*第3章:ハイセンシティブは死んだふり。【それぞれの視点。町に帰ってきたみろ、 かふうと再会する】*
あたしには、ちょっと変わった幼なじみがいる。
謝名堂 かふう(ジャナドウ カフウ)。
あたしはあんまり気にしたことないけど
いわゆる「オタク」「陰キャ」「カースト底辺ポジ」
そんなワードがしっくりくるタイプの見た目らしい。
ただ、まぁ、見ようによっては
「ミステリアスorアンニュイ」「儚げ」「物憂げな」
その筋のユーザーからは「薄幸の美少年タイプ」に見ないこともない・・・らしい。
そういう“雰囲気あるキャラクター”っぽい、変わったやつ。
血液型もABRhマイナス型っていう
あまり一般的じゃない個性的なやつらしい。
けど、ほんとうに「変わっている」のは、そんなことじゃない。
かふうは小学校のころから変わっていた。
他人の癖
言葉遣い
歩き方
いろいろなことを“よく観て”“よく聴いていた”。
すごいときは「ニオイがする。」というだけで
算数の先生が朝に何を食べたのか、何をどの順番で食べたのかまで「わかる」と言っていた。
「ニオイの強弱や、最初に何のニオイがして次に…」という感覚でわかるらしい。
ほんとうかはわからない、確かめる方法もない。
でも、かふうが言うのなら説得力があった。
あたしも、誰もそれを疑わなかった。
かふうは生まれつき耳や鼻、目とか味覚?っていう
五感みたいなのが他の人よりも“鈍い”って話だった。
でも、みんな誤解していて、実際は「敏感過ぎて日常生活に支障が出るレベル」だった。
“耳が良すぎるから”
誰も聞こえないようなノイズが聞こえたり
今近くで話している友達や
大人たちの「声」だけじゃなくって
自分から5m以内の全ての音を耳が拾ってしまったり
「この町」では“無視したほうが身のため”のヤツらの「音」が聞こえたりしていて
そのせいで、声をかけても
なかなか“返事することができなかったり”
友達が手を振っても“反応しちゃいけなかったり”
だいぶ苦労していたらしい。
けどそのおかげで、かふうは少ない情報からでも
相手が何を考えているのか
今どんな心理状態にあるのか
普段どんな生活を送っているタイプなのか
そして“コイツは「おかしなヤツ」”なのか
そういった…観察力?
なんか…本人は「洞察力」って言っていた気がするけど…。
とにかく、そういうのが「特技」になったらしい。
そういう“探偵みたいな特技を持った相棒”が
今のあたしには絶対に必要だ。
“特技”だけじゃない。
かふうに手伝ってもらいたい理由はほかにもある。
それはかふうが「この町」で生まれ育っている人間だけど、「この町」の誰よりも“「この町」はおかしい”って感覚を持っていて
その違和感を感じていても“普通”でいられているっていう事実。
“おかしなことを正気を保った状態で、逃げずに観察し続けて謎を解き明かせる可能性を持っている。”
これほど頼もしいパートナーはいない!!
……はず。
そう信じたい………。
まだ、かふうが“あたしが知っていた頃のかふう”であることを・・・・・・。
******
僕は「一日店主と一緒に過ごせるかもしれない・・・!!」
という、色仕掛け(?)に後ろ髪を引かれるつつも
なんとかそれを振り払い
駄菓子屋「自意識過剰乙女」を出て、学校へ向かう。
いつもの通学路。
いつもの登校風景。
なんだかよくわからない「いつもの“アイツら”」。
全部いつも通りで、全部狂っている。
きっと「外」はこんなんじゃない。
こんな“普通”があるわけがない。
SNSや投稿サイト、“そっち系”の配信者の投稿には
「この町」へ凸してみた系がいくつもあがっている。
でも、どれも「普通」だ。
朝起きて窓の外にいる「ソイツ」
掃き出し窓の外にいる「アイツ」
耳元で毎朝絶叫してくる「ヤツ」
そして、登下校のときにずっと電柱の陰や家同士の隙間、ふと見上げた目線の先、駅のホームや信号で交差する群衆の中に突然現れる「アレ」・・・・・・。
どれもいつも毎朝毎晩毎日そこにもここにもどこにでも「いる」・・・・・・。
「外」の人間は「この町」では生きていけない。
そして、この町で大切な人間ができてしまうと
生きていけない。
僕には幼なじみがいた。
眞境名弥勒。
あだ名は「みろ」。
みろとは小学校入学からずっと一緒にいた。
純粋、というか、良くも悪くも「正直」で「素直」な女の子だった。
嘘が吐けない性格で
媚びるのを苦手にしていたけれど
正直にハッキリ言ってしまうと
相手が気を悪くするような“事実”を
できるだけ本人なりに言い換えたり
ポジティブな言い回しをしようとがんばっていた。
誰にでも正直で思いやりがある。
みろだけが初めて僕のことを
「化け物」として扱わなかった。
「変人」
「怪物」
「妙なガキ」
「不気味」
みんなが僕を檻の中の
「奇妙な珍獣」を見るように珍しがった。
でも、みろだけは違った。
死んだおじさんが自分に残したらしい
みろ本人をモデルに作られた
「童話」の中に書いてあったらしいことを
僕に話してくれた。
『おなかが減ったり、一人でいたりすると、人は悪魔になっちゃうんだよ。誰かが側にいてあげて、天使にしてあげなきゃいけないんだよ。』
『包丁は美味しい御飯を作ってくれる。
でも、刺されると痛いだろ?ただ痛くてつらいだ
けなのは、嫌だろう?
美味しい御飯を作ってみんながハッピーになるほうがいいよね?“誰かに何かを自分がする”っていう時も
おんなじだと思うよ。』
「童話」にはそんなことが書いてあったらしい。
それに、みろはこんなことも言っていた。
「あたしは、あたしもみんなも、そしてかふうもハッピーになるようにしたい。」
「だから、あたしは『ただ傷つくだけで嫌なこと』には、ハッキリ『イヤだ!』って言うし、クリスマスやお正月を家族で過ごしている時の『ほわぁっとした、あの感じ』にみんながなるんだったら、そうなるようにがんばりたい。」
「だからあたしは、かふうのことも嫌いじゃない。」
そんなことを言うみろのことが僕は大好きだった。
だから、みろが「この町」を出ると聞いたとき
嬉しくもあり、すごく寂しかった。
こんなまともじゃない場所にいつまでもいてほしくない。
でも、初めてできた唯一の友達に
もう二度と会えないような気もした。
「かふう・・・。お願い・・・っていうか、約束してほしいことがあるんだけど・・・。」
引っ越しの朝、みろが僕に約束させたことがある。
それは「正気でいてくれること。」
“自分は絶対に帰ってくる。
絶対に帰ってこなきゃいけない理由がある。
そのときに、かふうの「ちから」を絶対に頼るから。
だから、お願いだから。
自分が帰ってくるときまで、『正気を保っていてほしい。』”
それから、みろのいない3年間
僕は約束を守り続けている。
いつかきっと帰ってくる友達のために。
“絶対”と僕に誓ってくれた、たった一人の友達のために。
******
「ザナドゥ!!!!」
・・・・・・・・・。
聞き覚えのある声と
正直一生聞きたくなかった昔のあだ名のせいで
僕の“日常”は無遠慮で図々しい
若干のがさつさを伴って崩壊しようとしていた・・・・・・。
みろのそういうところは、昔も今も・・・・・・うん。




