪の悟がいる。ここはパルコすぐ近くのアリスガーデン。日曜日ということもあってか多くの人で賑わっていた。



「ハンカチ王子かよ。そんなに汗出るならタオル持ってくりゃ良かっただろ?」

「うるさいな。そんなダサいことしたくないに決まっているだろ?」

「まったく……でもお前も言い返すようになったな」

「?」

「いや、中学生の時のお前って、もっとこう何ていうかシャイで愛らしかったと言うか、なんか中途半端にそういうのが残っているというか何というか……」

「俺にも色々あったのさ……。また話すよ」

「そうか。お、そろそろ時間じゃないか?」

「いや、とっくに10分は過ぎているかな」

「ええ!? そうなの!? おい、本当に先輩なのか? 冷やかしのメールとかじゃないのだろうな?」

「冷やかしではないと思うな……わっ!!」



 賢一の背後に突如現れた女性が背中の両肩を掴んだ。それが誰かは言うまでもない。



「おひさ! 伊達君! 江川君!」

「久しぶりです。はっはっはっ! お前冷やかされているじゃないの!」

「いや、そりゃ、ビックリするよ。あの……玲先輩ですか?」

「そうだよ。あれから何年経ったのだろうね……」

「なんか同窓会みたいだな。オレはそういうのが初めてかも」

「どこかでお茶する?」

「俺が注ぐのですか?」

「それいいね」

「おう。頼む」

「おい」



 大人になった文芸部は近くの喫茶店で約8年ぶりに歓談を交わした。それぞれが今までどうして生きてきたか。悟の話には玲も驚き、冷めた感情にもなったが、そこで思ってもみない知恵が働きだした。



「ねぇ、どうして十代のコたちってあんなに荒れちゃうのだと思う?」

「何ですか? 唐突に?」

「ああ、ごめんね。実はこの頃ね、私達の塾の塾生が荒れてきているの……」



 玲の言葉が詰まった。今日は仕事の休日。普段なら仕事の事は全部忘れて彼氏のジェーンと遊びほうけたり、一人でどこかに遊びに行ったりするものなのだが。自然と自分の悩みを文芸部の2人に打ち明けていた。2人とも真剣に聴いていた。こうも話せられるのは余りにも波乱万丈な人生を淡々と打ち明けた悟の影響あってこそかもしれない。その悟は玲の話に特に真剣な顔つきで向き合っていた。



「何だろうな。俺が荒れた理由なんて母親にしかないのだろうけど、理由はあるだろうな。すごく息苦しいのだと思う。何かに締めつけられて逃れられない感じかな?  まぁ、うまくは言えないけどさ、オレが文芸部立てようなんて言ったのも嫌な事から解放されたいからだった。今思えば別に図書部に入れば良かったものだと思うけどな。はっはっはっ!」

「私、勉強だけさせていたワケじゃないのに……」

「先輩は何も悪くないよ。悪いのは悪事を働く奴らさ。大人だろうが子供だろうが皆同じ。思い出してみなよ? あの時悪かったのはオレじゃないか?」

「あの時……」

「あれか。あのバケツの滝は痛かったし、冷たかったな……懐かしいね」

「ああ! そういえばそんな事あったね! そうか、アレは確かに君が悪いよ!」

「ははは、でもそれは当時からオレを悩ませていた母が悪いとは言えないだろ?」

「!」

「まぁ、ちょうどいいタイミングだから、これを渡そうと思うよ」



 悟は鞄の中から小さな封筒を取り出した。随分と古びた手紙だ。しかし見覚えがある。ふと思い出した瞬間に玲は目を丸くして驚いた。



「これは……」

「あの時、オレに先輩が書いた手紙さ。御礼の手紙も書いたよ。良かったら後で読んでくれよ。で、その塾の話はどうなるのさ? 何か打開できる方法はあるのか?」

「うん……実は辞めようと思っているの。今は経営難にも陥っているし」

「まぁ、逃げるのは簡単だしな」

「!」

「な、何よ! そんなこと言わなくてもいいじゃない!」

「まぁ、そう怒るなって。俺もかつて嫌がらせをした人間さ。もしかしたら何か力になれるかもしれないぞ?」

「はぁ? どういうことよ?」



 悟はわかりやすく一息ついて玲に真剣な眼差しを向けて言った。



「俺に授業を持たせてくれるか?」



 時が止まった。そんな感じの雰囲気だった。昔の賢一だったらここで何も言わなかっただろう。一瞬の沈黙を彼は破って悟に続いた。



「塾に問題なければ、俺もやってみたらいいと思う! 責任者の人に頼んでみようよ!」

「私は……」



 玲は「考えてみる」と言ってその場の会話を終えた。それから悟に仕事があると言うので吉島中学文芸部の同窓会は呆気なく解散をした。



 自宅に帰宅した玲は封筒を開けた。そこには玲から悟へその昔書いた手紙と一枚の小さなメモ用紙が入っていた。メモ用紙にはたった一言書いてあった。



『ありがとう。 江川悟』



 クスッと笑った玲は何かから解放された気持ちになった。



 翌日、悟に授業を持たせる話を塾長である花本に持ち掛けてみた。半信半疑であったが、今抱える深刻な問題に対処する術はない。彼はしぶしぶ「わかったよ。ただし1回だけだぞ?」と承諾してくれた。ダメ元でやった交渉。玲は何故だか飛び上がるように喜びを感じてみせた。そのままにその結果を悟にメールで報告した。彼からの返信はたった一言だった。だがその一言には計り知れない力がこもっていた。



『任せろ!』



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