❐序
そこは一面の白銀の世界だった。
空は灰色で、重い雪雲に蔽われている。
太陽の光は弱々しく、頼りなくもれていた。
視界は純白のベールがかかったように霞み、地面は降り積もった真新しい雪に支配されている。
白銀の世界は何者にも侵されることはない。
静寂に包まれた深い森の中、古色蒼然たる樹木が生きる奥深く太古の自然が息づくそこで、ただひっそりと森の鼓動を感じている者がいた。
一人きりの孤独な瞑想の中、ふと、違和感が生じた。
それは闇を切り裂くように現れる光のように突如としてやってきた。
自分と森以外の鼓動を感じたのだ。
それはとても小さな音だった。
けれど間違うはずがない。
ああ、目覚めが近い―――…。
その時が迫っているのが夢現でもわかった。
世界が歓喜の産声を上げようとしている。
このときをずっと待っていた!
時間が静かに通り過ぎていく気の遠くなるような長い年月を彷徨い続けながら、探し続けた魂の鼓動がすぐ近くに感じられた。
狂喜に震え、早鐘のように高鳴る気持ちを抑え耐える。
焦るな、待つのだ。
今までもずっと待った。
あと少しだけの我慢だ。
やっと…、やっと待ち続けた愛しい人が長い放浪の末に戻ってくる―――――…!
ゆるやかに闇に沈んでいく思考の狭間で、燃え盛る一筋の光だけが輝いていた。




