サル魔王
私の家は、山の近くにあるため、ニホンザルが庭にやってくるのだが、その中に一匹、異様な雰囲気のサルがいた。
そいつをじっと見ていたら、何だか言葉を喋りそうな気がしたため、私は話しかけてみた。
「やあ」
「やあ」
案の定だった。
「君は何者だい?」
「魔王さ」
「魔王?」
「そう、闇の大魔王」
「闇の大魔王が、こんなところで何をしているんだい?」
「世界のバランスを取っている」
「バランス?」
もっと詳しく聞こうとした私に、サルは質問を投げかけてきた。
「その前に、君はこの世界の秘密を知る用意があるかい?」
私は、知りたい、と答えた。
「ならば聞こう。この世は光か闇か?」
「光」
「残念。宇宙を思い浮かべてみたまえ。圧倒的な闇の中に、光が点々としているだろう」
「ならば、闇?」
「それも残念。君たち人間は光でできている。光の存在だ」
「どういうこと?」
「この世は、闇が作った、光を楽しむためのゲームだよ」
「闇が作った?」
「そうだよ。さっき言ったように、宇宙の大元は闇だ。その闇から、光が生まれ、人間を創造した。自分が光であるという、ゲームを楽しむために」
「ゲーム……」
「だが、もし、この世は闇だと気づいてしまうと、光のゲームを楽しめない。だから、君たち人間は、この世が闇であることを忘れたフリをして、このゲームを遊んでいるのだ」
「自分が闇であることを忘れたフリ……」
「そうだ。だが、自分が光だと思い込み、あまりにも光に傾いてしまうと、宇宙がバランスを失ってしまう。なぜなら、宇宙は本来闇だからだ」
「そうなると、どうなるの?」
「光が強くなりすぎると、どうなる?」
「真っ白になって、何も見えなくなるね」
「つまり、すべてが消滅するのだ。だから、私が存在している。この世のバランスを取るために」
いつのまにか日没の時間になっていて、宵闇が辺りを包んでいた。
何だか壮大な話だった。
宇宙の大元は闇で、闇がゲームを楽しむために光を創造した、とか。
でも、一つ疑問があった。
「どうしてサルなんです?」
「人間にはこの役は重すぎる。この世の全ての悪を、我が身を通過させ、闇に返さねばならない。君には出来るかい?」
「到底、そんなことは……。アッ!」
そこまで言うと、サルは闇の中へと消えていった。
もっと聞きたいことがあったのだが。
漆黒の闇の中から、声が聞こえてきた。
「サルは去る。なんちて。へへへ……」
私は思った。
やっぱり、あれは魔王だったのだ。




