1-1【みゆき】
目を開けるとそこは暗闇だった…
小さな光がいくつかある…
蝋燭だ…
ここは一体…どこ…
田舎暮らしが嫌で、都会での暮らしに憧れていた。
高校を卒業を機に、憧れを叶える為、都会の短大へと進んだ。
学校を卒業して、就職して、年収1000万円の夫をもって、
幸せな専業主婦になる事を夢見ていたが、
実際はそううまくはいかなかった。
まず、こんなに就職する事が難しいなんて思っていなかった。
何社も受けては落ち、受け手は落ち、何度繰り返した事か
繰り返すうちに、気がつけばやりたい事とは違う職種の会社でも
面接を受け、御社を選んだ嘘の理由を喋り続ける自分にも
嫌気がさしていた。
ようやく入社した会社、やりたい事とは違う仕事。
やる気など出るはずが無い。
馴染めない社風、セクハラ、パワハラ、これが世間で言われる
何とか企業かと思いながらも、何とか3年勤めあげた。
その3年間は、苦痛でしかなかった。
心も体も疲れきってしまっていた。
私は辞表を提出し、憧れだった暮らしを捨てて、田舎へと帰ってきた。
「竹内さん」
「あっ、はい」
周りに聞こえるように大きな声で私の名前を呼ぶ部長。
「この計算間違ってない?」
「え?」
渡された書面を慌てて確認すると、確かに合計の数字が間違っている。
「あっ、すいません」
部長は眉をしかめながら私を見て
「エクセルも使えないの?」
「すいません」
「上司に提出する前にチェックするのが基本でしょ?
確認もしないで提出するなんて、今までどんな仕事のしかたしてきたの?」
「… … … 」
その後、嫌味を言われながらも、謝り続けた30分。
地元に戻ってきて、派遣社員となり。
以前の半分の年収で働いている。
どうもこの部長は、派遣社員というものが嫌いなようだ。
いや、私の事が嫌いなのかもしれない。
地元へ帰ってきて約3か月、この仕事も1カ月続けているがやはり
やる気など出るわけがない。
なにか楽しい事があるわけでもなく
夢があるわけでもなく。
実家と会社の往復をするだけ。
これが夢に破れた人生というものなのだろうか。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
台所から母親が出迎える。
とりあえず、帰ってきた時に一人ではないという事が
幸いか…
「そういえばさっき、みゆきちゃんから電話があったわよ」
「みゆき?」
「そう、あのみゆきちゃんよ」
母親から預かった、みゆきの携帯電話の番号が書かれた紙を手に
私は2階の部屋へと向かった。
「ごはんは?」
「みゆきに電話してから食べる」
みゆきとは幼稚園からの幼馴染みで、親友とも呼べる人だ。
昔はいつも一緒にいたがし、地元を出て、社会人になってからは
お互い忙しくなり、だんだんと連絡を取らなくなっていった。
電話するのも久しぶりだ。
携帯電話の番号が変わっている事を知らなかった事が
その時間の経過を物語っていた。