出会いとイベント
気がついたら連休最終日が終わってました。
追記1/23 文章を一部手直し
淡い光に煌く腰まで届くほどの銀の髪、意志の強そうな性格を覗かせる深い青色の瞳、白いワンピース。
おそらく俺と同年代ほどであろう目の覚めるような美少女が、そこにいた。
「えっと・・・言葉は通じておるかの?」
「っすまない、言葉は通じているよ。」
思わずボーッとしてしまっていたようだ。
にしても先程までは俺しかいなかったはずだが・・・なんでこんな少女がいるのだろう。
「すまぬ、今の年代を教えてもらえるかの?」
「帝国歴587年だが・・・」
「て、帝国暦じゃと?」
年代を聞くと少女はなにやらブツブツ呟き出した。
「・・・ところで君の名前を教えてくれないか?」
「あっ、すまぬ。妾の名前は、ナノア・ハベルティア・フェイラブルじゃ。」
「やたらと長い名前だな・・・もしかして貴族か・・・?」
こんな田舎だから貴族に会ったことはないが聞いた話じゃ理不尽な輩が多いらしい。
少し逆らっただけで殺されたなんて物騒な話も何度かだけだが聞いたことがある。
「いやいや、妾は・・・一応竜種の種神じゃ」
「・・・ん?」
種神・・・種神と言ったか?
俺の知識が正しければ・・・種神は創世神話戦争時代にだけ存在したと言う種族の神じゃなかっただろうか?
確か理由は不明だが神話戦争中に全て滅びたと聞いた気がする。
いや、それ以前に・・・
「種神?君が?」
仮に、万が一にでも種神だとしてもこんなに幼いわけがない。竜種といえば寿命は1000年にとどく者もいるというし第一、竜なのに人の形をしている訳がないだろう。
「むー、疑っておるな?いいであろう、種神だという証に神術を見せてやろうぞ!」
そう言うと少女は目を閉じる。
「天を貫くほどの焔の渦を・・・ハッ!」
少女が手を突き出すと、数メートル前の地面にライターレベルの火が出た。
少女は口を開けて呆然としているが、俺もかなり驚いていた。
普通は魔法を使うときの呪文といえばかなり長い。ただ単に火を起こすだけの魔法でも
この年頃くらいの子なら詠唱に5秒ほどはかかる。それをこの子は数単語で完成させたのだ。
この年で魔術に対する深い理解が必要な詠唱短縮ができるなんてかなりの天才だと言えるだろう。
「理力が・・・ない?」
「理力?なんだそれは?」
「神術を使うためのエネルギーじゃよ。お主ら人間が魔術を使うときの魔力のようなものじゃ。まぁ魔力を持っている人間には使えんがの。」
おぉ痛い痛い。懐かしき昔の中二病を思い出し背中がむず痒くなる。この年からこれだと将来が不安だ。
天才というのはネジが一本抜けているというがこの子も例に漏れないのだろう。
「それじゃあ俺は魔力を持ってないけど使えるのか?」
「何を馬鹿なことを言うておるか、人は誕生と同時に世界の加護を受け多少なりとも魔力を授かる、魔力を持たぬ人間など人間ではないわ。」
なんか人間として否定されてしまった。
「それなら俺にその理力とやらの使い方を・・・ッ!?」
突如地面が大きく揺れる。
「ったく、今日一日だけでどんだけイベントあるんだよ!?」
「なっ、なんじゃ!?」
次の瞬間、横の方にあった壁が吹き飛び何かが現れる。
「これは・・・魔物!?」
父さんから聞いた話だが、ここ数百年前から魔物というものが湧き出したらしい。
どこから来るのか、どうして居るのかすらわからないそれらは、当初圧倒的な繁殖力と知性で人間をかなり追い詰めた。しかし魔物を倒した際に出る魔石の新しい利用法の発見や仕事斡旋のギルド、冒険者育成施設などの誕生で押し返し、現在は人間側が多少優勢の状態を保っている状態らしい。
しかしながら・・・今俺の前にいるのは並大抵の魔物ではないだろう。
随分前に数度出会っただけのゴブリン、緑色の体に醜悪な外見、そしてあの独特の威圧感は幼少期の俺に大きな恐怖を残した。
それすらも魔物の中ではかなり底辺、駆け出し冒険者のいい練習相手レベルらしい。
最終的に父さんに鍛えられ楽に葬れる程度にはなったが、今目の前にいるのは目測でも5m以上はあるだろう。まるでモグラのような姿をした魔物はこちらを、いや正確にはナノアと言う少女のことを見ていた。
「危ないっ!」
咄嗟にナノアを抱き横に跳ぶ。
するとつい先程まで俺とナノアが立っていたところにモグラ型の魔物のドリルが突き刺さった。
「な、なんで魔物が・・・あの時に滅んだはずでは・・・!?」
なにやら後ろで呟いているナノアに声をかける。
「すまない!あそこから地上に脱出できるから父さんを呼んできてくれ!」
「わ、分かった。じゃがお主一人で戦えるのかの!?」
「なんとか持たせる!早く行け!」
ナノアを出口に向かっては知らせると、それを追うように魔物の視線も動く。
「お前の相手は俺だ!」
正直俺一人で抑えられる訳が無い。だが今の俺はアドレナリンでハイになっているのだ。恐怖心皆無だ。
「来いよ化物・・・!」
この魔物は大きく、攻撃力も高い。その高い攻撃力は俺がさっき立っていた地面が
大きく抉れていることからもわかる。
だがしかし、動きは鈍重であり避けるのは簡単だ。
父さんが来てもどうにかなるわけでもないし、第一あの女の子は父さんのことを知らないんだから呼んでこれるわけがない。
だが、こいつをここから出してしまうと、村は大惨事になるだろう。
村には大事な人もいるんだ、ここから出すわけには行かない。
おおきく振りかぶったドリルを横に転がるようにして避ける。
「時間稼ぎくらいはしてやるぜ!」
ドリルを振り下ろしてできた隙に、一気に近づく。
「はっ!」
突き立てたナイフは、何の抵抗もなく魔物の皮膚を貫いた。
魔物が痛みに体を揺らす。
(一応効いてはいる・・・だが一撃のダメージが低いから倒すのは厳しい・・・)
ヒットアンドアウエーで地道に倒していくしかないだろう。
攻撃を当てては避けてを必死に続けていく。
このダガー一本で、勝てるのだろうか。
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どれくらいの時間が経過したのだろうか、徐々に体が動かなくなってきた。
かなりダメージは与えたとは思うが魔物は一向に弱る気配はない。
それに比べ俺は動きは鈍くなり、魔物の攻撃で飛んできた礫などで少なからずダメージを受けている。
辛うじて直撃は避けているが、どうなるやら分からない。
そして、何回目かすらわからないほどの攻撃を当てた時、とうとう限界が訪れた。
足をもつれさせその場に倒れこむ。
(随分と頑張ったな・・・)
俺の人生はどうやら旅にすら出れずに終わるようだ。
できることなら村までこいつが攻め込みませんように・・・
振り下ろされるドリルを見つめながら今までを振り返る。
「短いけど楽しい人生だったな・・・」
穏やかな気持ちで目を閉じる。
(・・・あれ?)
なんで未だに攻撃が来ていないんだろう。
目を開けるとそこには、魔物の攻撃を2mはありそうな大剣で受け止める俺の父親がいた。
「と、父さん・・・!?」
「遅れて済まなかったな、ユート」
「だ、ダメだ父さん。逃げて!」
人一人でこんな化物に勝てるはずがないだろう。
「こんな辺境の村になんでこんなのがいるんだか・・・まぁ俺の息子に手を出したんだ、生きて帰れるとは思うなよ。」
受け止めていた攻撃を武器を使って弾き返す。
「こんな大物と戦うのはかなり久しぶりだな・・・」
モグラ型魔物が弾かれた腕を振り下ろす、そして腕が体に当たりそうになった瞬間、
「【疾風返斬】!」
瞬間、父さんの両手剣が赤く鈍く光り、とんでもない大きさの魔物を一瞬で肉塊へと変える。
「おっと、久しぶりだからちょっと力を入れすぎたかな・・・」
父さんが血糊を払いながら武器をしまい、こちらに歩いてくる。
「遅れてすまなかったな・・・今は眠っておけ。」
安心感から、俺は意識を失った。