*第6章:復讐を誓い合った同志諸君。埋められた“過去(シンジツ)”を掘り起こせ。~逢魔刻、四ツ辻へ集合~*
******万譚町の奇妙な噂******
子どもの時に聞いた噂話だったか・・・。
それとも、宿泊学習の時に
宿舎で聞かされた怪談だったか・・・。
万譚町にある“とある四ツ辻”。
逢魔が時に四ツ辻のちょうど真ん中に立って、
夕日に向かって真っ正面に立つ。
夕日をじっと見つめながら、願い事を考える。
心の中の一番強いことが
“願い事”と判断されてしまうから、嘘は通じない。
本当に叶えたいこと、心の底から願ってること、
命に代えても実現したいと祈っていること。
四ツ辻の悪魔は全てを知っている。
「交差点の怪人」
「クロスロードモンスター」
「夕暮れの伯爵」
いろいろな名前で呼ばれている「ソイツ」は、
何でも望みを叶えてくれるらしい。
******
僕は駄菓子屋や商店街の他の店でバイト代の代わりに
何でもいいから知っていることを教えてほしい
という交換条件で、この3年間「この町」のことを
とにかく調べまくった。
特に、子ども好きの駄菓子屋の
店主からの情報は豊富で有益だった。
高校近くのスーパーマーケット。
町外れの廃墟。
「この町」には「外」で言う妖怪が普通にいて、
怪異と呼ばれる「モノ」たちがうろついていて、
急に人がいなくなる、
もしくは別人に成り代わっているっていう
奇妙な現象や奇怪な出来事が頻発していて、
不気味で悍ましい怪奇現象の数々が
普通に起こっている・・・。
そして正体不明の「アイツ」らのこと。
店主は「無視しろ、ちょっとでも『あ。』っていう
瞬間があると襲ってくる。」と言っていた。
「この町」のことを一つ一つ教えてくれた。
詳しくは話してくれなかったけど、
前よりもだいぶ詳しくなった。
おかげで僕らが立ち向かうべき
「敵」の姿がずいぶんハッキリと見えてきた。
ただ、そういう話を聞かせてくれている時の店主は、
いつもと明らかに違っていた。
いや、店主を見る僕の目が
違っていたのかもしれない・・・。
そのときの店主からは
普段、僕が感じている全てが消えていた。
店主の姿をした別の「ナニカ」に
変質しているようで不気味だった。
その中で聞かせてくれたのが、「とある四ツ辻」の話。
願い事を叶えてくれる
怪人「有栖寺 黒瓜」。
こちらから言わなくても、
もうすでに叶えたい願いのことを知っており、
願いを叶えてくれる。
ただし、対価を払わなければならない。
それは、黒瓜の願いを叶えること。
あることをしてほしい。
これを持ってきてほしい。
それを取ってほしい。
命を差し出してほしい。
中には複雑な条件や、日時、太陽や月とかの
気象条件まで指定してくるのもあるらしい。
僕はこの怪人に賭けてみようと思った。
みろのおじさん、るいすおじさんの死の真相。
なぜ誰も別人なのに気付かないのか、
なぜみろだけが別人だと気付いたのか、
「この町」で起こっている
不思議なことに関係があるのか、
そして、その謎を解明することができるのか。
願いをいくつも叶えてくれるのかは、
正直分からない。
どれほどの対価を要求してくるのかも分からない。
でも、賭けてみたい。
友達との約束のためにも、僕は決して諦めない。
そんな僕らのことを四ツ辻のそこかしこが
「見ている」。
******
かふうと二人で夕方の四ツ辻で
沈む夕日をずっと眺めている。
夕方のこの時刻のことを
「逢魔が時」っていうらしい。
妖怪や魔物、化け物達が活動する
時間との境目らしい。
「この町」はやっぱり“おかしい”・・・。
町の中にそんなやばい場所なんて……。
そんな時間、「外」にあるわけがない・・・。
でも、だからこそ期待できるかもしれない。
るいすおじさん
おじさんが死んだ理由。
何で全く別人の、誰だか分からない
知らない人にすり替わってしまっていたのか…。
「チェンジリング」
あたしのおじさんを「取り替える」なんて、
薄らおぞクソ不気味なことしやがったヤツ。
見つけ出してシバキ殺してやる。
そのために、今沈む夕日を
ずっと見てるわけだけれども・・・・・・。
「なんか・・・。何も起こんない・・・・・・っすね・・・。ザナドゥさん。」
「・・・・・・怪人は定時出社とは限らないんですよ、みろさん。」
******
僕らは噂話の通り、そして店主の助言の通りに
逢魔が時、四ツ辻の真ん中で夕日を真正面に立つ。
・・・・・・赤い夕日がユラユラと揺れているだけ・・・・・・。
その夕日も、もうすっかり沈んで
見えなくなってしまいそうになっている・・・・・・。
電柱、壁、隙間、あらゆるところから
小さな笑い声が聞こえてくる。
「・・・なんか、条件間違えたの・・・かな?実は曜日が決まってるとか?」
みろには聞こえていない。
視線を感じていない。
けど、日が傾くにつれて
徐々に「不穏」が迫ってきている。
夕日が連れてきた影の中、
近づいてくる夜の帳の中、
「ソイツら」はいる。
「いや・・・、そんなはずは・・・。店主に聞いても誰に聞いても、この時間、この場所で夕日を真正面に立つ・・・・・・だけだったはず・・・。」
夕日が完全に姿を消し、
その残り火のような明るさを
覆い被さって消そうとするような
「ナニカ」のように、夜の暗がりが迫ってきていた。
呑み込まれてはいけない。
取り込まれないようにしなきゃ。
僕は心を静めるために、
昔からしている“あること”をした。
一番よく聞こえる音に集中する。
「呼吸」だ。
自分が一番楽にできる呼吸でいい、
鼻から吸って口から吐く。
それに集中することができたら、
次は自分の「脈」の音を聞く。
規則正しく一定のリズムで刻む
脈拍にすることができたら次は心臓の鼓動。
そうやって、すべての音がメトロノームが刻むような
規則正しく一定のリズムを刻むようにしていく。
もっと深く集中したいときや、
より覚醒した状態にしたいときは、
これにさらに円周率を数えるようにしている。
そうやって心を静めていると、
僕はあることに気が付いた。
音がない。
聞こえないのではなく、「しない」。
生活音がしなくなるだけならまだ分かる。
今は風も完全に止まっている。
樹木や木の葉、電線、すべての物が
ただそこに「ある」だけの存在になったように
「止まっている」
雲さえも静止している。
柔らかで浮遊物を感じさせる存在のはずの雲が、
今は「雲によく似た」物体のように
ただそこに「ある」だけの存在に。
無音。
ピタッと、停止してしまったかのような
音のない世界。
僕らを見て笑っていた「アイツら」も、
いつの間にかいなくなっていた。
「かふう・・・・・・、“アレ”・・・・・・。」
音の消えた世界で、みろが小さく呟いた声が
いやにハッキリと聞こえた。
それは文字が実体になって、物体として
直、接僕の耳に入ってきたかのような
不思議な感覚だった。
******
かふうの視線の先、
夕日の残り火のような光を背に浮かぶ黒い影。
誰かがジッとこっちを見ている。
ずっと視線を外さず夕日を見ていたはずなのに、
「ソレ」は急に現れた。
まるで、まばたきする間に
瞼の裏の闇から零れ落ちたかのように、
「ソレ」はそこに立っていた。
音がしなくなって、あれ?と思った。
かふうに声をかけようとしたら、
“ソイツ”はもうそこにいた。
スーツ・・・?
違う、なんだろう・・・・・・。
ヨーロッパの・・・・・・
上流階級の人間が着てそうな・・・・・・。
映画に出てくる魔法使いが着てそうな格好・・・・・・?
黒い影は昔からの近しい顔見知りのような、
気心の知れた相手のように話しかけてきた。
「こんばんは、かふうくん。こんばんは、弥勒さん。今の時代は女性と男性を『くん』や『さん』で、呼び分けをするのはよろしくないのかな?すまいなが、私はどうも古い人間でね。訂正が必要なら遠慮なく言ってくれたまえ。」
「有栖寺 黒瓜さん・・・・・・ですね?間違いなく絶対に。」
「いや、まず、なんで名前知ってんだ!からだろうがウェイ!」
「そこから始めたら、完全に向こうのペースになっちゃよ!いいから、ほら。」
僕は四ツ辻の怪人:有栖寺 黒瓜へ向き直って、
話を続けようとした。
はずだった。
******
ここはどこだ・・・・・・?
いつの間にか僕たちは
四ツ辻から洋館らしき建物の一室に
移動しているようだった。
まただ。
黒瓜が出現したときと同じように。
一瞬どころではない。
さっきまで四ツ辻に
本当にいたのかさえも怪しい・・・・・・。
そう自分の考えを疑ってしまうほど
“あっという間の一瞬の出来事”だった。
僕らは優雅で立派な作りの椅子に
“いつの間にか”腰掛けている。
黒瓜はヨーロッパの古いお屋敷の
書斎にでもありそうなアンティークの机に肘をつき、
手を組んでこっちを見ている。
「私は古い人間だが、新しいことも好む。お決まりのそれらしいプロセスはこの際省こう。今の世の中はタイパ、時短といのが尊ばれる、そうなのだろう?」
完全に向こうのペースに嵌まっている。
いや、まだ間に合うはず。
僕は黒瓜と目を合わせるように
少し前のめりになって、
同じように手を組んで向かい合う。
「眞境名るいすのことを知ってるんだろう?」
僕はいきなり核心から突いてみた。
僕らのことを知っているなら、
みろのおじさんのことを知らないはずがない。
そして僕らがここに来た理由、
何故自分に会いに来たのかの理由も。
るいすおじさんの名前を聞いても
黒瓜は動じなかった。
というか、何もしなかった。
部屋の調度品みたいに・・・・・・。
「物」みたいにピクリとも動かなかった。
虹色の光がキラキラ光っているような、
金色の瞳孔、真っ青な虹彩、
こんな異様な雰囲気の人間が
持っているわけがないと思えるほど、
宝石みたいに綺麗な眼で
こっちをただジッと見ている。
その綺麗さとピクリとも動かない異様さが
本当に・・・・・・
「きもちわるぅ・・・。」
いや、僕もそう思ったけども………。
みろは良くも悪くも正直だ・・・。
思ったことがつい漏れ出てしまうことも
しばしばある・・・・・・。
でも、まさかこんな時まで・・・・・・。
「るいすが言っていたとおりだ。君は本当に面白い子だ。」
怪我の功名というやつかな・・・。
黒瓜が思いがけないことを言い、
クスクスと笑っている。
一瞬頭をよぎった「さすがにまずいだろう」と思った
僕の考えは、おかげで打ち消された。
「おじさんが、あたしの話を?」
「ああ、そうだとも。るいすは君のために私に会いに来た。二度もね。あんなに家族思いの人間を私は知らない。しかし、そのために取り返しのつかないことになってしまった。」
笑いの収まった黒瓜は
今度は懐かしそうな顔をして、
椅子にもたれ掛かった。
「今も彼は“あそこ”にいる。きっとそうだ。うん。間違いない。“あそこ”で今も・・・。」
もう長いこと合っていない旧友を思い出すような、
それとも死んでしまった親友を偲ぶような、
そんな”寂しそうな顔”をして、
黒瓜はもたれ掛かりながら天井を見ている。
何がなんでも、おじさんの死の真相が知りたいみろが
黒瓜の匂わせに食いついて叫んだ。
「“いる”って、生きているってこと!?おじさんは死んでなくって今も生きているってこと!?るいすおじさんは生きてるの!?」
みろは一気に真相に近づいたかもしれないと
興奮して、テンションがあがったようだけど、
僕は真逆に黒瓜を冷ややか見つめていた。
僕は店主から、そして町の至る所で聞いてきた。
黒瓜は絶対に信用するな。
有栖寺には決して心を許すな。
アイツを心の中に招き入れるんじゃない。
支配して、取り込もうとする、気をつけろ。
「るいすおじさんを妖精に売ったのは、おまえだろ?」
僕は店主から聞いていた
「チェンジリング」のことを問いただした。
みろの「空気」が一瞬で変わる。
じんわりと、でも、確かな熱を持って
「怒り」が湧き出てくる音がする。
心臓が徐々にその打音を強く、激しくしていく。
血液を媒介にした「怒り」が
血管の中を高速で駆け巡る。
沸き立つ怒りが全身に行き渡った頃、
体温となって空気を伝わる「熱」になる。
まるで、アクセルを徐々に踏み込んでいって
だんだんエンジン音が大きくなっていく様な、
そんな「怒り」。
一応みろなりに考えて
冷静さを装っているつもりなんだろう。
僕がよく知っている“いつものみろ”だったら、
掴み掛かってもうすでに一発入っている。
でも、表情や態度にはほとんど出ていない。
付き合いが長い僕でないと絶対に分からないほどだ。
今のみろは完全にキレている。
怒りの緊張で収縮した喉から
無理矢理絞り出されたその質問は、
返答を間違えれば撃ち殺されかねない
ノワール系映画のソレそのままの雰囲気で
みろが質問する。
「・・・・・・おまえが・・・・・・おじさんを・・・・・・?」
そんな凶悪な状態のみろを無視するように
全く意に介さない様子で
黒瓜は僕に向かって、話し始めた。
「私は“名前”と“方法”を教えただけだ。あとのことは知らんよ。『ようせいさん』にでも聞いてごらん。ねぇ、“みるく”さん?」
僕はゾッとした。
黒瓜にではなく、みろにだ。
“みるく”
それは、みろのおじさんがみろに付けたあだ名。
「弥勒菩薩」はある地域では言葉の訛りからか、
「みるく様」と呼ばれているらしい。
女の子でもあり、カワイイからということで
そう呼ばれていたようなんだけど・・・・・・。
みろはこのあだ名が好きじゃない。
おじさんを思い出してしまう上に、
あだ名をからかわれた経験があるから、
言われるとすぐにブチギレれる・・・・・・。
黒瓜の人を馬鹿にしたような言い方に、
おまけにキレるあだ名・・・・・・。
僕はみろが机にあるペンか何かで
今にも黒瓜に襲いかからないかと
ちょっとハラハラしながらみろをチラッと見た。
・・・・・・・・・なんと表現したらいいんだろう・・・・・・・・・
その時の、みろの表情。
嫌なことを思い出したときのような・・・。
消せないトラウマが
フラッシュバックしたときのような・・・。
昨日見た悪夢の一端を垣間見たような・・・。
******
「ようせいさん・・・・・・。」
口に出すのも怖ろしかった。
その言葉はあたしを心の底からゾッとさせた。
小さいとき、るいすの部屋、一緒になって作った
「ちいさなみろのおおきなぼうけん」
ドラゴンや怪物、異世界の本、
魔法使い、魔法の宝石や宝物の本、
妖精の本、ようせい・・・・・・・・・・・・。
「ねぇー、るーいー・・・・・・・・・。ようせいさんがかえってくれない・・・・・・・・・。」
幼いあたし、
向かい合わせで立ち尽くすおじさん、
おじさんの顔、
恐怖、焦り、絶望、不安、「怒り」・・・?
座り込むあたしの服の端をつまんで
ニヤニヤ笑う影・・・・・・・・・。
「ねェ,ちョうダイ.」
忘れてた?
ううん。思い出せなかった。
きっとそれも、るいすおじさんがしたこと・・・・・・。
アイツはあたしを連れて行こうとした・・・。
アイツはあたしに向かって言ってた……。
「もっと聞かせて、お話を聞かせて。僕たちの“子ども達”にお話を聞かせて」って・・・・・・。
「アイツが・・・・・・『チェンジリング』・・・・・・?」
「思い出したようだね。いや、るいすが君に思い出さないように忘れさせようとしたんだろう。悍ましい思い出だからね。」
「なんで・・・・・・、アイツは確かにあたしを連れて行こうとしてた・・・・・・なんで、あたしじゃなくって、おじさんを?」
「『お話』のせいだよ。るいすと君は毎日のように童話や冒険の物語、異世界の話を作っては楽しんでいただろう?彼らはそれで思いついた。妖精の子ども達へ『お話』を作って聞かせる誰かがいれば、子ども達は喜んでくれるはず、とね。」
「それであたしを?」
「そう。だが、るいすは“物語の創作は自分がしている。みろはあくまでも『協力者』で作者ではない。おまえ達がほしがっている『物語の源泉』は自分だ”と。」
「だからあたしの身代わりに・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・彼は・・・、そうはいっていなかた。“これは運命や必然でもなければ、何かの報いでもない。等価交換。幸せのための対価だ。”とね。」
「幸せ・・・・・・・・・・・・?」
大好きだったおじさんの死の原因は自分、
それが“幸せ”のために必要だった?
幸せって誰のための・・・何のための幸せ・・・・・・・・・・・・?
黒瓜が知る
“みろが知らなかったるいすおじさん話”を聞かされ、
みろはすっかり黙ってしまった・・・。
自責・・・、後悔?
不条理への怒り・・・?
認めたくない拒絶・・・?
・・・・・・・・・謝罪・・・?
いろいろな…複雑な感情が交ざって、
乱れて散らかった状態の心。
そんな表情のまま、みろは押し黙っている。
話を先に進められずにいる僕たちを、
やっぱり無視して黒瓜は話を続けた。
「彼の話を聞きたいかな?そうすれば、妖精達のことも知ることができる。ただ・・・、それを聞いたらもう君たちは今日以前の毎日に戻ることはできなくなるが・・・。いや、それでも、君達は聞かなければならない。私はその全てを見届けた者として、君たちに伝えなければならない責任がある。」
僕らが聞かされた“それ”は、
本当に息の詰まるような
苦しいものだった・・・・・・・・・。
みんなが幸せを願って、
幸せのために一生懸命に生きて、
そして未来への幸福を望んで、
ただ日々をひたむきに生きたはず・・・・・・・・・。
その結果が“これ”だというのなら・・・・・・・・・、
それはあまりにも苦しい結末だった。




