プロローグ
「アンナ、ここに隠れてろ。」
そう言って、私を保護している研究者ゴンボラは、私を戸棚に隠した。
そうか、もう敵国の軍隊が来てしまったのか。
ゴンボラは、我が国ハルポランド王国が誇る研究者だ。
ハルポランド王国は神が建国した国だと言われ、世界中の人々が聖地巡礼や観光目的で訪れていた。
しかし、平和だった世界は幕を閉じた。
各国は戦争体制に入り、私が六歳になったころ、ついに戦争が始まった。
ハルポランド王国が保有する「不老不死の薬」を手に入れるための戦争だ。
敵国は世界二位と三位の軍事力を持ち、宣戦布告されたとき、国民は皆、絶望の表情を浮かべていた。
しかし、世界一位の軍事力を持つヴァールズ帝国が、我が国を聖地として守ってくれたことで、戦争は長期戦となった。
だが、我が国に神からの祝福が届いていないことをヴァールズ帝国が知る。
神が建国したと嘘をつき、人々を騙し、神に対して不敬を働いた——そう判断され、彼らは敵に回った。
一週間も経たぬうちに、戦争は決着がつこうとしていた。
もう、ここまで来たら終わりなのだ。
「……ぁ」
突然、激痛が走った。
体に異物が入り込んだような痛み。銃弾が当たったのか、と思った。
だが、その痛みはすぐに引いた。
先ほどまで銃声や悲鳴が響いていたのに、今は異様なほど静かだ。
耳を澄ますと、ゴンボラの声が聞こえた。
「……様。自ら足を運んでいただき、ありがとうございます。かの方は、あちらの戸棚に」
足音が、こちらへ近づいてくる。
私は目を閉じ、震えた。
ゴンボラは、私のことも、国のことも、裏切ったのか?
そして、戸棚が開かれた。
目を閉じていたはずなのに、戦場で煙に覆われた暗い空の下なのに、まばゆい光に驚き、思わず目を開ける。
そこにいたのは、戦争中とは思えないほど美しい服を身にまとった青年と、その青年の前に跪く者、呆然と立ち尽くす敵兵たちの姿だった。
ゴンボラもまた、その青年の前に跪いている。
青年は、静かに言った。
「さあ、神の卵よ。本島へ行こう。」




