人生最大のピンチかも知れない
誰かが言った。
危機とは突然訪れるものだと。
それを聞いて、僕は当然だろうと思った。
だけどそれは、ただの知ったかぶりだったんだ。
「ふぐっふぉぉぉぉぉぉ……」
僕の名前は城ヶ根武、17歳の高校二年生だ。
学校からの帰路、僕は人生最大のピンチかも知れない危機を迎えているのだった。こうなった原因はわからないし、まさかこうなるとは予想のかけらもできていなかった。
そう、僕は今、猛烈にお腹が痛い。
腹部からは腸が脈動する破滅の讃美歌と、鬼がブレイクダンス大会でもやっているかのような激痛が襲ってきている。
「ああ、神よ」
神に祈った所で意味はない、今ほしいのは神じゃなくて紙だ。
いや、安易に紙を持たなくてよかっただろう、僕の帰路には住宅街しか存在しない。先程から録に家事もやってなさそうな専業主婦と言う名のニートと、ちらほら擦れ違っている。
「ああ、神よ。どうして僕にこんな試練を」
試練と言うには下品だが、正しく僕の気持ちは荒野を行く救世主の気分なのだから仕方ない。
お腹からの讃美歌とダンス大会はより激しくなり、もはやそんな物では済まされず、肛門という本丸への城門へ、破城槌が打ち込まれるが如く……!
「家までは後500メートル……自転車にはもう乗れない」
衝撃で出てしまうからだ。
「……愛馬はここで投棄するしかない、今は一刻を争う自体なんだ」
自転車のスタンドを立てて、鍵を締めた僕は内股になりながらも一歩一歩家へとの道を進んでいく。
「あううううううあうあうあうあーーーーーーーーl」
貴方の行く道は薊と茨が生い茂り……とはどこの文だったろうか。
「薊と茨生えすぎだろ、僕の道……」
血を流す事も、涙を流す事も今なら耐えられよう、だが、うんこを垂れ流す事だけは出来ないのだ。
家までは後100メートル、このペースなら何とか間に合うだろう。
だが、救世主の行く道には誘惑する悪魔が付き物だ。
「あんらぁ、武ちゃん。どうしたのぉ?」
ご近所に住むおばちゃんと言う名の悪魔である、一昨日のアップルパイ美味しゅうございました。
おばちゃんは言う。
「武よ、お前が紙の子だと言うのなら、このパウンドケーキを便器に変えてみせろ」
おばちゃんはナッツのパウンドケーキを差し出してこんな事を言っているが、十中八九幻聴だ。
「人は便器のみに糞するにあらず」
僕も何を言っているかわからない、だが。
「去れ、悪魔よ」
おばちゃんを撃退する事に成功した 。
僕の手にはパウンドケーキが握られている。
こうして僕は一歩一歩家への道を歩いていき、無事にたどり着く事が出来た。
トイレには姉が入ってた。