1-3【たかゆき】
ケーキは美味しかったが、さほど会話は盛り上がらなかった。
コーヒーをスプーンでかき混ぜ続けて、いったいどれくらい経過
しただろうか。
私は何をしているのか分からなくなってきた。
「そろそろ、帰ろ… 」
その時、純平の携帯電話が鳴った。
「ちょっとごめん」
そう言いながら、携帯電話をポケットから取り出した。
「はい純平です… 」
私はコーヒーをかき混ぜ続けていた。
「うん…そう…そうそう…えっ?…うん」
相槌を打ち続ける純平。
「うん…分かった、じゃあ待ってるね」
何を待つのか…これ以上コーヒーを混ぜ続けていたら
コーヒーゼリーが出来上がるのではないだろうか。
そういえば、なんとなくとろみがついてきたような…
「あのね、貴之が来るって」
「は?貴之?」
「そう、丁度近くにいるんだって、10分程度で来れるってさ」
「貴之って…」
「上田貴之だよ、あの剣道部だった…」
「上田君か!確か背の高い」
「そうそう、高校は県外に行ってたんだけど、就職でこっちに
戻ってきてるんだ」
そもそも県外に行ってた事も知らないが…
確か真面目な人だった印象がある。
でも、特に目立っていた印象はない。
勉強もスポーツもルックスもそこそこの普通の人だったような。
特別仲が良かったというわけではなかった。
「よっ、久しぶり!」
背後から急に声をかけられビクッとして振り返ると
そこには背の高い青年が立っていた。
「どうしてコーヒーかき混ぜ続けてるの?」
笑いながら私の横の椅子に座った。
「なにか甘いもの食べたいな、ケーキたべようかな」
「チーズケーキ美味しかったよ」
純平がすかさず答える。
「じゃあ、チーズケーキとコーヒーブラックで」
貴之はお絞りで手を拭きながらこっちを向いた。
「いやー久しぶりだね、10年ぶり位?」
「そうだね、中学校以来だからね」
学生時代の面影というか、あまり記憶がない。
どんな顔だったかは思い出せない。
中学校時代が遠い昔のように感じる。