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戦場の花嫁  作者: 杏樹
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 咎めたマジェルにレスティナは鋭利な視線を向けた。


「薄情だと? 大いに結構。しかし貴方に私を咎めることなどできはしない。貴方とて同じようなものではないですか。母だけがいればよかったそれ以外はどうでもよかったのでしょう?」


 レスティナはマジェルを嘲笑した。


「でも結局貴方は弱かった。母を守れなかった。結局貴方は最後に国を選んだ」

 

 マジェルは恐怖と苦痛の入り混じりあった表情でレスティナを凝視した。

 視線をそらすことすら出来ないのだ。

 剣を振り回す手とは思えないほど小さく白い手がマジェルの手の上に優しく重なる。

 柔らかそうに見えたその手は何度もつぶれただろう肉刺と傷だらけで硬くでこぼことしていた。

 その感触にぎくりとしてマジェルは反射的に手を引き抜こうとしたがレスティナはさせなかった。

 逆にがっちりと握締めた。

 まるで逃がしはしないといわんばかりの握力だった。


「お前の所為で母は死んだ。指示をしたのはあの女でも手にかけたのは違う人間でも見殺しにしたお前も同罪だ」


 レスティナは一言一言をゆっくりとマジェルの耳元で囁いた。


「私が何故この国に戻ってきたと思う? …お前とあの女に、復讐する為だ」


 マジェルはこれ以上ないくらいに蒼白になって震えた。

 レスティナはそれを満足そうに見た。

 この男は母を愛していた。一途な愛情を示していたことは理解している。しかし誠実な人柄で国民にも慕われる王様の内面はとても惰弱だった。

 周囲の圧力に屈指王妃の顔色を伺って愛する女を手放した。

 その口で愛を囁きながら王宮に押し込めておきながら守れなかった。


 守ろうと努力さえしなかった…!

 なのに亡くした最愛の女の面影を今も追い続けレスティナにそれを求めた。

 それを自分勝手と言わずしてなんと言うのか。

 この国に帰ってきた母親に瓜二つの娘に誰よりも喜んだマジェルの心情をレスティナは見抜いていた。


 ならば精々利用してやるまでだ。

 忌々しいことに王妃の所為で予定は狂ったがこの男への復讐は達成したと見ていいだろう。

 レスティナは掴んでいた手を未練もなくさっさと解いて立ち上がる。

 すると目の前にあった男の身体は糸が切れたように崩れて項垂れた。


 男を哀れだとは思わなかった。

 ただ愚かだとは思った。

 嘆き悲しみそれほど思いつめるぐらいなら、最初から王妃を追い落とすなり失脚させるなりすればよかったのだ。

 何もせず中途半端なままでいたから結局最悪の形で愛する人を失った。

 寝室から出ようと扉を開けたが、ふと振り返り声をかけた。


「私はとっくにこの国を見捨てている。母を殺した女がいる国になど何の未練も無いのだから。レオパルドスはハヴリーンが継げばいい」


 それで煩い貴族達は静まるだろうが、だからといって同盟は破棄できない。

 それは誰もがわかっていた。ならばレスティナが嫁ぐまでのことだ。レスティナにとってそれは何も損にはならない。

 何故ならば堂々とこの国を出ていける口実になるからだ。

 微動だにしない男に構わず続けた。


「政略結婚は私がお受けいたします。母の故郷の為です。最後にこれぐらいはしてさしあげましょう」


 それだけ言うと今度こそレスティナは国王の寝室を後にした。




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