序章 「困惑のReunion」
このジャスミンの話は、フリージア及びリンドウ編の核となるストーリーです。
この話だけを見ても意味がわからないと思うので、先に前二編を読んでから、改めて読むことをオススメします。
「はぁ~、今日も寒いなあ~」
私、柚原奏は、手に息を吐きながら、家に向かって歩いていた。
今は12月の半ば。
うちの学園は15日から冬休みで、今日はその冬休み初日。
・・・だというのに、夏休みのとき同様、私はまた補習を受けることになってしまった。
「まったくもー、なんで学校には補習って制度があるんだろうねー!」
理不尽な怒りなのはわかってるけど、やっぱり嫌なものは嫌!
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは、朝から買い物に行くって二人して出かけちゃったし、征ちゃんは受験勉強で引きこもってるし、つまんないよー!!!」
誰もいないことをいいことに、私は大声で叫んだ。
しかし、いくら叫んだところで現状が変わるはずもなく・・・
「はあ・・・帰ろ」
意気消沈した状態のまま、私は再び歩き出した。
「・・・ん、あれは・・・」
前方に、車椅子らしきものに乗っている人が見えた。何やら必死になっているけど、車椅子はいっこうに進もうとしていない。
近くまできて見ると、どうやら車輪が軽い溝に挟まってしまったようだ。
「どうしよう・・・完全に動かないや・・・」
乗っている人が、まいったといった声を出した。中学生くらいの男の子、かな?
(困ってるみたいだし、助けてあげたほうがいいよね)
私は車椅子に近づくと、力を入れて、ほんの少しだけ後輪を浮かせて、元の道に戻してあげた。
「大丈夫?」
車椅子の前方に回りこんで、男の子に声をかける。
「・・・あ、ありがとう・・・っ!」
男の子は戸惑い気味にそう言ったかと思うと、突然驚いた顔で、私をじっと見つめてきた。
「えっと・・・私の顔に、何か付いてる?」
そう聞くと、男の子はじっと見つめていたことに気がついたのか、「ご、ごめんなさい」といって、目を反らした。
ちょっと引っかかったけど、気にしないことにした。
「この辺りは溝とかが多いから、気をつけてね。それじゃあ」
これ以上ここにいる理由もないので、私は男の子に背を向けて歩き出した。
「・・・あ、あの!」
ふいに、後ろから男の子に呼び止められた。
「何?」
「その・・・人違いだったらごめんなさい。あなたは、奏・・・先輩じゃないですか?」
「えっ?」
驚いた。私は別に有名でもなんでもないはずなのに、どうして彼は、私の名前を知ってるのだろう?
「・・・どうして、私の名前を?」
私がそう問うと、男の子は途端に笑顔になった。
「やっぱり、奏ちゃんだ。久しぶりだね!」
「・・・えっ?」
私はさらに驚いた。久しぶり・・・ってことは、私の知り合い?
「覚えてないかな?僕だよ、日渡茉莉。七年前にちょっとだけ遊んだ・・・」
「っ!」
彼の名前を聞いた瞬間、何かが一瞬、頭の中を過ぎった気がした。
初めて会ったはずなのに、何の根拠もないけど、私の脳がそれを否定している。
それともう一つ。七年前という言葉に、私はどうしてもあの時のことを思い出してしまう。
『孤独』に囚われていた、あの頃の私を・・・
「私と君が・・・七年前、に・・・」
不可思議な出会い。
そして、七年前の事件。
今、全てが一つに繋がろうとしていた――――