表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西の外れの英雄譚  作者: 青背康庚
砂漠を渡る男――一部
1/39

プロローグ

――――人型兵器アロネダヴィドとその駆り手ルーダー――――


 そこはまさしく陸の孤島だった。提供という名の企業の干渉も、保護という名の国の支配も届かぬ場所。あらゆる流通より切り離され、人々を束ねる法からも解き放たれた「サービス提供外の地区」あるいは「特別観察地区」

 西の最果て『グレートウォール』に背を預ける形で、そこには小さな人の集まりができていた。

『彼ら』の道理で言うならば、この地区に溢れかえるのは無秩序、破壊、暴力である筈だった。事実として社会とも国とも呼べぬ人の集まりには戦闘用機械『アロネダヴィド』の操縦者の『ルーダー』が集まっていた。

 だが、世間に広まる風説とは裏腹に孤島の人々は彼の地を『楽園』であると評した。


 そしてその日、一人の流れ者がこの地を訪ねる。一騎のアロネダウィドを駆る操縦者――ルーダーだった。






――――モンスター――――


「弾切れか」

 巻き上がる砂埃から人型のアロネダヴィド――通称ダヴィドが転がり出る。

 ダヴィドの全身には数え切れない程の武装が括り付けられていたが、そのいずれもが正常に動作するか疑わしい程に破損していた。砂まみれ、サビ、ヒビ、極めつけは砲身が捻じ曲がってすら居る。センサー類がまともに機能している保証は無く、男が睨むモニターの弾切れの表示も信憑性は薄い。

 単に壊れているのか、実際に弾が無いのかは分からない。ルーダーにとって重要なのはそれが撃てるか撃てないかだけだ。ファイアコントロールシステム――FCSによって制御されたシステムは、一定の手順を踏んで強制解除しなければ弾があろうと撃つ事はできない。そして今、そんな事をしている暇も無い。

「バケモノがァ!」

 故障した武器を投げ出しながら、その反動を利用して再びダヴィドが地面に転がる。踵から丸い玉が射出され、それが前転の慣性と伸ばした足の遠心力に従ってふわりと浮いた。一拍置いて重い鉄の塊と思しきそれが急速に大地に引きつけられ、いよいよぶつかる瞬間、地面に大きな亀裂が走り件のバケモノが姿を現す。

 端的に言えばそれはミミズだった。ただしその口は優に十メーターは越え、フル装備のダヴィドでさえ一飲みにできてしまう大きさだ。表皮は弾丸さえも阻む硬質ゴムのようで、硬い土の中を泳いでも傷一つ付いていない。辛うじて撃ち込まれた弾丸が表皮に傷を付けてはいたが、埋め込まれた弾が確認できるだけで、血液は殆ど見られなかった。


 だがそんな事は関係無いと言わんばかりに、膝をついて立ち上がるダヴィドの脇腹が開き、中にあるハンドガンを取り出しながらバケモノに乱射。ほぼ同時に左手からもロケット弾が射出され、それが着弾するより早く、バケモノが飲み込んだ丸い玉が炸裂する。

 のたうち回るバケモノがダヴィドの上に降り注ぐように落ちてくる。そして跳ね回る。敵対行動では無い。ただもがき苦しんでいた。だが、バケモノに比べて遥かに小さいダヴィドにとって、それは脅威だ。ダヴィドは転がりながら巧みにそれを交わし、弾を放ちまくる。

 もはやバケモノは虫の息であった。どんな生き物であれ体内はそれほど頑丈にはできていない。更に爆発エネルギーは密閉空間でこそその破壊力を発揮する。頃合いを見てダヴィドは旋回エネルギーを立ち上がる力へと換えその場を離れようとしたが――その場で転がり続ける事が正解だったのかどうかは定かではない。確かなのは立ち上がるという選択が誤りであった事だ。

 僅かに生まれた隙を突くかのように、跳ね上がったバケモノの体が真っ直ぐにダヴィドへと向かう。

 ダヴィドの左腕に括り付けられた箱が開き、サイロの中身が露出する。未だに転がった時の慣性を残し地面を横滑りしたまま、片足を支点にバケモノへと向き直る。そしてその左腕を振るった。


「クソがァ!」

 ――殆ど、殴り付けるような距離だった。

 強烈な爆発音が二度響いた。聞きようによっては一度の爆発音にも聞こえる連続したその音。しかし、ダヴィドのルーダーは確かに二回、その音を聞いた。

 迫り来るバケモノ。一度目の爆発で鉄の杭がぐにゃりと歪みながらバケモノの体内へと入っていく。僅かにバケモノの降ってくる速度は遅くなる。だが、止まらない。止まる筈が無い。ただ鉄の杭を打ち込んだだけなのだから。質量にして千分の一にも満たないのだから、止められる筈が無い。

 ついにバケモノと接触し、腕が押される。歪んだ鉄の杭は爆風に隠れて見えなくなる。あるいは爆風に隠されていなくともバケモノの皮膚に隠れていたかも知れない。

 ルーダーにとってあまりにも焦れったいコンマ01秒後、遅れて二度目の爆発で血をぶち撒けながら体表に亀裂が入っていく。

 亀裂が広がり、広がり、爆風が、血しぶきが、ダヴィドを通り過ぎ、そしてようやく――その爆発エネルギーが臨界点を越え、ダヴィドの左手をもぎ取らんばかりの勢いで弾き、それに遅れて本体も弾き飛んだ。

「ぐあああああああああああ!」




「……動力が――」

 切れていた。始動を試みる以前に、大本から遮断されている。

「はぁ……ったく、ここまで来たってのによォ。クソ虫が」

 アロネダヴィドのルーダーはシートに背中を預け、微かに笑みを浮かべた。

「笑えるぜ。結局ドコ行ってもこうかよ」

 いずれ空気の循環器も止まる。手動でこじ開けようにも機体は歪み過ぎて、あのバケモノとの交戦以前から開かなくなっていた。そもそもここは荒野のど真ん中だ。外に出られたトコロで先は見えていた。

「あぁ……くそ、弾がねぇ」

 手持ちのハンドガンは脱出を試みた時に使い切っていた。もはや打つ手無し。そして男は前面のパネルを蹴りながらシートを押し倒し、目を瞑った。

「ミミズ野郎とオネンネか。笑えねぇ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ