*第1章:Somebody Someone~身元不明の死体は誰?~【眞境名 弥勒(マジキナ ミロク )が体験した「この町」での出来事と、その決意。】*
「ばーば。ばーば。ねー、ばーば。」
「はーい、なぁーに?みーろちゃん?」
ばーばのぽっけは、ふしぎなぽっけ。
なんでもでてくる、ふしぎなぽっけ。
みぎのぽっけは、せんたくばさみ。
ひだりのぽっけは、かみどめごむ。
「ばーば。ばーば。ねー、ばーば。」
「はーい、なぁーに?みーろちゃん?」
ばーばのおうちは、ふしぎなおうち。
これはなんだろう、たんけんだ。
「ばーば。ばーば。ねー、ばーば。」
「はーい、なぁーに?みーろちゃん?」
「れいぞうこに、なにかある。」
「あれ?ほんとうだ。なにかな?これは?」
そんなお話が、あたしは好きだった。
そんなお話を作って、聞かせてくれるあの人が好きだった。
そんなおじさんが死んだ。
嘘だと思った。
またいつもの「創作」だと思った。
笑えない、酷い話だと思った。
ほんとうだった。
おじさんは死んだ。
あたしが4歳の時、死んでしまった。
お葬式の時、まだ信じられなかった。
「ソレ」はおじさんじゃなかった。
「……るーいーは?」
幼いあたしは母に尋ねた。
「そうね…。るーいーは、ねんねしているね。」
あたしが幼かったせいで、母にはうまく伝わらなかった。
「ソレ」はあたしのおじさん「るいす」じゃない。
「パパ……、るーいーは?」
父になら通じると思って、あたしは尋ねた。
「るーいー…はね、その……、るいすおじさんはね……。」
実の弟が死んだということもあってか、父は言葉を詰まらせて、なかなかその先を言い出せずにいた。
家族の誰もが信じたくなかったんだろう。
身内の死ってそういうもの。
そう…。
”本当に身内が死んだんだったら”、ね。
棺の中の「ソレ」も……。
遺影も……。
名前も……。
あたしが知る「おじさん」じゃなかった。
嘘だと思った。
「ねぇぇぇ…。ねーってば!るーいーは!?」
自分の言いたいことを汲み取ってくれない大人たちと
自分の思っていることをうまく伝えられないもどかしさから
幼いあたしはぐずって泣いた。
みんなは、「あー…。大好きなおじさんが死んだことをまだわからないんだ…。かわいそうに…。」そんな感じ。
そんな目をしていた。
家に帰れば、ばーばの家、おじさんがばーばやじーじと一緒に住んでいた父の実家へ戻れば、きっとわかってもらえる…。
一緒に撮った七夕の写真、あたしの幼稚園のお遊戯会の動画、あたしが描いた家族みんなの絵…。
大きくなって知った。
その感覚は「恐怖」なんだって。
写真も………動画も………何もかも………知らない誰か………。
「・・・おまえはだれだ?」
知らないのは、あたしだけ。
見覚えがないのは、あたしだけ。
みんなが知っている「おじさん」
あたしだけが知らない「誰かさん」
本当に怖ろしかったのは、「『本当のおじさん』を失ってしまうんじゃないか」……。
そんな恐怖が、その日からずっとあたしに付きまとった……。
失いたくない。
本当のおじさんは、「ソレ」じゃない。
どうして、みんな知らない人の話をするの……。
「ソノ人」は「あの人」じゃないのに………。
”奇妙”が迫ってくる…。
あたしの”普通”が浸食されていく…。
「みろ。弥勒菩薩は、すべての人類と世界を救ってくれるスーパーヒーローなんだよ?」
「ひーろー?それって、ぷりんせすのこと?」
「んーー……。”ぷりんせす”じゃー…ない…かな?でも、まぁ、”みんなにやさしくって、とってもすごいひと”だよ!」
「ほんと?」
「そうだよー。みろのお名前は「みろく」っていうでしょ?だから、「みろ」は「弥勒さま」。みんなの希望なんだよ?」
「きぼう?」
「そう……。生れてきてくれて、ありがとう…。みろは僕ら家族の「弥勒さま」…。希望の光なんだ…。」
あの人があたしに望んでくれた気持ちを、あたしは失くしたくない。
スーパーヒーローかは知らないけれども、でも、やるべきことはハッキリしていた。
これは、あたしが「あたしの知る『おじさん』の死体を探す」物語。
奇妙なあの町で、あの人はきっと今もどこかにいるはず。




