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戦場の花嫁  作者: 杏樹
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王都にたどり着けば


 スクムを大地に返した後、部屋に残した荷物を取りに戻るため改めて家屋へと足を踏み入れるとヘルメが地下へとつながる梯子を見つけ出した。降りていけばそこに広がっていたのはあの魔術師くずれが使用していただろう研究部屋で、大量の資料と研究素材が残されていた。

 ここをこのまま残しておくことはできない。


「燃やすしかないな」

「火は遠目からも目立ちます。何事かと野次馬が立つのはよくないかと」

「だがここは結界で外と内が隔てられているはず。そういった魔術の場合、内に獲物がいる間は邪魔が入らないように音は無論のこと視界も外とは完全に遮断されているはずだ」


 ヘルメにこの部屋の探索を任し、レスティナは一度外へと出た。

 家屋から外に向かって適当に歩き出すと、ある程度離れた場所で透明な何かに弾かれて進めなくなった。


「やはり設置型の結界か…」


 手を伸ばして何もない空間に振れれば弾力のある膜のような何かに触れた感触がある。


 結界は魔術師が術を使って展開する瞬間型と術具を使う設置型があり、戦争などや対人用に使用される瞬間型に比べて設置型は点検さえ怠らなければ半永久的に持続するため何かを隠したいときに利用される。

 瞬間型と違い設置型は術者が死んでもすぐに消えることはない。術具に宿った魔力が残っている間は結界が維持されるからだ。

 結界を消滅させるには術具を破壊するしかない。


 現代では魔術師と呼ばれる術者は衰退し、その知識や術具は失われし遺物とされているが一部の国の上層部には今も魔術師が存在している。

 放浪していたころハルメキアの軍部でも何人か見かけた。かの国は数の少なくなった魔術師を秘密裏に保護している。

 それはガリア帝国に対抗に手段であるというのが名目であるが、レスティナとしては別の理由もある気がしている。それを深く探るつもりは勿論ない。

 普通に生活しているほとんどの人々はそんなことは知らず、物語の中に登場する伝説だと思っているだろうが、幸か不幸かレスティナは魔術や魔術師に対しての知識があった。ハルメキアに滞在していたころに学んだからだ。それが今回役に立ちそうだ。


「さて、はじめるとするか…」



 レオパルドスからフィータの森をぬけて国境を越えたのが太陽が沈む頃だった。アチェル街道へ入りそのままいくつかの町や村を通り過ぎる。途中多少のトラブルはあれど日が昇ると同時に東へと続く街道に進路をとった。

 休息や食事、睡眠の時間を適度にとりながらもレスティナとヘルメは無駄な時間をすごさなかった。懸念していた王妃からの刺客も来ずに順調な旅路といえる。


 アルヴァルチアへの国境を超えてからは王都へと続くアチェル街道をひたすら南東へと向かう。


 森をぬけ、丘を越えて草原を走る。流れる川沿いに沿って泳ぐ魚たちに負けずと走り、林を通り過ぎる。茂る草木と花に頬を緩ませて他愛無い話をしながら馬を走らせる。

 雲はぐんぐん動き、煌く太陽が頭上にあるうちは馬で駆けた。月が顔を出す頃には火をおこし、交互に火番と見張りをしながら身体を休ませる。静かな星々の主張と夜風の悪戯に耳を済ませながら、夜をすごす。


 実に充実したそんな日々を七回ほど過ごした。

 レオパルドスを発ってから八日目の昼。レスティナとヘルメは無事、アルヴァルチアの王都アルトワルに足を踏み入れた。

 これが馬車と数人の世話係り、護衛の騎士たちを連れてこれば倍以上の時間がかかったに違いない。レスティナとヘルメはかなり時間を短縮したといっていい。


 目の前に色鮮やかな場景が入り込む。飛び込んできたのは補修された道と活気のある声だった。商人達が荷物を乗せた驢馬を引いて行き交っている。


 煉瓦作りの家々と人並みで賑わう町。顔を上げれば町並みの背後に大空とカフカス山脈を従えた白亜の城。ルグラード城が堂々と聳え建っていた。


「ティナ様」


 馬を下りたヘルメがこちらを見上げていた。レスティナは軽く答えるとシリウスから降りた。

 シリウスが鼻を擦りつけてくる。それに応えてレスティナが優しく抱きしめ返すとシリウスは嬉しそうに目を細めた。


「これから一度部下のところへ顔を出してこようと思いますが、どうなされますか?」


 レスティナはシリウスの顔を優しく撫でながら言った。


「街を見て回る。王宮に行くのはそれからでも遅くないだろ」

「分かりました」

「ヘルメ、ついでにバミウに会ってきてくれ。あちらも今日ぐらいには到着しているはずだ」


 ぴくり、と眉を動かしたヘルメに苦笑する。


「そう嫌がってやるな。お前達はどうしてそう睨み合うんだ?」

「嫌がってなどいません。ただ、つける薬がないほどの馬鹿に会うのが不快なだけです」

「頓珍漢な事をいうなよ。結局嫌がってるんじゃないか」

「嫌がってません」


 無表情で言い切るヘルメにレスティナは笑いを噛殺す。


「はいはい、そういうことにしておこうか。とりあえず魔術師の件、調べるように鳥を飛ばしていおいたからそろそろ情報が入っているはずだ。その報告も聞きたいし。近いうちに顔を出せと伝えてくれ」

「……かしこまりました」


 レスティナはシリウスをヘルメに頼むと、人ごみの中へと向かって歩き出した。




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