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白い手  作者: 杜 社
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出会い

不慣れなため、一話の文字数が安定しておらす、読みにくいかもしれません。

 学校へ着くとそのままグランドに向かう。

 遠目にも、グランドを囲むフェンスをさらに取り囲むように女子が群がっているのが見える。

 あいつらの動きに合わせて、悲鳴のような歓声があがる。

 今朝の電話を思い出す。そうとう朝早くからいるんだろう。すごい熱意だ。

 アイドルの追っかけじゃあるまいし、手に入らないものを追いかけて何の得があるんだか。


 ああ、そうだ。僕があいつから電話で心配されてなんて知ったら、あの子達はどんな反応をするんだろう。

 電話番号を寄越せと、迫って来そうなのは確実だな。

 もし、そうなら何を報酬に支払ってもらおうかな。

 ちょっとした優越感のような、感覚がじわり、と胸に広がる。

 悪くない。

 朝からのテンションが、少し持ち直した。


 監督と目が合った。

 やっばっ。

 僕は、慌ててロッカーに駆け込んだ。

 その日のメニューも普通に苛酷だった。でも、僕は遅刻分も含めて絞られたと思う。

 

 ジリつく西日と、いつの間にかまた鳴きだした蝉の声―そういえば、日中は鳴いてなかったきがするーの中、グランドを片付けてやっと帰れる、そう思っていたら声をかけられた。

 男だ。女子じゃない。

「な、今日途中まで一緒に帰ろうぜ」

「えー、お前と帰ると遠回りになるじゃん。てか、車でお迎えだろ」

 こいつと帰るとか、明日以降あのフェンス女子の相手が付いてくるじゃないか。めんどくさい。勘弁してくれ。


「柏木さん、今日の午後から盆休みなんだよ。だから今日は歩きで帰るんだ」

「代わりの迎えはないのか」

 普通、あるだろ。歩き、といった時のこいつの満面の笑みに嫌な予感がする。

 巻き込まれるのはごめんだ。

 一瞬、今朝のアパートが脳裏を過ぎった。

「ん、断った。なぁ、一緒に帰ろうぜ。おれ、寄りたい所あるんだ。な?今朝、電話で遅れてるの教えたろ」

 そう、暑苦しくも背中に圧し掛かって懐いてくるこいつは、普段車で送り迎えされているのだ。

「断ったって、お前・・・。後それ、交渉材料には弱くないか」

 おんぶおばけを振り落としにかかりながら、答える。


 フェンスの方で悲鳴が上がっている。変な歓声が混じっているのは、気のせいだ。気のせい以外認めない。

「ツレないこと言うなよー。なー、アイス食って帰ろうぜ」

 それが目当てか。

 俺とお前の仲がどうとか言っているようだか、無視する。

 アイスか、確かに腹は減ってる。そういえば、この前、41アイスで夏の新作第二段が出たとかCMで見た。

 さて、どうするか。アイスをとってあの女子たちの包囲網かいくぐって、追ってを撒くか、安全にいつものように帰るか。


 メリットとデメリットを天秤に掛けて、考えていると

「新作アイス、あのでかいやつで手を打たないか」

 メリットが上回った。

「よし、乗った」

 話が決まったところで、女子を撒く手段をレクチャーしながら、二人してロッカーに向かう。

 僕の計画に、ちょっと驚きながらも楽しそうに相槌をうってる姿は、そうしいるとひどく普通に見えた。


 ロッカーからでる時から作戦は始まっている。

 とにかく、学校に三つある校門からは出られないと考えたほうがいい。

 ここから出るのだって同じだ。ドアからはでない。

 ロッカー室と繋がってる、小さな倉庫の窓から出れば、そのままこの建物の裏手にでられる。

 女子達からは死角になるはずだ。

 そのまま、植え込みに隠れて、近くの旧校舎裏へ回り込む。後は、この塀を越えてそのまま側溝の淵へ降り、側溝沿いに学校を離れれば完了だ。


 うまくいった。


 だいぶ日も暮れた帰り道。

 隣を歩くのは、お目当てのアイスを堪能してご満悦の様子のあいつだ。

「うまかったな!また、行こうぜ」

 随分気に入ったらしい。そういえば、ケースの中をものすごく真剣に睨んでたわ。お店のお姉さんがちょっと引いてたのが面白かった。

「いいけど、お前、車じゃない日って基本ないだろ?」

「うっ」


 良いとこの跡取り息子の価値なんて、僕にはわからない。

 今日だって、さすがにこの時間になれば相当心配されてるんじゃないだろうか。

「女子ならともかく、迎えの人なんで撒けないからな」

 念のため、釘を刺しておく。

「・・・・・・・・・わかってるよ。それはさすがにしない」

 ホントか?ならその間はなんだ?


 その後は、41アイスの次の新作の予想だとか、宿題のこととか割とどうでもいい事を話しながら歩いていた。

 そして、今朝の古いアパートの前まで差し掛かった僕は、自然とアパートを見上げて、気がついたら立ち止まっていた。

 その見上げた先にあったのは、薄闇に浮かび上がるような窓にかかる白い手だった。

 やっぱり誰かいる!

「ん?どうした?」

 思わず声が上がりそうになったが、僕が立ち止まったことに気がついたあいつが声を掛けてきた。

「あ、いや、ほらあそこの窓の所に・・・」

 ほんの一瞬、掛けられた声に気をとられた。

 返事をしながら、再びアパートを見上げたけど

「窓?・・・・・・ちょっと暗くてよくわからないけど、植木の向こうか?」

「ごめん、なんでもない」

 もう、あの窓も白い手もまた、見えなくなっていた。背の高い植木によって。

 指しかけた手をそっと降ろした。


 あれは、何なんだろうか。

「なあ、大丈夫か?今日さ、朝から何かちょっと上の空っていうか、心ここにあらずっていうか、そんな感じだったろ。体調が悪いのかとおもったけど、動き自体は問題ないみたいだったし。何かあったのか?」

 そうか、今日の僕はどうやら集中が欠けていたらしい。それで、監督にやたら怒鳴られたのか。納得だ。


 確かに、何かあったと言えばあった。でも、気になる程度でそれで部活に支障がでるのはマズイ。

 チームプレイで足を引っ張るわけにはいかないから。 

 話すだけ、話してみようか。

 なぜ、そう思ったのかわからない。

 気が付けが、口が勝手に話し出していた。

「・・・あの、二階の真ん中の窓に人影というか、窓に手がかかってるのが見えた気がしたんだ」


 いつの間にか、ふぃ足り並んで暗がりに聳えるアパートを見上げていた。

「窓に、手、ね。幽霊とかだったりしてな!・・・中入ってみようぜ。どうよ真夏の肝試し!」

 得意げに言ってくるやつを、思わずジト目で見てしまった僕は悪くない。

「ダメだから。ここ、人住んでるからな。そんなことしたら、ただの不法侵入で立派に犯罪だから」

 民家を肝試し会場にはできない。

 切れかけとは言え、外廊下には蛍光灯だって灯っている。

 「えっ!ここ人住んでんの!?住めるの!?」

 

 ガチの驚きが僕の隣で発生している。

 正しく、住む世界が違うんだなと実感してしまう。

 ただ、中に入ってみる、という発案は僕の心にジワリと染み込んできた。

「はぁー、これだからボンボンは。このアパートは古いけど充分住める物件だよ」

 こいつからしたら、このアパートなんで肝試しに使うくらいしか、価値がないのかもしれない。

 僕にとっては、きっと大学に行ったらこんな感じのところ位しか借りられないだろうと、思うくらいには、身近な古さだ。

「悪かったな!どーせ、世間知らずですよーだ」

 同い年の男が拗ねるとか、どんな罰ゲームだそれ。

「いや、キモいから、お前が拗ねても」


 僕たちは、どちらからともなく、歩き出した。

「ヒド!キモいとかそんな事言うのお前くらいだぞ」

 僕は、適当に返事をしながら、中に入る方法を考えていた。

「あー、はいはい。それは、こーえーでーす」

 明日の朝なら時間がある。まずは、表札の確認からか。

「うっわー、むかつくー」

 なかば適当に、くだらないやり取りをしていると、いつの間にかあいつの家の脇に着いていた。


「じゃあな!次は盆明けだな」

「ああ、またな」

 明日から三日間は、部活も盆休みだ。

 だから、次に会うのは四日後の登校日だ。

 僕は、明日の午後から母方の田舎に墓参りに行く。

 こいつの予定は、もちろん知らない。


 当たり前に来るその日が、実は当たり前じゃないなんてこの時は、知りもしなかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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