*第2章:Freak on a Leash~通学路には不思議がいっぱい‼~【謝名堂 かふう(ジャナド ウ カフウ)は“普通”に暮らしたい。かふう視点の「この町」の日常。】*
AM7:00、アラームを止める。
まだスッキリしない頭をそのままに、取り敢えずベッドから半身を起こす。
あくび、軽く伸び、目をこする。
ベッドから出て、カーテンへ。
カーテンを開ける。
窓の外、太陽の光、雲はそこそこ。
家の前での世間話、走って登校する子ども。
遠くの景色、走っていく電車、車。
今日も普通で何の変哲もないけれども、穏やかな日常が始まる。
「まぁ…。期待はしてないけどね…。」
”期待していない”その言葉は正確ではなかった。
そもそも、そんな普通の景色はこの町にはない。
ブッ飛んだ朝の景色が「万譚町」の日常。
窓の外、太陽の光、雲は見えない。
家の前での世間話、走って登校する子ども、見えない。
遠くの景色、走っていく電車、車、見えるはずがない。
黒い影がミッチリ。
「ソイツ」はずっといる。
何かはわからない。
というか、知りたくもない。
知ってもいいことなんて絶対にない。
かかわりたくない。
窓の外の「ソイツ」はミッチリと
溶けた餅がドロドロに溶け広がって
ベッタリといっぱいにこびり付いて覆っている。
デカイ、巨大な目?をギョロギョロと動かしてこっちを見ている。
「ふー…。」
さすがにいい加減見慣れ過ぎて、なんかもう、リアクションに困る…。
そんな”万譚町のいつもの朝”。
支度や食事のために、リビングへ。
新聞を読む父、朝食の準備をしながら自分の出勤時間を気にしている母。
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
………そして、毎朝なぜか掃き出し窓の外で絶叫している「アイツ」。
顔がない。
といか、口が異様に大きいのか、口以外がないのかさえもわからない。
「んーー…。さすがにあれは慣れない…。うるっさ…。」
「ん?どうした?かふう?コーヒーか?」
「んあぁ…。いや…、なんでもないよ…。父さん。」
父や母、大人たちは「ソイツ」や「アイツ」のことをどう思っているんだろう…。
僕たち以上に慣れ過ぎて、空気に感じているのか…?
いや、やめておこう。
きっと、聞いても「変な気分」になるだけだ…。
この町の異常さは尋常じゃない…。
けど、それをまともに受け止めることもできない。
きっと「変」になってしまう。
支度と朝食を終えて、玄関へ。
「いってきます。」
「おう。いってらっしゃい。」
「気を付けるのよ!」
「$’(&)GBI()=HGIYYHFE$%"&'Q"'&0!!!!!!!!」
「……いや、”何に”気を付けりゃいいんだよ……。」
最後の「ヤツ」は、いつも無視するのが”お決まり”。
下手に反応したり、返事したらどうなるかわかったもんじゃない…。
いつもの通学路、いつもの風景、なんかよくわかんないヤツ…。
「はぁーー…。」
この町はどこかおかしい。
いや、完全に狂っている。
でも、それを認めた瞬間、”何か”が終わる気がする。
それは日常なのか、それとも”今まで見えていた全部”なのか…。
この町で正気を保つということは「そもそも、本当に自分は正気なのか?」ということになりかねない…。
******
「よう、少年。いらっしゃい、今日も来たね。」
僕は登校途中に必ず寄る場所がある。
「天蓋磨鏡商店街」
「カロリーの暴力」という謎のコンセプトで
背脂マシマシとか、牛脂、ラード、
鶏油をバターでコーティングしてフライにして売って営業しているという飲食店
「獄烙廻天壱万豚(ゴクラクカイテン10000t)」。
100m5秒台で走れたと吹聴して、決してポマードを許さない、いつもべっこう飴がポケットに入っている
「わたし、きれい?」が挨拶代わりの店主がいる
カット&美容サロン「びゅーてぃふるぴーぷる」。
引き抜くときの絶叫で相手を死に至らしめる「マンドラゴラ」を高麗人参と言い張って売っていたり、
子どもの顔をした不老不死の霊薬の材料になる「人参果」を桃と称して販売していたりと、
どう考えても普通の食卓には乗らないであろう
「もの」を「野菜・フルーツ類」と一緒に店頭に並べ
卸している「八百屋」ならぬ
「八百万屋 羅殺国(ヤオヨロズヤ ラセツコク
)」。
「多分呪われているな。いや、絶対だ。」という感想しか出てこないジュエリーや、
店内のどれを見ても4時4分4秒しか指さない時計を販売している、
紫色のおばあさんと異空間から出勤してくるおばあさんが経営している
宝飾&時計店「四時紫」。
絶対に恋愛を成就されてしまう、
身長240cmの超巨大な女主人が経営している
結婚相談所「ぽぽぽ」。
その辺のおじさんにそっくりな見た目をしているブルドッグが経営している、
人語を解する、というか、全動物が人面(おじさんの顔)をした
ペットショップ「What‘s Up!」
など、「おかしな町」の「おかしさ」を
一発で理解・体験することができる商店街。
「奇妙」な店が多数存在している。
その中でも”まだマシな方”
というか、店主が子ども好きのせいか
やたらと僕に良くしてくれるので
登下校時にかならずくるようにしている。
「避難所という名の溜まり場」である
駄菓子屋「自意識過剰乙女」。
一人称が「俺」で、男なのか女なのか判断ができない
中性的というか、老若男女問わず誰でも魅了する
性別を超えた妖しい魅力のある色気をもっていて
和服や和装、和のテイストのある服を
モードで現代風の着こなし・着崩仕方をした店主。
店で売っているものは、46円で買えるチョコ菓子「号泣食感クライサンダー」
なぜミサイルの形をしているのか
ツッコんでいいのかわからない見た目をしている
「一撃必殺!爽快な喉越し、クリアスカイ!!」という商品名のサイダーなど
不思議な駄菓子や飲み物、雑貨やおもちゃを売っている。
「……なんか、朝からスッキリしない顔してるな?むしろ、グッタリ(笑)?」
「……。」
「ハハハ、“ドンヨリ”の方か。ハハハ、まぁ、元気出せ!いつものか?」
「…はい…。」
店主から”いつものやつ”をもらう。
この店は、食べても問題なさそうな相手
いわゆる「町に住んでいそうな変なヤツ」や
「それっぽい人間」以外のために
駄菓子屋だけれど、他所の駄菓子を振る舞う。
店主が子ども好きのため、子どもにのみ。
店主曰く、「アダルトは草でも食ってろ。」と。
僕が必ずこの店へ来るのは「整えるため」。
この町はおかしい、異常だ。
そして、その事実から逃げられない。
でも、それをまともに受け止めることはできない。
かといって、無視をし続けることも難しい。
受け入れ難いことを受け入れて、”この町になる”ことが安全策。
それができない人間は「あそこ」に行く羽目になる。
メンタルヘルプクリニック 「Dr.もる」。
「万譚町」で「不思議」や「奇妙」に耐えられなくなった人達が助けを求めて集まってくる
“一応”、精神科的なカウンセリングをしてくれそうな雰囲気だけはしっかりしている
「メンタルクリニック」であってほしい場所。
“一応”「クリニック」として開院しており
臨床心理士系や精神科医系、メンタルヘルス系や
心理学系、果ては哲学系やスピリチュアル系
そして、社会学系などの心にまつわる「本」は沢山あるが、院長で診察を担当する医者の「Dr.もる」が
診察もそこそこに「元気出るから。」というだけの理由で
本人が栄養ドリンク(成分非公開。製造工程秘密。自家製。)だと言い張る謎の飲み物(?)「ナフサパルミチンデス」をすぐに勧めてくるという
「この町にあるクリニックらしい」と言えば、らしいところ。
町の奇妙さや、不思議な出来事に疲れ、
神的にも肉体的にも参った患者が訪れる場所に
しては、全く健全ではないし、
とてもじゃないがまともな治療が受けられる場所には思えないクリニックなのだが、
なぜかクリニックから出てくる患者達は、全員入っていったときよりもすこぶる元気になって出てくる。
むしろ、元気すぎて、目撃した側が恐怖を感じるほどの陽気さと快活さで、より心配になるほど。
栄養ドリンク(?)「ナフサパルミチンデス」のほかにも、各種エナジードリンクを取り揃えており、
それを「こんな感じの医者」である「Dr.もる」が
「魔剤だぁ。ぐっといっとけぇw」と物騒な勧め方をしてくる。
そのほかにも、「ポーション(?)」「エリクサー(多分)」「フェニックスの羽(笑)」「ユニコーンの角」など、
不穏なラベリングがされている「劇薬」が院内に無造作に置かれている危険なクリニック(?)だ。
そんなクリニックやこの町のどこよりも
この店は”はるかにマシだ”。
相変わらず年齢不詳で、妖艶な魅力あふれる店主は、そのしなやかな動きで僕を魅了する。
目の保養。
これもこの店へ来るための目的。
同性愛者の僕にとってこの店は、
まさに「精神安定剤」。
ちなみに初恋の相手は店主。
「聞いたか?また、通り魔が出たらしい。」
「へぇー…。」
なんだ通り魔か。
この町にいると、通り魔レベルじゃ「なんだ、通り魔か。」くらいになってしまう。
「ちがう、ちがう。おまえ、聞いてないのか?噂。
子どもを生きたままバラバラにして、その肉や内臓、骨まで使って自分の衣服にするって話。」
「……聞いてない。なにそれ?」
やっぱり、この町はおかしい…。
僕にとって避難所となっていたはずのこの店にまで、そんな雰囲気が暗がりの闇のように染み込んでくる…。
「………本当に大丈夫か?今日は学校休んで、一日店で過ごすか?」
「プロポーズですか?いえ、なんでもないです。そろそろ学校行きます。じゃあ、また放課後。」
「???」
店主の言葉のおかげで朝からの出来事を
すっかり振り払うことができて
頭をスッキリさせることができた僕は
“いつもの日常”へと戻る。
言いようのない、暗く、深く、重たい不穏な気配を持った奇妙さが漂う
「奇妙さ」の中にある”日常”へと、あまり乗り気じゃないけれど戻る。
そう、この時は”日常”に戻ろうとしていたはずだった。
幼馴染のみろが「この町」に帰ってくるまでは。
”日常”の本当の姿が、少しずつ暴かれていく。




