嫌いキライ…嘘好きです!!
突然こんにちわ。新庄 由香里、東南高校一年生です。実は今とっても困っていることがあります。
「新庄、これはなんだ?」
「見てわかりませんか先輩?生きた屍です。」
「…なぜそうなった」
私の前で腕を組み怒りを通り越して呆れの顔に出しているのは、東南高校三年 屋城 翼先輩だ。短く黒い短髪に整った顔立ち。鍛えられた体つき。先輩はイケメンだ。そんな先輩が何故この私に怒っているのかというと、目の前に積まれた男達を私が殴ったからだ。
「彼らが自ら鍛えて欲しいと申し出て、特に断る理由もなかったので、完膚無きまでに叩き潰しました。」
「またお前は…違うだろう。ちゃんと話せ。」
先輩はなにかを感じ取ったのか、私の頭に手を置いて撫でながらそういった。
「子供扱いしないでください…。」
実をいうと私と先輩は幼馴染みのようなもので、小さい頃から気にかけてもらっている。とても不本意な扱いだが。
「…嘘なんてついていませんよ!」
「どうだかな、どうせこいつらに絡まれて手を出してしまったんだろう。そういう時は俺を呼べと言ってるのに。由香里はどうしていつも…」
(あーこれまた一時間お説教コースかな?)
こうなると何を言ってもダメだ。諦めて拗ねたように説教を聞いてるフリをする。
そうしている内に先程まで伸びていた男達が目を覚ました。彼らは土下座して謝っていった後、逃げるように帰っていった。言うのが遅くなったが私は柔道黒帯の実力者であり、先輩も同じ道場似通う兄弟子様だ。彼らが居なくなり、ここにいる理由もないのでその場を立つ。
「もういいですか?暇じゃないんです。」
私はそう言うと走ってその場を離れた。
「あっ、こら由香里!!」
「先輩なんて嫌いだーー!!」
「あっきー、またやってしまったよー!!」
教室に戻ると友達あっきーこと井上 秋乃に先程の話をする。
「屋城先輩の前では由香里天邪鬼ねー。好きならもっと他にあったでしょうに。馬鹿可愛いわねー」
秋乃はそういいながら私の額に指をグリグリしてくる。何気に痛いのでやめて欲しい。
「でもまー、屋城先輩も屋城先輩で由香里のこと大切に思ってるんじゃないの?」
「そんなことないもん。翼先輩は妹みたいにしか思ってない。私には分かるもん。」
ほっぺに空気を入れて秋乃に怒ってるアピールをしてみる。何故か秋乃には頭を撫でられて、可愛いを言われたが違う。怒ってるのだ、可愛くなんてない。
放課後あっきーと二人で帰り、そのまま私は道場へ足を向けた。
「師範、こんにちわ。」
「おう由香里、こんにちわ。早く着替えてこい、今日は掃除をやんなくちゃいけねぇから。」
「分かりました。失礼します。」
師範に挨拶をして着替えに向かう。数分して更衣室から出た時、翼先輩が来ていた。今朝の態度のことを今日こそ謝ろうと近づいていく。だが、先輩の隣には知らない女の人が居た。
「おー、由香里。早いな!」
「はい。月一の大掃除なので。あの、その隣の人は…」
「あぁ、コイツは同じクラスの志田 叶矢。仲がいいんだ。」
「初めまして、志田叶矢です。よろしくね?」
「…新庄 由香里です。」
叶矢さんはとても綺麗な人だった。黒髪ロングは艶が出てきて、肌は日に当たっていないように白い。普通の女の人より長身だったがそれがまたモデルのようだった。スタイルがまたそれを物語る。
先輩と仲がいいんだ。いつかこの人を好きになるのではないかと怖くなった。いや、もしかしたらもう好きなのかも…。私はここにいたくなくてその場を離れようと二人に礼を取り歩き出した。先輩は私を引き止めようと声をかけるがそんなの無視してやった。
(やばいっ、泣きそう。)
しかし、ここでなくわけもいかないので、深呼吸をする。
(掃除して考えないようにしなくちゃ。)
掃除が終わり、師範褒められた。半分は私ひとりでやったような仕上がりとなった。掃除中何度か先輩が叶矢さんと一緒にやろうと言ってきたが、「大丈夫です」の一点張りで逃げ回った。
帰り道ひとりとぼとぼと歩く。いつもは翼先輩に言われて送られていたがそれはしない。今日は叶矢さんと帰るんだろうな、と思いいつもは通らない近道をする。心が痛む。今日のふたりを見てお似合いだとさえ思ってしまった。
「告白される前に振られるとは…」
そう呟くと、薄暗い道から数人の人影が現れる。
「こんばんわー、今日はどうも。」
「あ、生きた屍。」
そいつらは今日私が返り討ちにした男達だった。
「あのままは流石に俺らも帰れないからねー、人を増やしてみたよー」
確かに人が増えている。だが人数だけ増えてたらまだましだった。彼らの手にはバットが握られていた。
「痛いと思うけど、屈辱は晴らさないとねー。」
そう言って男はニヤッとした後、襲いかかってきた。
(流石にこの人数はキツイ。ここは一旦逃げるしかない。)
タイミングを図って、その集団の一番弱い所に向かって走り出す。
「っはぁ!」
ビクついていた男を足で蹴って、道を作る。そのまま逃げると後ろから大量の男達が追いかけてくる。
「ふー、まけたかな?」
公園の草むらに隠れて周囲を見渡してみる。どうやら上手くいったみたいだ。私は少し油断をしていた。後ろから来た男の気配に気づくのが遅くなってしまったのだ。
「うらゃ!」
「っ!!」
男の振ったバットは私の脚にあたり、その場で蹲る。痛さで涙が出る。脚が使えなくなった以上、私には、勝ち目がない。
「…っばさ先輩。」
自然と先輩の名前が出る。彼は来ないのに、呼んでしまうのは無意識に彼を求めているからなのか分からない。
いつの間にか男達は増え、リーダーらしき男が命令する。
「やれ。」
その瞬間、その男は真横に吹っ飛んだ。
「なんだ!っ誰だテメェ!」
「由香里にそれ以上触るな。」
聞いたことのある大好きな声。涙目でその人を見るととても怒っているのがわかった。けれど私はそれ以上に彼が来てくれたことへの嬉しさで胸がいっぱいになった。私を好きじゃなくても、妹として守ってくれるその人がいればいい。
その後は早かった。先輩は武器を持った相手などいないかのように倒していった。最終的には気絶をさせて、警察をその間に呼んでいた。
「…翼せんぱっ、」
「このバカタレが!!なんで待ってなかった!ひとりで帰るなって言っただろう。今回の件に関しては自業自得だ!」
お礼を言おうとしたが、凄い剣幕で怒られてしまった。今回ばかりは私も素直に「すいませんっ」と謝る。涙が出てしまいそうだ。
「脚怪我しちゃったのか?」
「...はい。」
そういうと先輩は背中を向け、私の前でしゃがんだ。
「??」
「家までおぶっていく。早く乗れ。」
「っへ?」
間抜けな声を出したことを許していただきたい。あまりにも突然過ぎたのだ。
「だ、大丈夫です。ひとりであるけます。」
「駄目だ」
「大丈夫なんで...」
そういおうとすると勢い良く先輩は振り返り私の両頬を手の平で押される。
「お前が心配なんだよ。俺は由香里が好きだから。」
「っへ?」
本日二回目の間抜けな声を出したがこれは仕方がない。
「まっ、待ってください。先輩は志田先輩とお付き合いしてるんじゃ?」
「は?叶矢と?あれは男だそ?」
(あれ女かよ!!有り得ない。あんな綺麗な人が!?)
顔に出ていたのか先輩が説明してくれた。叶矢さんは劇団に入っているらしく、将来は俳優を目指しているらしい。そして今度舞台で女役をやるらしく女装で常に練習しているとのこと。道場に来たのはただの手伝いだそうだ。
「そうなんですか。志田先輩凄いですね。」
「それで?俺への返事は?」
「っ!!私は...先輩が嫌いです!!」
(しまったーーーー!またやってしまった。)
本当に自分は天邪鬼だなと思う。けど先輩は真剣な目で私の顔をのぞき込む。
「それは本当に?」
少し赤くなりながら先輩が尋ねてくる。その先輩の顔が可愛くて今ならちゃんと言える気がした。
「うっ、」
「う?」
「嘘です!嫌いじゃない。ず、ずぎでずぅーー!」
気持ちが溢れるように涙が出る。素直な気持ちを先輩に言ったのはいつ以来だろう。私の言葉を聞いた先輩は満面の笑顔で私を抱きしめてくれた。
「由香里は顔に出やすいな。可愛い奴め!」
先輩に背負われて帰った帰り道は恥ずかしくて、先輩の話に返事しかできなかった。そんな私でも先輩は嬉しそうに話をしてくれてとても暖かい気持ちになったことは先輩には内緒だ。
明日からはもっと素直に言えるだろうか?中学生になって先輩呼びになってそのままだった呼び方もいつか君やさんにになるのかな?これからのことを翼先輩と話し合う日が来ることが嬉しくて、先輩の背中に顔を埋める。
「ん、どした?」
「先輩、」
大好きですよ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!文章中に間違いありましたら直します。それではまたすぐ短編書こうと思いますので、また!