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戦場の花嫁  作者: 杏樹
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異母妹よ


 夜の庭園は月の優しく静かな光を浴びて柔らかな風に花を揺らす。

 花草木たちがこぞってその身を夜風に揺らし歌う音色は穏やかで、中央に造られた噴水の水音とあわせてこの庭を彩っていた。


 夜の闇に包まれて昼とは違った顔色を覗かせている庭園は、月明かりに照らさて闇の妖精たちの戯れの場になるという。

 そんな話を母がしてくれたのはまだ幼い頃のこと。

 あながちその表現も間違ってはいない。母の愛した庭園は何時見ても美しいと思う。


 王宮は田舎出身でのびのびと暮らしていた母からしてみれば檻でしかなかっただろうに…。

 田舎で慎ましく質素な暮らしをしていた母に突然与えられた豪華絢爛な世界。

 慣れるまでには精神的な苦痛がともなっだろう。優しさだけが取り柄ならばなおさら貴族の世界はつらかったはずだ。

 そんな窮屈で理不尽がまかり通る世界。そんな中でこの庭園だけは特別だったらしい。

 どんな美しいドレスより高価な宝石よりもこの庭園を好きだと微笑んでいた母はもう何処にも居ない。


 国王の私室を出てからなんとなく自分の部屋に帰る気になれず、レスティナは王宮に作られた中庭に作られている庭園をふきぬけの廊下からぼんやりと見ていた。


 あの男への復讐は果たした。

 愛する女と同じ顔で消えない傷を作ってやった。

 今頃自分の弱さにさぞ苦悩していることだろう。


 レスティナは自分の家族は母と乳母とアルト山脈の獣達だと思っている。

 もちろん幼い頃は違った。まだ見ぬ父に憧れと敬意を持っていた。

 けれどそれは六歳の時に粉々に砕け散ってしまった。

 母は死の間際に何度も父の名を呼んだ。父に助けを求めていた。

 けれどあの男は母がアルト山脈の離宮に移ってから死ぬまで、そして死んでからも一度も姿を見せることはなかった。


 悔しいなんてものではなかった。


 でもそれ以上に腹立たしいのは母が目の前で無惨に死んでいくのを見ていることしか出来なかった無力な自分自身だった。

 悔しくて悔しくて何度自分を呪い詰ったことか。

 どうしてだと叫びたかった。母が何をしたのだ。どんな罪を犯して母はこんな風に死なねばならなかったのだ。

 王宮から追い出され離宮に閉じ込められても、静かに暮らしていたではないか。

 どれだけ自問自答しても答えが出ることはなく、心の中に残ったのは激しく燃え続ける憤激という炎だけだった。


 思い知らせてやる。

 どんな事があっても必ず復讐してやる。

 絶対にこのままでは終わらせはしない。そう自分に誓った。


 静かな闘志を燃やす深紫の瞳を真直ぐに暗闇に向けていたが、ふと近づいてくる知った気配に気づく。

 レスティナはそれが誰であるのか充分理解していたので態とそのままの体勢を保った。

 相手が声をかけてくるのを待ったのだ。

 しばらくすると布の擦れる音が近くでした。

 相手は気配を消しているつもりなのだろうが全く消えていない。

 思わず苦笑してしまった。

 それでレスティナが気づいていることを相手は理解したのだろう。

 やや怒ったような声が背後からかけられた。


「自分からわたくしの身代わりにアルヴァルチアに嫁ぐと言ったそうね。いったいどういうつもり?」

「……久しぶりだね、ハヴリーン」




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