1-5【はじまり】
手足も首も
針金で椅子に縛られている。
針金が肉に食い込み、血が滲み出している。
冷たい金属の感触と、寒さがより恐怖感増幅させた。
口には猿轡をされている。
見えるのは蝋燭の光だけ。
ゆらゆらと、今にも消えそうに揺れている。
理解ができない。
ここはどこ?
一体何があったの?
夢?
「…夢じゃないよ…」
闇の中から声が聞こえる。
暗闇から何かが近づいてくる。
淡い蝋燭の光にゆっくりと照らし出される。
漆黒のマントとフード
口元だけがかすかに見えている。
その口元は少し笑っているように見えた。
全身に鳥肌が立ち。
汗が噴き出る。
恐怖
今までに感じた事のない恐怖。
低い声でゆっくりと語りかける。
「…身体の傷と…
…心の傷… どちらが 痛むのか…」
ゆっくりと近づいてくる。
「身体の傷は… いずれ治る…
…心の傷は… 治るのだろうか…」
私の人差し指をゆっくりと持ち上げる。
「だから… 心の傷は …
身体の傷より… 酷いのではないだろうか… 」
ゆっくりとペンチを取り出し、私の人差し指を挟んだ。
「では… 治らない… 身体の傷と…
心の傷とでは… どちらが… 」
―パキッ
渇いた骨の折れる音と共に、私の人差し指は、
関節とは反対の方に曲がっていた。
全身に電撃が流れるかのような感覚に、反射的に身体が仰け反ったが
私を縛る椅子はそれを許してはくれなかった。
「治らない… 身体の傷… 」
そう言いながら、今度は薬指をペンチで挟む。
―パキッ
痛み
恐怖
私は全身を捩じらせて抵抗しようとするが
それは、より私の体に針金を食い込ませた。
「… 身体の … 傷… 」
―パキッ
何かの儀式のように…
―パキッ
呪文の様に唱えながら…
―パキッ
1本ずつ…
―パキッ
ゆっくりと…
―パキッ
私の両手の指を…
―パキッ
淡々と…
折っていく…
私はその度に身体を仰け反らせ…
針金を食い込ませ…
声にならない声を叫び続けた…