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灯る炎  作者: エッグ


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エピローグ

このお話は前作灯る炎の修正番です。

前作を読んでいた方々、今作を読み始めた方々に読みやすいように修正して参りました。




大きな洋風の屋敷のひとつの部屋に大勢の大人から子供までの人々が集まっている。

皆、神妙な面持ちで瞳に涙を貯めながらそれを堪えている。

その中の5歳ぐらいの男の子はもう泣いてしまっている。

静かな部屋に響くそのすすり泣く声はその部屋の暗い雰囲気を表している。


そんな人々に囲まれるのはひとつのベッドに横たわる1人の老父。


それが、俺だ。

「なぁ…皆…。そんな暗い顔しないでくれよ。

まるで俺が…死んじまうかの…ようじゃないか。」


俺は自分でも分かっていることをあえて、皆に問う。酷い事をしてしまっているのは分かる。

だが、こんな暗い雰囲気ではなく、明るく死にたいもんだ。


しかし、俺の体には正直ダルさと腰の痛み以外は特にいつもと変わらない。

俺は痛みになれてしまっているから、これが普通の事だと思ってしまう。

体が動かなくて、寝込み始めた時もすぐ治るとばかり思っていた。


俺の家にお医者さんが来て余命を告げられた時は嘘でも言っているんじゃないかと思ってしまうほどに俺は。


狂っているんだろう。


「そうだよね。あの!おじいちゃんだもんね死んじゃうなんて嘘だよね。


私!今外にいるお医者さんに文句言ってくる!

そしたらさ…また…元気になっておじいちゃんと剣の稽古できるよね?」


明るく俺に話しかけてくれるのは俺の孫の三女だ。

この前生まれたばっかのはずなのにもう6歳になっちまった。

時が経つのは、早すぎるもんだな。


「ちょっと!…やめなさいよ…」


俺の孫達の長女が三女を呼び止める。

しかし、普段と違いその言葉には覇気がない。

あんなに幼かった彼女も婚約している。

隣は旦那さんだよな。

かっこいい顔をしてて、たくましい。

あんなに暗かったこの子が俺に明るく接し始めたのもこの人と出会ってからだよな。

この子にとってかけがえのないものなんどろう。


「お義父さん!まだ、僕!貴方から件の稽古で1本も取れてません!まだ、結婚出来ないじゃないですか。

だから…勝ち逃げ…しないでくださいよ…。」


彼は限界がきたかのように俯いて泣き出してしまった。その背中を長女がさする。

俺に1本とったら孫をやるって言ったんだっけ。

親でもないのに変な話だよな。


「あぁ。なら、今やろう。」

「へ?」


俺は細々とした体に力を入れたが、立ち上がることは出来なかった。しかし、魔力を体に乗せ体内の炎の温度をあげることによってようやく立つことができた。

しかし、体は立つことだけでも限界だったようで俺は口から思いっきり血を吐いた。


ゲホッゲホッ。

この真紅の血も何度見た事か。

戦場ではこの血で何度泣いたことか。

昔の出来事が走馬灯の様に思い出させる。


いや、走馬灯である。


「さぁ…行こう」


「え、お義父さん!?」

数メートル歩くだけで息が上がる。

一歩一歩がズシズシと足に響き、そこから、脳にまで振動が響く。


長い時間と感じられるほどの苦痛を味わいながら、俺は玄関に着き、靴を履いた。


昔から鳴る膝の音を鳴らしながら屈伸をして、震える手で木刀を持ち、確と握る。


この木刀は長年一緒に冒険をした木刀でもないけれど、思い出のある剣でこれでよく孫たちと1対3をして、一歩も歩かずに勝ったもんだ。


大人気ねぇな。


だが、いい思い出になったかな。


俺ん家の庭に来た。

ここは娘たちがよく、手入れをしてくれていて、雑草があまりない。

生垣も綺麗になっている。

俺は頼んだ覚えがないのだが、多分妻がこっそり頼んだんだろう。



孫の婿が下段の位置で剣を構え、キッと睨みをきかせている。

もう、この顔を見ただけで正直十分だが、本人はそうとは行かない。

俺は中段の位置で片手で構える。

いつもと同じ構え方だが、変わらない。


「あぁ。始めようか。」


並び立った俺たちは相手の出方を伺い、切りつけようとはしない。

俺がこいつに初めて教えた事だ。

まずは相手をよく見る。

基本中の基本だが、なっていなかった。


場に静寂が走る。





「てぇゃ!」


立っているだけでも命に関わる俺に気をきかせたのだろう早く終わらせるために仕掛けたのだろう。

いつもと違う動き出しだ。


その違和感を俺は見逃さない。

慣れてない先制攻撃を真正面で受け止め、剣を横に受け流した。

その、攻撃を見切れず、彼は体勢を崩した。

その隙に俺は彼の横腹に一撃を入れた。


ドンッという鈍い音が走り、俺の家族たちの表情は曇った。

彼は痛みに耐えるよう、歯を食いしばっていたが、その表情は段々と暗く染まっていった。


楽しいような、悲しいような顔をしていた。


なるほど、俺の一撃は思ったより軽かったらしい。

俺の一撃を喰らいながら、体勢を立て直し正面から俺に剣を振るった。


顔に魔力をかき集めガードしようとした。しかし、その魔力は無駄に帰した。

すんでのところで剣は静止していた。

寸止めされたのだ俺が。


「やっぱり、俺には貴方に敵いませんよ。」


短く、だけれど、長い試合だった。


俺は緊張がほぐれたのかその場に倒れ込んでしまった。

騒然とした家族たちが心配そうな顔をして俺のところへ集まってくる。

「俺の負けだ。良くなったじゃねぇか。

よし、結婚を許そう。



っぷ!アハハハ」


皆はわけのわからないという顔をしていたが、何故かみんなも笑いだした。

この子らも、緊張が切れたのだろう。

笑顔が溢れ、大きな声で腹を抱えながら笑った。

人生最後の大笑い。

みんなは泣きながら笑っていた。


「アハハハハ!アハハハ!うぅえ、アハハハ!」


俺には分かっていたこの瞬間が最後の時になると。だが、そんなのは関係ない。

俺は好きなように笑って好きなように泣いて好きなように怒ってきた。


そんな、人生だった。

例え世界が俺を勇者だと、英雄だと、持ち上げようとも、俺はそんな肩書きは要らない。

だから、あの名誉授与式も抜け出してきた。


あぁ、その時もあの二人とソフィアとニコと大笑いしてたな。

俺の我儘で付き合わせた2人と一緒に。


そんな日々がもう、70年も昔だなんて。

信じられないな。


俺の人生に悔いは無いと言えば嘘になる。

嫉妬して、間違えて、後悔して、逃げたくなった。

しかし、俺はそれに見合う人生を積んできたつもりだ。


だからこそ、俺は自分に自信を持って死ねる。


──ィアもあっちに行ってる事──だから…。


あぁこの感覚は2回目でも慣れないもんだな。


意識が遠のいていく。段々とみんなの笑い声が聞こえなくなり、眠るように瞼を閉じて行く。


今まで感じていた感覚も無くなり、2度目の死が訪れた。


神様は俺に2度目の人生を与えてくれたその事に感謝している。

俺を彼女と仲間たちと家族達と、出会わせてくれた事に、子供達の成長を見られた事に俺は心から感謝している。


だから、もういい。

十分だ。

俺は生まれ変わらなくてもいい、何故なら、もう、置いてきた。


灯る炎を。





今そっちに行くよソフィア。


俺、ジュン・クリスティアはその生涯を終えた。

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