001 『異世界への道』
普通で充実した暮らしをモットーに生きてきた、
主人公若干チートの奴隷ハーレム? ものです。
不定期更新です。
「……今日は満月か」
いつもより遅めのバイト帰り、真っ黒に染まった空を見上げながらふと呟く。
月にいい思い出はない。好きだった子に振られたのは満月の日だった。高校の受験に失敗したのも満月の日、俺をかわいがってくれたじいちゃんが死んだのも満月の日。
そして今日も1年間続けてきたバイト先で店長に「君、明日から来なくていいから」と言われたところだった。
本当にろくなことが無いな……と自分で言っておきながら少しショックを受ける。
俺、倉本心は現役の大学2年生だ。高校では受験に失敗して私立の無駄に高い高校に通ったが、その時必死になって勉強して今は国立のそこそこいい大学に通っている。俺自身、よく頑張ったと思う。高校のときは勉強しかしてなくて、友達も全くいなかったけど、もともと暗い性格ではなかったので大学ではすぐに友達も出来たし、顔も自分で言うのもなんだがそれなりに整っていたので少しはモテた。だから、それなりに充実した学校生活だったと言えるだろう。
……そう、だったと言えるだろう。さっきも言った通り、バイトが無くなったのである。俺はこれからどうやって暮らしていけばいいのか。
俺の家族は父さん、母さん、姉1人、妹1人、俺、の5人家族で俺は次男だった。姉と妹の出来があまりにも完璧すぎたので(学力、スポーツ、ルックスなどなど……)俺にもかなりの期待をされてしまっていたらしい。
行きたかった高校に落ちた時は温厚な母には口を聞いてもらえなくなり、次の日に父に家を追い出されてしまったくらいなのだからよっぽどだろう。
だから当然、親からの仕送りなんてものは高校受験に失敗した瞬間からある分けが無い。
何が言いたいのかというと、高校の時から俺の生活はバイトの金によって支えられてきたということだ。だが、その唯一の生活資源を無くしたので、このままでは大学に通うことはおろか今後の生活までもが危うい。というか無理だ。
「はぁ」
自然とため息がでる。今手元にある金は先ほどのバイト代を合わせても4万3000円だけだ。
ここから、今住んでいるぼろアパートの家賃を引くと、たった8000円しか残らない。もう、次のバイトが見つかるまで親に土下座でも何でもして金を借りるしかないな。
と俺の結論が諦めるに決まった時にあるものが視界に映る。
「……猫か」
真っ黒な毛で月の光が反射して目だけが輝いているように見える猫。普段から人が全くいない公園にぽつんと座っていた。黒猫は縁起が悪いとよく言うが、今の俺にはそんなことは関係なかった。
あぁ、なんだろう落ち込んでる時に見るとすげぇ癒される。……撫でたいな。
ふら、ふら、ふらーっと……無意識のままに猫に近づく。と、猫の体が急に光を帯びる。……って、え? あれ? 猫って光るような動物だったっけ。
その猫の放つあまりの眩しさに、俺は思わず目を瞑ってしまった。
一体どうなってるんだ!? 光る猫ってなんなんだよ!?
疑問だけが、俺の頭にぐるぐると渦巻いていく。
ああ、ダメだ。 頭が、思考が追いついてこない。
どうなってんだよ! なんだよ、あれ!
気がつくと、俺の目の前には、南米のジャングルのような森が広がっていた。
「…………は?」
え? なにここ? どこ!?
キョロキョロと周りを見渡すと、
背後に緑色のたこみたいな生物がウニャウニャとうごめいていた。
……はい? なんでしょうこの《何がファイナルなのかわからないファンタジーゲーム》でよく出てきそうな感じの化け物は。
『キシシャァァァァァァァ!』
無駄なことを考えている暇もなく、緑たこ(仮名称)はけたたましい奇声を上げながら何本もある黄緑色の触手を一斉にこっちに叩き付けてきた。
「うぉっ!」
それを間一髪でかわしてからさっきまでいた場所を振り返ると、無残に破壊された地面の残骸が残っていた。そしてゆっくりと此方を振り向いた、緑たこは数秒間俺を睨みつけた。その間に逃げようとも思ったが、なぜか一歩も足をかすことが出来なかった。
「マジかよ!」
不意に全身に力が戻り始め、硬直していた体は徐々に温かみを帯びて行った。その一瞬を見逃さず、俺は反対方向に全速力で逃げ、追いかけてくる緑たこを振り切ろうとがむしゃらに走り続けた。
しかし、木々が生い茂る森の中は予想外に走りづらく、俺と緑たこの距離は一向にひらかない。逆にどんどん縮んでいるように感じる。遂には後4、5メートルという所まで追い詰められてしまった。
追いつかれたら最後、『死』という単語が明確に俺の脳裏によぎり、心臓があり得ないスピードで鼓動を打っているのが伝わってくる。その不吉な単語をなんとか頭から振り払いこの状況の解決策を考える。
俺とあれの距離はもうたったの4、5メートル。しかもどこを見渡しても森しか無い。
この情報のほかに何かないのか、そう考え探しても何も見つからない。
駄目だ! 何もできない! 逃げるにしてもこの足場じゃあっちの方が有利だ、このまま行ってもつかまるのが落ち。
くそっ! どうすりゃいいんだよ!
『ギィィィィィィィィィィィ!』
なにかの悲鳴が聞こえ、すぐにドスン。と何かが倒れた音がした。
恐る恐る振り返ると、小学5年生くらいだろうか、金色の透き通るような髪を緩やかに腰まで降ろした少女が自分の身長の2倍はあるだろうと思われる杖を片手にこっちを睨みつけていた。
俺、何かしましたか?
少なくとも、金髪幼女さんとは一度も面識はなかったはずなんだけど。
ってか、あの子緑たこ、あの子が倒したのか? にしては、軽装過ぎると思うんだけど。
次々と浮かんでくる質問をかき消すように少女は緑たこの上から質問を放り投げた。
「お前、こんなとこで何してる」
「何って……いや、散歩だよ、散歩」
適当な嘘をつくと金髪の少女は一気に馬鹿にしたような顔になり、吹き出すのを我慢しているのが丸分かりだった。
あれ? なんか言ったのかな?
「散歩なわけないだろ。こんなモンスターの巣みたいなところで」
「え、ここモンスターの巣なの!? ならすげぇ危ないじゃん!」
「知らなかったのかよ……」
「じゃあお前は何してたんだよ、危険なとこなんだろ?」
「オレはいいんだよ、魔法の特訓してたんだから」
少女は得意げに恵まれていない胸を張った。
「魔法ってなんだ?」
「は? 魔法を知らないのか?」
「ああ、知らない」
「…………まぁいいか」
少女は少し呆れた顔をしながら説明をしてくれた。
その話を適当に要約すると、『魔法』というのは人の体に存在する『魔力』を糧に使用できるものらしい。魔力は力にばらつきはあるが誰にでも備わっているものだとか。自分でどの魔法を使うかは選べなくて、使える魔法はたった一種類だけで『火、雷、水、氷、風、土、光、闇』という定番のものから『重力、錬金、精霊、武装』など変わった魔法もあるらしい。
「じゃ、ちょっと見せてやろうか?」
「本当か!? 見せてくれ!」
少女は腰に掛けていた両腕を片方だけ目の前に突出し、
「よしっ、と『氷岩!』
呪文とともに少女の身体が淡く水色に光り始め、瞬く間ににボーリング玉程の氷の塊が完成した。
その氷の球体は少しの間ふわふわと浮かんでから、一瞬で雪のように溶け、少量の水だけを残して跡形もなく消え去ってしまった。
「簡単な魔法はこんなもんかな」
「すげぇ」
自然とその言葉を口にしていた。やはり、化学の中で生きてきた俺にとってこれは考えられないことなのだろうか。
魔法はもう終わったのにまだ足が震えているのに気づき、内心で自分に苦笑した。だが、これで確実に分かったことがある、ここは俺が住んでいた世界では無く、全く何も知らない異世界なのだと。
「で、これからどうするんだ?」
額に浮かんでいた汗を軽く手で拭いながら訪ねてきた少女の顔をもう一度しっかりと見ると、それはかなりの美少女だった。
くりくりとした大きな真っ黒い瞳、ウェーブのかかった金髪を腰ほどまで伸ばし、頭には魔女がつけるような黒い三角の大きな帽子が乗せられていた。
身長は明らかに小柄でたぶん大きくても155cmが限界だろう。
と、頭の中で考えていいたせいで言葉を返すのを忘れていた俺は、少女に訝しげな表情で見られているのに気が付いた。
頭をフル回転させ、それっぽい言葉をでっちあげる。
「いや、どこにも行くあては無いんだけど」
「じゃあ家帰ったらどうだ、一人じゃ心細いんなら送っていくぞ?」
わざとらしくポリポリと頭を掻く。
「それが帰る場所がないっていうか」
「家出でもしたか? ……まぁいいかオレの家に泊まってけよ! 飯くらいしか用意できねぇけど無いよりはマシだろ」
なんか勝手な解釈をしていたが寝床を確保できること自体はありがたい。これを期にこの世界の事も教えてもらえたらラッキーだろう。
俺はその行為に素直に甘えることにした。
「ああ、お願いするよ。ありがとう」
大幅に改編いたしました。




