異世界転生は突然に
皆様はじめまして。小説を読んでいるうちに自分もどうしても書いてみたくなり書き上げました。細々と続けていきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
バケツをひっくり返したような雨の中、傘をさした一人の青年が走っていた。
(間に合うか・・・!?)
時刻は8時直前、寝坊をした青年は豪雨の中を急いでいた。
(寝坊した日に限ってこんな天気かよ!)
悪態を付きながら足を急がせる。
そして学校の数十メートル手前の角を曲がった時だった。
視界一杯に広がる眩い光、そしてブレーキを踏むような音に続くように
とんでもない衝撃と浮遊感が青年を襲う。
(・・・え?)
おそらく地面に叩きつけられたのであろう衝撃を受け、
ようやく青年は自分が轢かれたことに気がついた。
トラックの中から誰かが降りてきて声をかけてくる。
「━━━い!君━!━━う━か!?」
しかし殆ど意識の消えかかった青年にその声は届かない。
ぼんやりとした視界には必死に呼びかける男性とライトを点けたままの
トラックが映り、そして
実にあっさりと、青年は死んだ。
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(・・・!)
目を開けるとそこには、どこまでも真っ白な空間が広がっていた。
「ここはどこだ・・・?」
「全く・・・なんでこんなことになっているんだか・・・」
突如背後から聞こえる妙な訛りの入った日本語。
青年が驚き振り向くとそこには金髪碧眼の男性がいた。
「・・・どちら様で?」
見るからに怪しさMAXでその上イケメンだが青年は
警戒しながらも取り敢えず真面目に応対する。
「・・・そんなに警戒しないでくれ。取り敢えず君の今の状況について話すよ。」
そう言うと男はどこからともなく椅子を取り出し座り、
向かいにもう一つ椅子を出すと手で俺に勧めた。
突然椅子を出した時点で怪しすぎるが、いつまでもここで立っているわけには行かない。
青年は仕方なく椅子に腰を下ろした。
「何から話そうか・・・取り敢えず、そうだな。君は死んだよ」
天気を話すがごとく告げられたとんでもない一言は、あまりに大きすぎて逆に青年を落ち着かせた。
「そうか・・・だろうとは思っていたよ。」
「・・・意外と落ち着いているね、普通なら取り乱すと思うんだけど。」
「騒いでいたってどうにもならないさ。で、俺はなんでこんなところにいるんだ?」
「そうだね・・・君は輪廻転生って知ってるかい?」
唐突な質問に少し戸惑いつつも答える。
「あぁ、確か・・死んだ魂がまた動物や人間として何度も生まれ変わること・・だろう?」
「そう、そして大体の世界ではこの輪廻転生型を採用している。」
「世界・・・?」
「まぁ一々新しい魂を生み出していくのは効率が悪いからね」
サラっと青年の疑問をスルーした男は更に説明を進める。
「普通は魂の循環というものは世界ごとに独立しているんだ。なにか大きな問題が起きた際に飛び火しないようにね。」
「なるほど、分からん」
数秒の沈黙のあと男が手を振ると横にホワイトボードが現れた。
男は無言でペンを手に取るとホワイトボードに何かを書いていく。
「この円が君が生活していた世界だ。」
そう言うと男はホワイトボードの上半分に書いた円を指で指し示す。
「普通は創造されると世界の終焉か新規の魂との交代までは延々と同じ世界で輪廻転生を繰り返す。」
「へぇ・・・で、それが俺と何の関係があるんだ?」
「・・・君は死を迎え、普通ならもう一度輪廻転生の輪に加わるはずだった。」
「だった?」
「どういうわけか君の魂は輪廻転生の輪を大きく外れ・・こちらの世界に飛び込んできた訳だ。」
「追い返したらいいんじゃないのか?」
「そう簡単に行けば苦労はしないさ・・・、まず君が元々存在した世界とその創造神が分からない。
そしてそれを探して君を元の世界に返せそうなこの世界の創造神は、仕事を僕に押し付けて下界に逃げているんだよ・・・」
「お、おう・・・」
男の暗い声とある種達観した顔から青年はこのイケメンに苦労人のオーラを感じ取った。
「・・すまない、愚痴ってしまったね。」
仕切り直すように一度会話を切ると、またどこからか紅茶とカップを二つ取り出し
二つのコップに紅茶を注ぎ片方を青年に薦める。
「あ、ありがとう」
少し甘めの紅茶を飲みながら男が青年に告げる。
「輪廻転生は基本的にそれぞれの世界ごとに独立している、と言うのはさっき説明したね。」
「あぁ、俺は本来ここにいるべきじゃないんだろう?」
「そうだ、そして魂が別の世界に行くと・・・世界の自浄機能によって消されるんだ。」
「消される・・・?だが俺は残っているぞ。」
「あぁ、それは僕が処置しているからだよ。」
「処置?」
「まぁこの空間でしか保てないんだけどね」
「へぇ、じゃあ俺はこれからどうすればいいんだ?」
「あぁそれなんだけど・・・君は下界のどこかにいる創造神を探し出し説得して、自分の世界へと帰らないといけない。もし旅の途中で死んでしまったら・・・永遠を無として彷徨うこととなる。」
「ぞっとしないな・・・ちなみになにかしら強化されたりはしないのか?」
「創造神がいればそんなこともできるけど・・・残念ながら僕にはできない。」
「そうなのか・・・聞く限りではかなり絶望的だな。」
一瞬にして潰された異世界チートという夢に少なからず落胆する。
「それと・・・今のまま下界へと降りてしまったら世界の修正力で徐々に体が消え始めるんだ。」
「・・・え?それ積んでないか?」
「でもそれは前世の体だと、だ。君にはどこかの家の子供として生まれてもらおうと思う。それくらいなら僕にでもできるからね。」
「確かにそれなら常識なんかも学べるし体も自然に鍛えられるだろうが・・・色々面倒なことにならないか?」
「・・・そうだね、最悪の場合、種族差別や環境の不遇でとんでもなく難しい状況からのスタートになるかもしれない、こればかりは完璧に運勝負だ。」
二人のあいだに重苦しい雰囲気が漂う。
「・・・まぁ、頑張ってみるさ。」
「すまないね・・・僕にできることなんて殆どないけど・・・気をつけて」
「あぁ、別にあんたが謝ることはないさ・・・っと最後にお前の名前を教えてくれないか?」
「そう言ってくれるとありがたいよ。僕の名前はリヴィラ、だ。君の名前も教えてくれるかな?」
「あぁ、俺の名前は伊吹悠斗だ。じゃあな」
「イブキ、か・・頑張って。」
リヴィラが別れを告げながら手を一振りすると悠斗の姿は音もなく消えた。
無意識に白い空間を歩き回りながらリヴィラは漠然と考える。
この世界は厳しく、日常の中に当たり前のように死が転がっている。
平和だった村が野盗の襲撃に会い一夜のうちに阿鼻叫喚の地獄へ変わったり、
ほんの少し町から離れただけで魔物の襲撃を受けて殺されるなんて本当に日常茶飯事なのだ。
長く世界を見守ってきたリヴィラだからこそ、この世界で普通の人間が各地を巡りどこにいるのか、
どんな姿なのかさえ分からない相手を探すことの難しさは理解していた。
だがしかし、
「生きて帰って来ないかな・・・」
創造神が下界へ降りてから数百年。
リヴィラは久しぶりに話したあの人間と、何故かまた会いたいと思った。