第三章 「それぞれのクリスマス①」
「ん~、ここのミートスパゲティはホントにおいしいですね」
昼時というには少し遅い時間、俺と葉月は商店街のカフェに来ていた。
俺はコーヒーを飲みながら葉月が食べているのをじっと見る。
「・・・何ですか、翔君?」
俺がじっと見ているのに気づいたのか、食べる手を休めて聞いてくる。
「いや、本当においしそうに食べるなーと思ってさ」
「だっておいしいですから♪」
これだけおいしそうに食べるところは奏そっくりだよな。作った人もさぞ嬉しいことだろう。
しばらくして葉月も食べ終わり、会話を楽しんでいると、ふと見知った顔がテラスの前を通った。
「・・・あれ、お兄様?」
「みたいだな。それにあの車椅子の少年は確か・・・」
葉月と顔を見合わせていると、こっちに気づいた二人が近寄ってきた。
「よう、お二人さん! デートとは羨ましいねえ」
わざとらしくニマニマ顔を作った征が、これまたわざとらしい口調で話しかけてきた。
「お久しぶりです。柚原さん、姫宮さん」
そして、車椅子に乗ったまま少年・・・日渡が、軽く会釈しながら挨拶してきた。
「うん、お久しぶりです。ところで、どうしてお兄様が彼と?」
「そりゃあお前、一度は会っておかないとと思ってな。ちょっと寄らせてもらったのさ」
「いきなり来られたので、こっちはビックリしましたよ」
「しょうがないだろ、電話番号知らないんだから」
・・・意外と打ち解けてることに多少驚きはしたが、まあこの様子なら問題ないみたいだな。
「それで、お兄様は彼を連れ出してどこに行くんです?」
「ただの散歩と買い物だ。ちょうど出かけようとしてたところに邪魔しちまったからな、そのついでだ」
それもあるだろうけど、征のことだから、道が所々凍ってるから危ないと思ったんだろ。
まったく、征らしいな。
「ところで翔、奏は今日はどうしてるよ」
「ん、奏は友達と一緒に映画見に行くって言ってたぞ」
「ということはだ、夜は空いてるんだよな、お前らもあいつも」
「何がということなのかは置いておくとして、まあこの辺りじゃあ夜通し遊ぶとこもないし、そうなるが?」
その言葉を聞いて、何やら楽しげな表情を浮かべる征。
そういえば受験期で結構ピリピリしてたせいか、こいつのこんな表情は久々に見た気がするな・・・。
「よし。んじゃあ今日の夜は、こいつん家でパーティーな!」
ポンっと日渡の肩に手を置いてそう告げる征。
「え・・・?」
状況を把握できてない日渡が首をかしげつつ助けを求めてくる。
まあ驚いてるのは俺も葉月も一緒だけど、そこは伊達に幼馴染やってない。
「私たちはいいですけど、彼の家は大丈夫なのですか?」
「え・・・まあ母さんはいるけど、訳を話せば大丈夫だとは思います。でも、ほんとにいいんですか?せっかくのデートなのに」
「ええ、構いませんよ。ねえ翔くん」
「そうだな。もともと、俺たちも今夜のことは迷ってたんだ。ちょうどいいさ」
毎年この日は、みんなでパーティをやってたのに、今年は俺たちが付き合い始めたからと奏が二人きりで楽しんできなよ、と半ば強引にデートということになったんだ。
もちろんデート自体は楽しいし嬉しい。でもやっぱり今までの幼馴染みんなとの時間が急になくなるのはどこか寂しくもあった。
だから、この征の提案は渡りに船だ。
「先輩方がそれでいいなら・・・でも飾りつけとかどうしますか?」
時計を見ると時間は2時を少し回ったところだった。
買い物して料理とか作るとなると、結構ギリギリかもしれない。
「じゃあ今から買い物に行って、それから私が料理を・・・」
「待った」
葉月の言葉を征が遮る。
「買い物は俺とコイツが行くよ」
「でも料理とかは・・・」
「今年はデリバリーでいいじゃないか。せっかくの初クリスマスデートなんだ、楽しんでこいって。奏には俺から連絡しとくからさ」
何というか、最近征の奴、妹にかなり優しくなったような気がするな。いや、元から可愛がってはいたけど、俺や奏とはまた違った風な接し方になったと思う。
「・・・葉月、征もこう言ってるんだ。今年は任せてみよう」
「翔くんがそう言うのなら・・・わかりました。ではお兄様、日渡くん、準備のほうお願いしますね」
「おう」「はい」
その後、二人とはデパート前で別れて、俺たちは再びデートへと戻った。