*第14歌*
*間奏:【妖精の市場、 西側地区、職人街の日常とこの場所でただ一人の「人間」の話】*
妖精の市場「Dôr-Choth【荒野の市場】」
西側地区、鍛冶・鍛造、
錬金および機工技師達が集まるエリアの一角。
今日もあちこちから、機嫌は悪そうだが
景気のよさそうな怒鳴り声が聞こえてくる。
ドワーフ達の怒鳴り声。
鍛冶屋から聞こえてくる鍛造の音。
鍛えられた製品と機械油の匂い。
これ以上ない、この上なく清々しい目覚めだ。
相変わらず、「ここ」はいい。
俺は、いつも思う。
起きるたびにそれを実感する。
最高のBGMを聞きながら、
最高のフレーバーを腹いっぱい吸い込んで
俺は大きく伸びをしながらベッドから起き上がった。
「……っあーーーーー…!
本日も最高の目覚めをありがとう!
これだから、やめられん!
俺は今日もお前たちを愛してるぞーーーーーー!!!!」
左隣の鍛冶屋【武器鍛造】(ドワーフ):
「るっせぇ!!!!ボケ人間!!!!
もう、昼前だぞ!!!!働け、カス!!!!」
右隣の鍛冶屋【建築系装飾】(やっぱりドワーフ):
「いつまで、ちんたら寝てんだ!!!!
炉にくべて素材と一緒に鋳つぶすぞ、ゴラァ!!!!」
左斜め向かいの彫金師【宝飾系】(当たり前のようにドワーフ):
「カスども、黙りやがれ!!!!仕事の邪魔すんじゃねぇ!!!!
チョーカーで絞殺すぞ!!!!」
右斜め向かいの石工【室内装飾・美術品修復系】(ドワーフでしかない。):
「潰しが効かねぇ、屑鉄どもが!!!!
鑿で彫り殺されてぇか!!!!仕事しろぉ!!!!」
正面の錬金術師【宝飾・武器、素材の錬成屋】(ドヴェルグ※北欧産スカンディナヴィア系
ドワーフ):
「Þegið þér, málleysingjar!
Viljið þér allir verða drukknir í Norðurhafi?!」
ドワーフ’s:
「…………………は???なんて????」
ドワーフ達は口が悪い。
そして粗野で下品で、愛想もない。
でも、「決して期待を裏切らない“プレゼント”」を
作ることができる。
神が平伏して、「欲しい」と哀願するほどに
欲望を抑えきれなくなる宝物。
所有する者や攻撃対象を選ばない、
壊滅的な一撃を喰らわせることができる武器。
何物にも決して侵されることのない鎧。
そして、古の戦で使用された
「輝ける暁の神鉄兵団」。
こいつらは、最高だ。
最高のクズ鉄野郎どもだ!
俺は、そんなこいつらが大好きだ。
そんなこいつらで溢れ返っているこの場所が大好きだ!
「Dôr-Choth【荒野の市場】」西側地区、
職人街:ドワーフエリア【アンドヴァリ】。
ここは、俺の楽園だ…。
「うっしゃぁ!!今日も最高にハッピーな、
R&B(ロボット&ブラックスミス)ライフぅ~~…
スタートゥ!」
現場の親方ドワーフ:「ナカザ、お前クビ。」
******
いつも通り親方にクビにされた俺は、
時間をつぶすために市場の中をフラフラしていた。
クビになるのはこれが初めてじゃない。
ドワーフ達は短気だ。
それも“まとも”な短気じゃない。
飯が遅くてもキレる。
仕事が遅くてもキレる。
逆に、自分たちが席に着くよりも早く
飯が出てきてもキレる。
そして、仕事が早くても「統率を乱すな!」とキレる。
朝早く仕事することにキレる。
でも、
「自分たちの仕事が遅れるのは、
夜が来て寝る時間になってしまい
仕事ができなくなるからだ!」
という理由で、
陽が沈むことや、早く朝日が昇らないことにキレる。
残業させるぐらい仕事を持って来る客にキレる。
とにかく何かにいつもキレている。
機嫌が常に悪い。
だからいつもクビにされても、
しばらくどこかで時間を潰して、
また戻るようにしている。
でないと、
「何で戻らなかったんだ!」
という理由でキレられる。
短気なうえに不愛想、
そして口が悪くって頑固で態度も悪い。
ただそれだけの小さなおっさん集団なら、
きっともうすでにエルフ達に絶滅させられてただろう。
ドワーフの仕事は確かだ。
そして、決して期待を裏切らない。
いや、期待以上…、
いやいや、それ以上…うーん…。
とにかく、相手を失望させるなんていうことは、
まず絶対にありえない。
そんな仕事ぶりだ。
もともと力強く、体力もある種族だから、
鍛冶仕事や建築みたいな力仕事も得意分野だけど
装飾や宝飾関係の分野でも緻密で繊細な仕事ができる。
この町だって、職人街のドワーフ達が作ったものだ。
市場の建物はもちろん、外と中を隔てている
「見えない城壁」や入ってくるやつを選別する「門」。
そして、「あの城」。
仕事は最高で素晴らしい作品なんだけどなぁ…。
どうも、住んでるやつが最悪過ぎて好きになれねぇ。
この町の支配者の居城「ラングウィデア・パレス」。
今日もこれ見よがしに
煌びやかに町の全てを見下ろしてやがる。
城自体が“アイツ”みたいで、気に入らねぇな。
「コレ」さえなきゃあ、“アイツ”さえいなけりゃあ
ここがどれほど居心地のいい
“パラダイス”になることか…。
城を見上げていた俺の顔がよほどシケてたのか、
屋台の親父さんが声をかけてくれた。
「おい、ナカザじゃないか。
腐った犬の死体でも見たような顔してるな、どうした?
今度こそ本格的にクビにでもされたか?」
「おう、親父さん。
今日も市場は活気があっていいね。
調子はどうだい?」
「おかげさまで、繁盛してるよ。
こう行商人やら、買付人やらが
ひっきりなしに行き来してくれるもんだから、
忙しくさせてもらっているよ。」
「そうかい。
ところで、相変わらず
何肉かわからねぇモノを売ってるな。何肉だ?それ。」
「聞くねぇ、俺も知らねぇよ。
何肉か知らねぇが絶品だぁ。
食ってけ。シケた気分も吹っ飛ぶぞ。」
親父さんがやっぱり何度見ても
「ナニモン」なのかよくわからねぇ
「何肉」を勧めてくる…。
初めて出されたときに
「ナニこれ?」
って聞いたけど、
「伝統的なÚan料理だ。」
「え?何それ。」
「Úanだ。」
って、
謎のやり取りになって
結局何なのかよくわからな過ぎて、
食うのやめたんだっけ…。
相変わらず何かわからねぇ…。
ていうか、親父さんも何か知らねぇって…大丈夫か?
その食い物(?)。
親父さんは好意で勧めてくれている、
それはよくわかっている。
しかし!
そんな得体の知れない、
食い物かさえもわからない「何肉」なんて食えるか!
どうやって穏便にこの場を切り抜けるか…。
「食ってけって、元気出るから…っとぉ、
ナカザ、やべぇかもな…。」
親父さんが俺の後ろのほうに視線を送る。
視線の主が俺に声をかけてきた。
「おい、人間。ここで何をしている。
どうやって中に入った。」
「貴様、『外』にいる奴らの仲間か?
何のためにここに来た。」
偉そうなものの言い方、横柄な態度。
そして、この獣臭さ、いや、犬臭さ。
「なんか用か?
警備隊の……“ペットショップボーイズ”w」
デカイ犬の化け物:クー・シーに跨って、
「三銃士」のキャラクターみたいな恰好をした
猫の妖精:ケット・シーが、
まるで中世の騎士が馬に騎乗しているような
威厳たっぷりに俺を見下ろしている。
コスプレした猫が大型犬に乗ってらぁ…w
これがペットショップの
催し物以外何に見えるってんだ…ww
意味を察したのか、
屋台の親父さんも笑いを堪えている。
いや、「この人間やっちまったな。」と思って、
顔を背けているだけかな?
とにかく、親父さんの好意を無下に断ることなく、
退散する方法が思いついた。
こいつらを理由にこのまま走って、
職人街まで逃げちまおう。
いい加減、さすがに親方の機嫌も直ってるだろう。
青い服のケット・シー:
「下等で下劣な人間がぁ…。
貴様…ドワーフ達の臭いがするするな。
職人街にいたな?あのエリアで何をしていた。」
黒い服のケット・シー:
「言いたくなければ、言わなくてもよい。
いや、言わなかったことにして、
このまま殺してしまおう。
たかが人間だ。支障はない。」
ケット・シーども。
この町の治安を維持していると自負している
野良猫どもがぁ。
大人しく鼠のケツでも追い駆けてりゃいいんだよ、
鬱陶しい受け(ネコ)どもがよお。
やり合って、負ける気は全くしねえ。
が、
こいつら三下どもはどうでもいいやつらだけど?
こいつらの「上役さん」とは懇意にさせてもらってる。
追い払うだけにしておいてやろう。
寛大な心と、
「ドワーフ仕込み」の紳士的な言葉遣いでな。
「ジャン・ピエールやフランソワ、
それにジェロームは元気か?
あいつらに拵えてやった
レイピアや装備品の調子はどうだって言ってた?ん?
見たとこ、お前ら服装も騎乗している獣も
『獣騎士【シュバリエ】』よりも下層の
『前衛兵【アヴァント】』」に見えるけどよ、
トップのお偉方やその近辺の人間とは
全く接点がない口か?あ?」
俺は「お淑やかな」口振りで
「お話」をしてやりながら、
こいつらに自分の“右腕”が
「わざと」よく見えるように、
ゆっくりと振り向いてやった。
青い服のケット・シー:
「!?その、“銀の右腕”!!
おい…こいつ、『銀の腕のナカザ』だ!
『機巧医霊師【ディアン・ケヒト】』のナカザだ!」
黒い服のケット・シー:
「……!!!!ジャン・ピエール中隊長やジェローム小隊長、
それにフランソワ小隊長の名を知っている…
ということは……そんな…まさか、本物……か?」
お、ビビったかな?
面白いから、もうちょっといじめてやろうかな?
俺は、イヤらしく不気味な笑いをわざと浮かべて、
“右腕”に力を籠めるようなそぶりを見せながら
脅してみることにした。
せっかきだから、もうちょっと楽しみたい。
「知りたいか?本当に『本物』かどうか。
今この場でお前ら二人…いや、『四頭』を解体して、
文字通り『四等分』にしてやろうか?」
完全に縮みあがって、
さっきまでの威勢のいい「尊い御方様」の態度は
すっかりなくなったケット・シーどもは、
俺がもうちょっと凄めば
みっともない体で逃げ出しそうなほどビビっていた。
******
俺はすっかり興が乗ってきちまったせいもあって、
もっと“遊んでやりたかった”。
けど、
バカどもに「援軍」が来ちまった。
異様に犬歯の長い、
クー・シーの倍近くあるバカデッカイ豹に乗った
金の刺繍が施された黒服と黒い外套のケット・シーと
ライオンの胴体に人間の女の首と
翼のあるバケモンに乗った
白銀の刺繍が施された青服と青い外套のケットシーが
俺たちに声をかけてきた。
黒服のケット・シー:
「『隊長』である私の許可なく
部下を解体するな、ナカザ。」
青服のケット・シー:
「いやいやいや、
許可があってもなくても解体させるな、バカ。
まったく、何を言っているんだ…。
すまない、ナカザ。
部下の思慮のない無礼な振る舞いを
どうか許してやってほしい。
緊急で警戒をしなければならない
“問題”が起きてしまって、気が立っているんだ…。
申し訳ない。」
チッ、もうちょい遊びたかったのに…。
黒服のジェロームと青服のフランソワが
俺と「雑兵ども」の「お遊び」に仲裁に入ってきた。
ん?ていうか、今、「警戒」って言ったか?
それに、「緊急の問題」??
「バカどもはもうどうでもいい。
何だ?その“問題”ってのは。
頭数だけのバカどもじゃあ
どうすることもできないから、
お前ら隊長格が出張ってきたんだろ?
まさか、戦争か?」
黒服のジェローム:「……機密事項だ。」
青服のフランソワ:
「ジェローム、ナカザの協力を得よう。
きっと力になってくれる。
屋台の親父、ご迷惑をおかけした。
すまないが、弁償や迷惑料などは
後ほど改めてさせてくれないか?
それから、ナカザをちょっと借りたいのだが、
よろしいか?」
相変わらず、極端な二人だ。(…いや、二頭??)
心死んでんじゃねーか?ってぐらい
徹頭徹尾「お仕事人間」のジェロームと
「いや、お前だいぶ尊い地位のやつ!」って
ツッコまれるぐらい、分け隔てなく謙虚で
こっちの性格と口の悪さが
恥ずかしくなってくるほど好青年のフランソワ。
「協力?何か武器でも作ってほしいのか?
それとも、補助的な宝具とかか?
あ、親父さん、じゃましたね、またね。」
黒服のジェローム:
「…フランソワ、これは陛下直々の『勅令』だ…。
ナカザだからといって例外はない。」
青服のフランソワ:
「分かってる。『だからこそ』だ。
報告も事後になってしまうが、私がすべて責任を取る。
民に知られてパニックにでもなってみろ、
それこそ誰も望まないことのはずだ。
混乱は避け、速やかに、密かに終わらせる。
君も、陛下も、民も、そして私も、
全員が望む“最善”を取るのであれば、
ナカザの協力は外せない。
いや、必須事項だ。彼をおいて他にはいない。」
「おお、持ち上げてくれるねフランソワ。
相棒はそう言ってるが、どうよ?ジェローム。
俺は、どっちでもいい。お前次第だ。
あん?不服そうじゃねぇか、まだよぉ。
どうすんだ?お前らだけでやれるんなら、
やったらいいじゃねぇか。俺は知らねぇ。」
青い服のフランソワ:
「いや、そうも言ってられないと思うよナカザ?
この“問題”には、『人間』が関わっている。
それに、『Lumbulear【覆い漂う影の化身】』が一匹、
失われた古代の兵器
『神鉄兵団【こうてつへいだん】』の
残党も関わっている。
ナカザ、君は『人間』だ。
そして、君は
『Lumbulear【覆い漂う影の化身】』を使った
“ある計画”に関わっているね?
さらに古代兵器
『神鉄兵団【こうてつへいだん】』の残党だ。
君は、いや、君の『右腕』は
『神鉄兵団【こうてつへいだん】』を生み出した
“彼”に同じ技術でその腕を作ってもらったはずだろう?
そして君は、その技術を受け継ぎ、
さらにその先の新たな形にしようとしている。
これだけの理由があるんだ、かn……」
「おう、もうその辺で黙れやフランキー。
顎ごと猫舌ブッ解して(ぶっぱらして)
乗りモンの姉ちゃんの顔面と取り換えんぞ?
おっと、失礼。お口が悪い。」
ジェロームは喋らねぇから読めねぇが、
フランソワの方は理知的っつーか…「切れるやつ」だ。
頭の回転が速ぇ、
謙虚なくせに頭がいいと来ていやがるから
始末に負えねぇ。
「フランソワ、悪気はねぇんだろうけどよ、
あんまし“突っつかれると痛そうなことは”
ベラベラ喋るな。
相手に苦々しく思われるぞ?」
青い服のフランソワ:
「ああ、分かっていてやっている(*‘∀‘)」
………。
このクソ猫…いつか絶対わからせてやる…(# ゜皿゜)
******
「『開ケルゾ。』」
ロウェンはそう言って、「門」に手をかざした。
豪華で煌びやかな銀の装飾のある
灰色がかった白っぽい、
青い色をした石が散りばめられた壮麗な門。
かざされた手に反応するように、石が光りだした。
「ぽっ」という淡い、柔らかな光がだんだんと強く、
大きく光って、銀の装飾が動き出した。
ロウェンの手もよく見ると
石と同じ光を出している。
きっと鎧の手の部分にだけ同じ石が使われていて、
もし、僕との戦闘で両腕を失ってしまったら
中に戻ることができなくなるから
ロウェンは「提案」をしてきのかもしれない。
手をかざしながら、ロウェンが何かを喋ってる。
きっと妖精の言葉なんだろうけど、
何て言ってるのかわからない。
「ねぇ、ヨアヒム。何て言ってるの?」
「人間ノ言葉ダッタラ、
『開ケテクレ、用事ガアル。』…カナ?
俺、人間ノ言葉アマリワカラナイカラナ…。
ソレニ、ろうぇんガ言ッテル言葉モ、
今ハ言ワナイ言葉ダ。
トテモ昔、昔スギルクライ昔ノ、
トッテモ古イ言葉ダ。
俺モ入ル時、必要ダカラ言ウコトデキル。
デモ、意味ハヨク知ラナイ。」
古代の妖精語…ってところか…。
ということは、
きっと門に刻まれている文字らしきものも
読めても意味は解らないんだろうな…。
いや、そもそも読めるのかすらも、って感じかな?
門の一番上、たぶん古代の妖精語?で刻まれた
文字みたいなやつのところ、
そこにエルフっていうのかな…きれいな顔で
長い耳の人型の装飾が動き出した。
ロウェンの言葉に反応したみたいだった。
装飾のエルフはこっちに向かって、
何か話しかけてきた。
それにロウェンが古代語らしき言葉で
何か話している。
「通行証とか、ID的なものが必要な感じなのかな?
あれか、ぱすぽーとぷりーず的な。」
いつの間にか、
みろがロウェンの左肩に乗っかっている。
両腕を枕にして顎を乗っける、
「机でお昼寝するスタイル」で。
というか、完全に友達ですやん…。
なんなの、その間合いの詰め方…。
まぁ、だから友達になれたわけで…
そういうところが好きなわけで…。
そんなスタイルのみろと、
ロウェンの脇に立っていた僕、
そしてヨアヒムのことを
装飾のエルフが交互に指をさして何かを言っている。
まずい…。
人間が一緒にいることを警戒されているのかな……。
僕は今のところ、
“人”からは一番遠い姿をしているけれど
それでも、ロウェンは僕が“人間”だっていうこと
気付いていたみたいだし…。
妖精にはバレるのかな……。
ロウェンが僕らをチラッと見て、
そして、みろを左手の親指で指しながら
何かを言っている。
大丈夫かな……。
「奴隷ト、ペットダ。」とかって言ってないよね、
まさか………。
「オィ、“かふう”。」
「へぃいあ!?」
ロウェンが僕に話しかけてきた。
いろいろ考え事もしていたし、
まさかロウェンに名前で呼ばれるなんて
考えてなかったから、変な声出ちゃった。
「ごめんごめん、何?」
「『門』ガ、オマエハ
『Lumbulear【覆い漂う影の化身】』カ?ト
聞イテイル。」
「ウンブ…なんて?ウンブャ?ごめん、何それ…?」
「オマエノ見タ目ガ『ソレ』ダカラナ。
『中』ニ入ルタメニハ、答エル必要ガアル。
『妖精』カ『ソレ以外』カ。
正直ニ『人類ダ。』ト言ウノハ、
僕ハ賛成シナイナ。
ダガ、モシ
『Lumbulear【覆い漂う影の化身】ダ。』ト
答エタ場合、『証ヲ見セロ。』
トイウコトニナルダロウナ。」
「証って言ったって…。
それに、さっきロウェンが言ったのって何?」
「オマエ達人類ガ
『Lumbulear【覆い漂う影の化身】』ノ事ヲ
何ト呼ンデイルノカ僕ハ知ラナイガ、
今ノオマエニヨク似タヤツラダ。
『魔』デモナイ、『エルフ』デモナイ、
『トロル』ヤ『ドワーフ』デモナイ、
ソシテ『人類』デモナイ
名モ無ク素性モワカラナイ、
イツカラ存在シテイルノカモワカラナイ
『不名ノ化物【フメイノバケモノ】』ダ。
僕達ハ、
『影擬態【カゲモドキ】』ヤ
『靄人【モヤビト】』ト呼ンデイル。
『Lumbulear【覆い漂う影の化身】』トイウ名ハ、
『門』ノヨウナ『古代ノ者達』ヤ
『エルフ』達ガ付ケタ通リ名デ、
ソノ名ガ示ス通リ、
姿形ガ常ニ不明瞭デ一定デハナイ。
ソシテ、人類ノ姿ニヨク似テイル、
アルイハ、人類ノ特徴ヲ持ッタ形ヲシテイル。」
「アイツら」の事か…。
そうか…妖精達も
「アイツら」の事はよくわかってないんだ…。
駄菓子屋の店主や天蓋魔境商店街の皆は
「正体不明」
って、そのまんまの呼び方をしてたっけ…。
店主は他にも「始りの人【アダム】の劣化版」とか「食物残渣」って呼び方をしてたっけ……。
「『門』は…その…、僕が『ソレ』に似てるって…?」
「ソウダ。ダガ、ヤツラニ『知性』ハナイ。
自我ヤ意識モナイ。
タダソコニ存在シテイル『ダケ』ノ存在ダ。
生命トシテノ活動モ生殖モナイ。
ソノ代ワリ、僕達ヤ人類ニ対シテ
狂気的デ凶悪ナ、異常ナ執着ヲ持ッテイル。」
同じだ。
「アイツら」は何故か「人間」に固執している。
人間によく似た姿。
人間によく似た声。
人間とよく似たパーツ。
そして、常に人間の傍から離れようとしない。
妖精達に対しても同じような反応をするんだ……。
だから、「門」は僕に警戒をしているわけか…。
******
「僕ノ話デ、モウ察シガ付イタト思ウガ、
『門』ハ“かふう”ノ素振リカラ
アイツラニナイ『知性』ヲ感ジテイル。
ソシテ、“アイツラノ『亜種』カ
『新種』デハナイカ?”ト警戒シテイル。」
「う゛ーーん…確かに今のザナ氏って、
どう見ても『人外』だもんね…。」
「“かふう”。オマエ、自分ノ身体ヲ
変形サセタリデキナイカ?
例エバ、『5、6体ノ人類ガ一塊ノ肉団子ニナッテ、
表面ニ幾ツモノバックリ裂ケタ巨大ナ唇ガアッテ、
ソノ中カラ手ヤ足ガ何本モ
アラヌ方向ニ飛ビ出シテイル姿』トカ。」
「………………いや、無理だよ!!
絶対に、どう考えても!!」
「てか、うぇんうぇん、
やけに描写がリアルじゃね?」
「『門』ガソウ言ッテイル。
過去ニ遭遇シタカ、目撃シタ事ガアルンダロウ。
テカ、“みろりん”。
“かふう”ハ、一体何ガデキルンダ?
『門』ヲ通レルカドウカハ、
“かふう”ニカカッテイルゾ?」
「ん゛んーーー…。
“群衆の中から好みのイケメンを見つけ出す”
とかなら得意そうだけどねー…。」
いつの間にかロウェンの肩に乗っていたみろが、
あぐらに座り直して考え込んでいる。
……いやいやいや、え?
ロウェンなんか、みろに適応してきてない?
あと、これもいつの間になんだけど、
僕なんで「何もできんヤツ認定」されてんの?
僕、結構頑張ってきましたけど?
「あ!じゃあさ、こんなのどうよ!?かふうの『刀』で、
その辺の物適当に斬りまくったうえで、
うぇんさんに殴ってもらうとかは?
『この通り、全然いたくねぇっす( ̄ー ̄)ニヤリ』
的な。」
「トイウワケダ“かふう”、一発殴ラセロ。」
「いやいや、何言ってんの!まだ何も斬ってないし!
ロウェン、ただ僕のこと殴りたいだけでしょ!
何流れで憂さ晴らそうとしてんの!」
ロウェンがあからさまに、「チッ」って態度を取った。
甲冑の下からでも分かるよ!?
今、絶対「チッ」ってやったでしょ!?
「セキュリティめんどいわぁ…。
よぅめ~ん(ロウェン)さぁ、もう面倒だから、
正直に『あ、こいつ人間っす。』って言っちゃったら?
今の見た目『アレ』だけど、
かふう顔だけ黒いやつ剝いで、
素顔出すことできるかさ。さっきやってたし。
『未成年だけど妖精同伴ってことで、
入場おねしゃす(__)』ってさ。」
「無理ダロウナ。余計ニ怪シマレル。
人類トノ交易ガ
今ヨリモ盛ンダッタ頃ナラマダシモ、『今』ハナ…。
何シロ『アノ統治者』ガイル。
アイツガ統治シテイル間ハ
人類ノ出入リハ難シイダロウ。」
ロウェンの「あの統治者」という言葉に
みろが反応した。
「ねえ、そいつって『チェンジリング』って言わない?
あたし達、その『チェンジリング』ってやつを探しに
ここまで来たんだ。
あたしの大切な人を攫って
知らない誰かと入れ替えたクソド畜生なやつ…。
ぜってぇ、ブチのめして踏んでやる。」
陽気に振舞おうと努力していても、
みろの言葉から隠しきれない「殺気」が感じられる。
その「殺気」が、さっきまでのみろとは
全く別人に感じられたせいか
ヨアヒムがびっくりしすぎて硬直してしまっている。
緊張…というか、
怖すぎて固まってしまったみたいだ。
「…『チェンジリング』トイウノハ、
『個別』ノ名前デハナイ。
『生業』ダ。
僕ノ種族ニモイル。
ヤツラハ言ッテミレバ、『奴隷商人』ダ。
下劣極マリナイ、唾棄スベキヤツラダ。
ヤツラノ言イ分ハ
『棄テラレルハズダッタ“命”ヲ救クッテヤッテル』
ソウダガ、ドイツモ種族ノ面汚シドモダ。
虫唾ガ走ル。」
ロウェンは明らかに軽蔑の気持ちを言葉にした。
それは言葉だけじゃなかった。
ロウェンがみろの話を聞いて
「チェンジリング」の話をしているときの言葉に
「不快だ、嫌悪する」という「音」が含まていた。
イルカが特定の「音」で
会話やコミュニケーションが取れるように
感情には特定の「音」が存在している。
周波数なのか…音階と言ったほうがいいのか…。
暗い印象を与える音階が存在するように、
人を感動させる歌い方があるように、
人が、生き物が、
口から出している「声」はただの音じゃなく、
それは「意味のある、音を媒介にして形のない
イメージを伝えるための信号」なんだ。
僕はずっと
「他の人よりも“耳が良くて、鼻が利いた”」から、
それを解っていた。
悪意のある声。
嘲笑。
軽蔑。
罵り。
殺意。
全部違う。
普段の話声だけじゃない。
今自分の名前を言われているのか、
誰かほかの人の話題なのか、
人の物の“名前”はただの肩書やタイトルじゃない。
イントネーションの違いでもない。
“名前”には個別の「音」がある。
僕の名前には、僕個人の。
みろには、みろ個人の
「名前固有の音」が存在している。
その「音階」なのか「周波数」なのかわからない、
けど…、人でもない動物でもない、
生き物ですらない“ナニか”が僕の名前を呼んでいる。
そして、その音に反応してはいけない
“シグナル”がある。
そんな日常を
「あの町」で毎日送っていたから、かな。
「声」か感情や思考を読み取れるようになった。
その「声」から読み取れる
“シグナル”を補完するために、
「心音」や「脈拍」とか
身体の反応を感じるようにもなった。
だから、ロウェンが
「チェンジリング」に対して向けている
感情は本物で、
みろの気持ちに同意してくれていることも分かった。
奴隷商人。
悪いやつら。
どうやら、「チェンジリング」は妖精達の世界では「汚点」や「暗部」といった感じだ。
小さい頃、みろのところへやって来た
一番最初の「人間の苦労を対価として、
幸福をもたらす妖精:ルンペルシュティルツヒェン」。
あいつもおそらく「“チェンジリング”という生業の、
“ルンペルシュティルツヒェン”っていう名前の妖精」って感じなんだろうな。
ということは、二番目の妖精にも本当の名前はが…?
******
妖精の市場、雑踏の中。
ヨアヒムが銀色の片腕を持った男と
親しげに話している。
「“なかざ”、アリガトウ!中ニ入レタ!
本当ニ久シブリダナ、元気ニシテイタカ?」
「ああ、おかげさまで毎日ハッピーだ。
お前が俺を助けてくれて、
おまけに新しい腕まで用立ててくれたおかげさ。
俺の方こそ礼を言うよ、ヨアヒム。」
ヨアヒムがとても嬉しそうにニコニコしている。
この銀の片腕の人間「なかざ」…さん?が
門から出てきてからずっとだ。
よっぽど仲がいい間柄らしい。
それに「久しぶり」って言ってた。
ここに来る前にヨアヒムが言っていた
「昔の友達」の人なのかな?
んん?でも、待てよ。
この人は人間。
ここは妖精の住処。
なんで「人間」の「この人」が
「妖精の住んでる場所」に住んでいるんだ??
それに、ヨアヒムが
「片腕」を用立ててくれたって…?
ノッカーやコボルトは
鉱石やパワーストーンを持ってきてくれたり、
場所を教えてくれたりするだけじゃないのかな…?
「アレカラドウシテル?
どわーふ達ト一緒ニ仕事デキテルノカ?」
「ああ。それもお前のおかげだ。
本当に感謝してもしきれないよ、ヨアヒム。
夢にまで見た世界、夢にまで見た環境、
俺が叶えたくても叶えられなかった
『夢』がここに全て揃ってる!
まさに夢の国さ!……まぁ…一個例外…、
巨大な“異物”を除けば…な。」
「なかざ」という、その男の人は
さっきまで違って急にテンションが下がった。
ヨアヒムと再会を喜び合って、
本当に楽しそうだったのに。
今はすっかりウンザリ…というか、やさぐれている。
「お前はここにあんましいないから
よく知らねえかもだけどよぉ…。
あのデッカイ「城」だよ…「あいつ」…。
俺はよお、あのデッカイ「産廃」が
大っっっ嫌いでよお!!!!
あれさえなけりゃあ、ここは真の「パラダイス」さ!」
「なかざ」さんの態度がどんどん悪くなる。
態度じゃなくても、僕には「わかる」。
どうやら本当に“大っっっ嫌い”らしい…。
その“大っっっ嫌い”な「城」は
僕らが通ってきた門のように煌びやかに輝いていた。
でも、「門」とも違う…
不気味で…気味の悪い輝きだった。
見た目は壮麗で「まさに王宮」といった感じだった。
ギリシャやローマを思わせる妖精?天使?のような
豪華で荘厳な彫刻の数々。
それとは対照的に緻密で精巧模様、
まるで生きているような植物や生物の装飾。
そのどれもが「臭かった」。
生き物や人間の死体を使って飾り立てて、
屍肉で作った屍体人形を並べている。
その全てが呪いと苦しみの叫び、
恨みと悲しみの啜り泣きをしているように見えた。
少なくとも、僕にはそう「見えて」、
そう「聞こえた」。
その「臭い」と「見た目」と「音」が、
不吉で不穏、呪のかかった宝石のように
巨大な城を輝かせていた…。
「……気持ちがわりぃだろ?
あの『ラングウィデア・パレス』は。」
「あぁ……ええ、はい…。その…『なかざ』さん?
どうして、僕達を中に入れてくれたんですか?
あんな、“嘘”まで吐いて。
セキュリティ上の観点から考えたら、
これって完全に不正侵入ですよね?」
「しっ、ザナドゥ!
いいじゃん、この際!入れたんだからさ。
なかでぃも協力してくれたんだから、いいのいいの。
ありっすー、なかでぃ('ω')ノ」
「僕モ助カッタ。
かふうガ全ク役ニ立タナカッタセイデ、
一時ハドウナルカト思ッタ。
ソレニ、アノ最モ優レタ技術者ニ与エラレル
『機巧医霊師【ディアン・ケヒト】』ノ称号ヲ
持ッテイルトイウ、『銀ノ腕ノ仲座』ニ
修理シテモラエルノダカラナ。期待シカナイ。」
「そうだぜぇ、ぼうず。固いことと余計なことは
墓の下に持ってった方が身のためだ。
それから、デッカイの。お前らを入れた理由は、
『お前』が半分だ。『ソイツ』に俺は興味がある。
『中身』のお前が、どうしてこいつを
手に入れたのかも興味があるが、
一番は外身の「鎧』だ。
じっくり見させてもらうぜぇ。……なかでぃ?」
「え、ちょ、ちょ、ちょっっと。
ちょっと待って、待って。え?」
【中身】?だって?
今、この仲座って人、
ロウェンのことを「中身」って言ったのか?
やっぱり、ロウェンの「これ」って、
ロボ的なヤツじゃなくって「身体」だったの?
え……それじゃあ………あれかい……?
僕は……ロウェンの“腕”を……?
マジか………。
気が咎めるなんてもんじゃない…。
誠心誠意、土下座して謝ったって
許されることじゃない。
もうすっかりショックで打ちひしがれて、
なんだかロウェンに本当に後味の悪い
申し訳ない気持ちになっていた僕に気付いたのか、
ロウェンが「気ニスルナ。」と言ってきた。
「え………?『気にするな』……って?」
「ソウ分カリヤスク落チ込ムナトイウ意味ダ。
鎧ハマタ作レバイイ。」
「いや……いやいや……何言ってんの……
だって、君の“腕”は……」
「????僕ノ腕ナガドウシタ?
失ッタノハ『鎧』ノ腕ダゾ?ホラ」
「うぇぇおうぅっっわっ、ビックリしたぁーΣ(゜Д゜)
うぇんさんの顔から『手』が出てきた!!」
さっき戦った時に見た鎧頭部の「あの隙間」だ。
甲冑のバイザーみたいなところから、
ひらひらと手が出ている……。
「え!?どういうこと!?何仕様なの、それ!?」
「うぇんさん、小っちゃいおっさんが
中に住んでんのか(゜Д゜)!?」
「誰ガオッサンヤネン。
ソレニ、何ダ『何仕様』ッテ。
『コレ』ハ、アクマデモ『鎧』デ
僕本人ハ中ニイテ、
コイツヲ操ッテイルダケダ。
中カラコイツヲ操作デキル仕組ミニナッテイル。」
「マジかい!?こいつロボットなん!?」
「まあ、『外の世界風』に言えばそうだな。」
「エ?ソウナノカ?」
「いや、なんでお前が知らねぇんだよ…。
お前、ガーディアンなんだろ?
コイツを武器として申請するとき
どうやったんだよ…。」
「魔導鎧トシテ申請シタ。」
「まぁ…間違っちゃいねえ…かもな?
微妙に違うような気もするけどよぉ…。」
僕は実際に戦ったからわかる。
なるほど。
あの時感じた
「本当にこいつは生き物なのか?」っていう感覚。
無尽蔵の体力、
意思だとか感情だとかがあるようには
全く見えない無機質感。
そして、全く生き物の発する
「音」や「臭い」がしない身体。
全てが腑に落ちた。
でも、まさか「異世界のロボット」だったなんて…。
「それから、ぼうず。
中に入れた理由のもう半分は『お前』だ。
お前、人間だろう?
なんで、そんな姿になっちまったんだ?」
「まぁ、いろいろありまして…。」
「なか氏、気にすんな。
ザナドゥはイケメンが不足してくるとこうなるんだ。」
「人をイケメンを常食している
怪物みたいに言うもんじゃないよ、幼馴染さん。
気にしないでください、仲座さん。
みろは7の倍数と7が付く時間帯に
アホになる娘だから。」
「7777万回ボコすぞ、コラ。」
「いろいろ気になるけどよぉ、
今はとりあえず話先に進めるぞ?
俺が言ってんのは、
『なんで、“普通”の高校生のお前が【障】の能力を使えるんだ?』って意味だよ。
お前、その黒いやつの中身は普通の人間だろ?」
「【障】??お客様、お触りはご遠慮ください!」
みろのボケをスルーして、
僕はじっと仲座さんを見つめた。
「……あなたは、どこまで知っているんですか?」
「……ぼうず、俺をその目で二度と見るな。いいな?
俺の顔見知りにお前によく似た奴がいる。
頭の回転が速ぇ「切れるやつ」でよぉ。
始末に負えねぇ奴だ。
てめぇのその目はそいつを思い出させやがる。
いいか?二度とするな。」
そう言って仲座さんは僕を睨み付けた。
本当に人間かと思うほどに恐ろしい顔で。
「殺してやる」程度の殺意じゃない。
きっと彼の“中”で僕はもうすでに「殺されている」。
あれは人の命を
“殺すため「だけに」殺したことがある人間の音”だ。
動機に一切のブレがない。
心や思考に一切の矛盾や躊躇がない。
「殺人者」の音。
僕は後悔した。
こんな危ないやつに付いて行っちゃいけない。
僕はともかく、みろが危ない。
何とか逃げなきゃ。
仲座さんはそんな僕の心の中を
見透かすしているみたいに、
ニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
「悪い悪い。ついさっき
その『始末に負えないヤツ』と会ったばかりでよ。
ちょっと思い出しちまった。
別にお前らを解体して
材料にしようとは思っていねえよ。
けどよ、
さっきのお前の質問に答えてやるとしたらだ、
『食い過ぎは食中りを起こすぞ?』ってところか?」
彼は知っている。
僕が怪異の能力が使えるようになる
“ナニか”を食べていることを。
そして、それには「リスク」があるということを。
みろには言ってないし、
言うつもりもなかったのに…余計なことを…。
「オイ。揉メ事ハ僕ノ“鎧”ヲ
直シタ後デ存分ニヤッテクレ。
かふう、心配スルナ。
モシ、みろちんニ何カアッタラ
僕ガ全力デ守ル。
片腕ガ無クテモ充分戦エル。」
「いやいや、おいおい。やめろやめろ。
なに揉めてんだ、揉めんな揉めんな。
落ち着かんかね、君達!」
一触即発。
場の空気が重く暗く凍り付く。
「なかざ、オマエ、
スッカリどわーふッポクナッタナ。」
場の空気を換えたのはヨアヒムの言葉だった。
それを聞いて、仲座さんが吹き出して大笑いした。
「なるほど、確かにその通りだ!
俺もここでの生活が長すぎたからな!
これじゃあ、外の世界にはもう一生戻れねえな!
本当にすまねえ!
ドワーフ達は口が悪い。
そして性格はその何倍も悪い。
俺は普段ドワーフ達しかいない
職人街に住んでるからよお、
ついつい『伝染しちまう(うつっちまう)』!!
すまねえなぁ。ていうか、ヨアヒム。
お前なんだよその喋り方、キャラ変えたのか?」
「アノナ、人間ノ言葉、難シイ!俺話セナイ!」
「ああ、そうかそうか。
おい、ぼうず、お嬢ちゃん、“コレ”食え。」
そう言って仲座さんは僕達に
「謎の物体」を差し出した。
緑色の粘液に覆われていて、
固めのゼリーみたいにブリンブリンで、
ぶち模様なのか
ブツブツなのか
よく分からない「もの」が付いていて、
いろんなサイズで
いろんな生き物の“口【くち】”が無数に付いている
“エメラルドグリーン色の謎の物体”。
そいつは
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛、んだらんばらrrrるうぃ
りrrrrrりゃんばらんばらんばらばらばらばらああぁぁああーーんぱらっぱらぱぶり
ゅrrrりゅうりいぇやあぁああぁああん゛ん゛ppっるとぅとぅとぅnnnんぶりゅあ~~~~!!!!!!」
……と叫んでいた。
「さあ、食え。」
「殺すぞ。」
「え?死にたいの?マジに?」
「おいおいおい、最近の若人は物騒だねぃ。
俺が開発した
『喰ったらいろんな生き物の言葉を翻訳してくれる
こんにゃくによく似た万能翻訳生物改良型』だ。」
「最悪な見た目!」
「そして、権利的にもいろいろ問題がありそうだ!」
「もうその辺のメタ的な発言は
危険すぎるからよせ(;´Д`)
いいからはよ食え。いいことあるから。」
仲座さんはそう言って、
僕とみろの口に無理やり「ソイツ」を押し込んだ。
最悪の味と地獄のような臭いが……しない!
清涼感のある爽やかな風味と、さっぱりとした甘み。
「味は青リンゴ味だ。」
「うそつけぇ!!っっでも、不味くない…!!
それが悔しい…!!」
「まさかあのビジュアルで、
フルーツゼリーみたいな味がするなんて…。」
????「おい、二人とも大丈夫か?
まさか、後で腹痛とかになるんじゃないだろうな?
吐き出すなら今だぞ?私なら絶対に食わない。」
????「心配ないって!
今はドワーフ達と生活しているせいで
『こんなんなってる』けど、
仲座は元は優しいイイやつなんだよ!
……まあ、作るものの見た目は
最低だったかもしれないけど……さ。」
「いやいや、見た目って一番大事でしょ。
食い物の大前提でさ。
ろうぃーん、後でちょっと
エチケット袋買ってきてよ、
これきっと後から来るやつだわ…。」
「ドワーフ達と一緒にいるんだったら、
その…『美的感覚』?とかっていうのかな。
そういうのって磨かれるもんじゃないの…?
なんであんなRPGのチュートリアルで戦う
モンスターみたいな見た目に…ん?」
「………ん?」
「そこはよぉ、
『おやおや、大変だ。“二人”の言葉が分かるぞー。』
だろ!?」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
分かる!!
本当に、分かる!!
ロウェンとヨアヒムの言っていることが、
確かに分かる!!
ネタじゃなくって
本当にあらゆる生き物の
言葉がわかるヤツだったんだ!!
「すげぇぜ、なきゃでい!
あれ!?そういえば、ろうぃーん、さっきまでと
話し方がなんか違くない?」
「そういえば…さっきまで自分のこと
『僕』って言ってなかったっけ?」
ロウェン:「なんだそれは?
私は何も言ってないぞ?
このリビングアーマーに
翻訳機能が付いていたから使っただけだ。
人間は不思議な言葉を話すな、と思っていたが。」
「いや、そんな言葉話さないっす。
なんだよその機能…。
それにひむひむもそんな喋り方だったんかい!」
「ヨアヒムだっつてんだろうが!
嗚呼、やっと普通にツッコめる…( ノД`)」
「そうか、ヨアヒムってずっと片言だったんだ…。」
「うっし!これで全員から
ちゃんと話が聞けることになったわけだな。
それじゃあ、行こうか。
我がアジト、西側地区、
職人街:ドワーフエリア【アンドヴァリ】へ。」
******
西側地区、職人街:ドワーフエリア【アンドヴァリ】
仲座さんとその師匠?と
数人のドワーフ達が仕事をしている店
【イーヴァルディの息子たち】
その店の奥、道具や素材、
作りかけのいろいろなものが、
無造作に、乱雑に置かれている工房。
ロウェンが「魔導鎧【リビングアーマー】」を
修理のために、その機能を一旦停止する。
“中”からロウェンが出てくる。
「ロウェン…そんな……僕は…!」
すらりと伸びた手足。
でも、脆さを感じさせない、
決して華奢というわけではない、
引き締まって無駄のない筋肉が付いた四肢。
腹筋…胸板…。
黒過ぎず、薄過ぎず、
健康的で適度に日に焼けた褐色の肌。
切れ長で目元に凛々しさの宿る瞳。
意志の強さを感じさせる、きりっとした鼻筋。
少し波打った髪を頭の後ろで一つ結びにした髪型。
うなじ…。
そして、女性を思わせるような、
柔らかで花の薫りがしそうな、
ぷっくりとした唇。
唇…。
「僕は、君が大好きさー!!!!」
「大変だ、みろ氏!かふうが死んだ!
やっぱりさっきのみどりぃヤツには毒が…!」
「平常運転だー、気にするな。
しかし、ザナ氏よ。
ついに女子にまで反応するようになったのか…。」
「…………え?」
「ああ、そうだ。私は『女』だ。ドワーフ族のな。」
「…………はぁーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?」
「いや、ほれ。わかんじゃん。
どう見ても女子じゃん。つるぺたりんだけど。
“女の子”じゃん。」
「え……だって、それは、
男っぱい、いやいや。大胸筋が…え?」
「ああ、これか。
ドワーフ族の女が戦闘に参戦するときの“習わし”だ。
両乳房を削いで『女』であることを棄ててまでも、
戦いに臨む覚悟と意思があるということを
自らの行動で示すんだ。
それに私の仕事上、『女』だということがバレると
それだけでナメられるからな。
だから、私は自分で自分の乳房を切り落とした。」
「……なんか…ごめんね。」
「何言ってるんだ、気にするな。
私は別に自分がしたことに後悔はしていない。
むしろ、他の男達やドワーフ達よりも、
誰よりも戦士らしくいられていると感じている。
ただ胸を切り落としただけだが、
それだけでも、『自らの体の一部を失ってでも』という
覚悟を身をもって示すことができているのだから。」
「そっか…まあ、それもなんだけど…。
かふうの、ことも…ね。」
「ん?どういうことだ?」
「ロウェンって…女の子なんだ…。」
「ザナ氏って、同性愛者なんだ。」
「なんだそれは?」
「あーーー……何ていうのかな……ほら、
あれじゃん?妖精でも…さ。
大体のマジョリティはーー……さ、
異性同士で恋愛ってするもんじゃん?」
「人間は異性間でしか恋愛ができないのか?」
「………なんですと?」
「人類は不可解で不便な生き方をするものだな…。
ドワーフやエルフ、
ピクシーやフェアリーもそうだが、
我々に異性同姓の違いはない。
性別が異なっていようがいまいが、
愛することに差も違いも何もないものだ。
むしろ、片方しか想えないというのは、
それこそまさに『一方通行』で
思慮が狭い者のすることだ。
みろやかふうにそれは感じられないが、
他の人間はみんなそうなのか?」
「えーーーー……っとぉー?
そのー…、子供とかはどうすんの??
え、まさか攫ってくるの!?」
「ずいぶん踏み込んだ
アダルティなことを聞いてくるな、みーさん。
基本的に同性同士でも交わりは……」
「保健体育の授業ならよそでやってくれ。
ここは放課後の教室じゃねーんだぞ。」
うぇんさんが女の子だったからなのか、
「あれ?もしかして、
妖精の世界は僕にとってパラダイス?」
と思ってるのか、
どっちにしても何かしらのショックを受けて
動けなくなっているかふうを無視して、
妖精界の恋愛事情とか聞き出そうとしていた
あたしをなかでぃがツッコんで止めた。
もうちょいでうぇんさんの初恋とか
聞けたかもしれないのに、おしい!
「ほれ、こっち来て見てみろ。
『こいつ』がこの“鎧”の正体だ。」
なかでぃに言われるまま、
あたしはうぇんさんの“鎧”の頭の部分、
さっきうぇんさんが
ヒラヒラ手を出していたところを覗いてみた。
「すげぇ…なにこれ…。」
中は意外と広くて、
いろいろな文字?みたいなのが彫られていたり、
ピカピカに磨かれた石の板みたいなものとか、
何かよくわかんない“モノ”がいっぱいあった。
なんか…こっち来るときにグルグルした
「青緑色の銅板」みたい。
その石の板みたいなものに
いろんな文字がスマホの画面みたいに
絵とか文字とかが出てる。
「え、これってあたしでも操縦できんの?」
「やめとけ。
今は妖精の言葉がわかるようになってるだけで、
操縦技術が身についているわけじゃねえ。
この工房をブッ壊されちゃかなわねぇ。」
「これでも、ブレイキンには自信あったのに。
おしい!」
「……てめぇは今後一切、絶対に、
“コイツ”に近づくんじゃねえ…。
いいか?よく見てろ。
【コイツ】が『神鉄兵団』の“恐威”だ。」
なかでぃはそう言って、
操縦席みたいなところに手を突っ込んで
なんかやってる。
次の瞬間、“鎧”の右肩?あたりが異様に振動し始めた。
「ほわ!何々!?おっさん、何しやがった!?」
「“自己修復”だ。
“コイツ”は『燃料』を使って、
自分の損傷を治せる。
ま、今はぼうずの“能力”のせいでできねぇが、
本来ならその辺にいる生き物や鉱物、
なんでも取り込んで再生に充てるんだがね。」
うそでしょ…こいつ、
自分で自分の「怪我」治せんの!?
「え、でも、なんで今はできないの?
腕切られただけじゃん。」
「“斬られた”んじゃねえ、
“能力のせいでこの世から完全に消滅した”んだ。
どこに行くのかはわからねえが、
“失ったものを完全に消滅させる”
能力ってが存在する。
この先お前らだどこに行って
何をすんのかは知らねえが、気ぃ付けろ?
この腕みてぇに“斬り口ごと”
この世から消滅しちまったら、
たとえ、神様でも「修復」できねえからな。
そのせいで、今“コイツ”は修復に移れなくって
エラーが出ている状況、ってことだな。」
そう言いながら、なか氏は
また操縦席みたいなところに
手を突っ込んで何かした。
振動が止まった。
でも今度は、鎧自体が光りだした!
「イッツア、パーティータイム!?」
「ミラーボールなねぇよ。
“コイツ”にはな、
3つの“恐威”があんだよ。
1つ目が、さっきの「修復」。
2つ目が「増殖」
3つ目が「進化」だ。
傷口を見てできなさそうなのはわかってたが、
一応念のために「修復」の“コード”を叩いて
実行してみたんだよ。
結果は、御覧の通り。無理だった。
で、こっからは提案だロウェン。
この工房の設備と人間を総動員しても
この傷口の「修理」はできねえ。
断面を見てみろ、『完全に失われてる』。」
あたしとうぇんさんは、
おっさんの言ってる意味が分かんなくって
鎧の右側に回ってみた。
「…これは…。」
「うぇ!?なんじゃこりゃ!?」
本当にそこには「何もなくなっていた」。
言葉の通りだった。
まるでオフ状態の携帯の画面みたいに黒くて
のっぺりしてた、つるぺたの「断面」?になってる。
「これじゃー、どうしようもねぇ。
なんせ、そもそも付ける“場所”がねえと来てる。
俺たちはこの肩から先にあっただろう
“右腕”の断面を見ているが、実際はそうじゃねえ。
『右腕が存在していたはずの“空間”が腕ごと消滅した“場所”』を見てるんだ。
つまり、もう“ココ”には『空間さえも存在しない“場所”』ができちまってるってことだ。」
やべぇ…頭悪すぎて、
あたしじゃ着いていけねえよー……。
かふうぅ…早く正気に戻ってぇ……。
「それじゃあ、“コイツ”は…
もう…片腕のままなのか?」
「そこだよ、『提案』っつーのは。
空間ごと失われたモノを修理することは不可能だ。
けど、“コイツ”の「増殖」と「進化」を使えば、
治すことはできねえが“カスタマイズ”はできるぜ?」
「え…?
『ダブル左腕の魔導鎧【リビングアーマー】』
……的な…?」
「だせぇよ。
どこ増やして、なんの進化させてんだよ。
むしろ退化だわバカやろう。
お嬢ちゃん、一時シャラップで頼むわ。
話し戻すぞ、ロウェン。
まず、“コイツ”の『増殖』ってのは、
『自分の体を分解・分離させて、自分の複製を生み出す』ってやつだ。
そんで『進化』ってのは、
『環境や戦った相手、戦闘を通じて状況に合わせて自分で自分自身を改良する』って意味だ。
つまり、俺が言いてぇのは、
①今よりもサイズダウンするけど、五体満足の新品を“2体”手に入れるか
②かふうと戦ったデータを元に、片腕でも問題ないか、
もしくは、
③失った腕の代わりの新たな装備や武器を“コイツ”自身に生み出させるか
どっちがいいか決めてくれって話だ。」
「………。」
「俺のおススメは、②だな。
“能力”のデータを取り込んでおけば、同じ能力や
近いジャンルのやつの時に対策が取れるし、
何より、素手のボコり合いなんつー
『ガチンコ勝負』以外の戦闘の幅が広がる。
戦闘一辺倒じゃねえ仕様の装備も期待できるしな。
①は、好み次第だな。
今の“コイツ”のサイズが
5メートル強ぐれぇだとすると、
半分になると思ってくれ。
まぁ、それでも五体満足の“コイツ”が
1体余分に手に入るんだ。
1体は本物の鎧みてえに装備した上で、
これまで通りの『操縦』をしつつ、
もう1体を
オートで動かせるようにする、って手もある。
けど、おススメはしねえよ。
縮むってことは、
それだけスペックも下がるってことだからな。
馬力は確実に下がる。
強度も今まで通りとはいかねぇだろうな。」
「機動力にエネルギーを回す、っていうのはどうだ?」
「その手もあるが、
それなら、別に今のスペックを下げずに
アドバンテージを追加できる
『進化』のほうが得は大きいと思うぜ?
進化の内容は、
ほぼほぼ“コイツ”任せのところもあるが、
ある程度乗り手がいじることも可能だ。」
「そうか…。では、修理せずに今の状態のままで、
この工房で新しい装備品を作ってもらう、
っていうのはどうだろう?
そうすればスペックは現状維持で、
アドバンテージも付く。そうだろう?」
ろーたんの提案におっさんは、
ハッキリと「無理だな。」と言った。
「なんだよぅ、おっさん。
直してくれるから、
あたし達を工房に入れてくれたんだろうがよぅ。
直してやれよ、ろーたんこのままじゃ
仕事になんねーぞ?」
「無理なもんは、無理だ。
お前ら、『ここ』がどこか知ってて言ってんのか?
いや、ついさっき来たばっかで、
おまけにさっきの様子じゃあ、ヨアヒムからは
なんも聞いてねぇんだろ?」
「……え?ちょっと、ヨアヒムどういうこと?」
ヨアヒムがちょっと申し訳なさそうに、
困った顔をしている。
「ごめんな…みろ。話す暇がなかった、
俺人間の言葉わかんなかったから、って言っても
言い訳にしかなんないのは分かってる。
俺、入口まで来たら絶対になんとかなる、
仲座に会えればきっとなんとかなるって、思って…。
でも、行き当たりばったりの
ノープランだったなんてことはないんだ!
これは本当!信じてくれ!!」
????
え、ちょっとまって、意味わかんない…。
急にどうしたよ、ヨアヒム。
そんな必死になって…。
何々、ノープランとかってどういうこと?
「お前、まさか…くだらねぇ事で
あぶねえ橋渡るつもりだったんじゃねえよな…?」
「……くだらなくなんてねぇよ…。」
ヨアヒムがさっきよりもっと困った顔してる。
困ってるっていうか、泣きそうだ…なに?どうした?
ヨアヒムが泣きそうな顔のまま
あたしに土下座した。
は?え、待って土下座!?
「なになになに、やめてよちょっと!
なにしてんの、やめなって!」
「頼む!みろ、かふうと二人で“アイツ”を殺して、
『この世界』を壊してくれ!」
「は!?え、待って、あたしの頭じゃちょっと…。」
やばいやばい……急展開過ぎ……。
どうしよう…どうしよう……。
かふうまだ“ブラックアウト中”だし…、
起こそうにもろーたん女の子なのバレてるから、
ASMR(イケボで囁く)とかしても無駄かもな…。
「分かるように説明するから!聞いてくれ!
るいすおじさんは“アイツ”が連れ去ったんだ!
るいすは今も“あそこ”に捕まったままなんだ!
るいすを助け出すことが
『この世界』を壊すことになるんだ!」
ヨアヒムの話は相変わらず急展開過ぎて、
やっぱり何言ってんのか全く分からなかった。
あたしが理解できたこと。
それは、
“奪われたのはあたしだけじゃない”ってこと。
あたしからるいすおじさんを奪ってった“ソイツ”は、
ヨアヒムからも、
そして、仲座さんからも、
たぶん…ロウェンからも、
みんなから、
あたし以外の大勢から
「“何か”を奪い取ってったんだ」ってこと。
「ヨアヒム、詳しく聞かせてよ。」
「おい、お嬢ちゃん。いいか…」
「黙れ、ボコんぞ屑鉄廃品義手野郎。」
あたしはおっさんがなんか言う前に
「喋ったら殺す」感をありったけ込めて、
おもクソメンチをきった。
メンチが効いたのか、「殺す」感が伝わったのか
おっさんは黙ってくれたけど、
ロウェンが心配して声をかけてくれた。
「みろ、仲座が何を言おうとしたのか、
多分私にはわかる。
おそらく、今ヨアヒムが
話そうとしていることを聞いてしまったら、
もう、みろもかふうも、
“ここに来る前の日常”に戻ることはできない、
そういうことを言いたかったんだと思う。
何故なら私も、同じ思いでいる。
だから、みろにはヨアヒムの話を聞いてほしくない。
できれば、このまま『この場所』から帰ってほしい。
みろとは気が合う。
だから…」
「ここは“奴隷市場”なんでしょう?」
「…」
「…」
「…」
誰も何も答えなかった。
無言と沈黙が、
聞きたくなかった耳心地の悪い“真実”を伝えてくる。
「“チェンジリング”が仕切ってんの?」
ヨアヒムが顔を上げて、やっぱり困った顔をして
「どうしよう…」って感じでいる。
ロウェンはちょっと寂しそうな、
悲しそうな顔してる。
おっさんはあたしをじっと見つめているけど、
別に怒ってるわけじゃなさそう。
わかんない。
あたしは勘が鈍いからな。
かふうみたいにわかんない。
「“こどもたち”は、
もともと『食い物』だったんだよ。
そんで『ここ』は
『ここを支配しているヤツ』にとって
“都合のいいことしか起こらねえ”『世界』だ。」
おっさんがあたしの「怒り」に
ガソリンをまくようなことを言いだした。
でも、おかげで頭がすっきりしてきた。
「取り替えられた子供達は妖精の奴隷になって、
一生、生活のお世話をさせられるんじゃないの?」
おっさんは、ダルそうなのを隠しもしないで
「めんどくせぇなあ…」って感じで
頭をガリガリやってる。
金属の義手でガリガリと
頭のイライラを削り取るみたいに。
しばらくガリガリやって、
おっさんは「こっち来い」って感じで
工房の奥の方に頭を動かした。
「くだらねぇが、俺のために、他ならねぇ“友達”が
ここまでお膳立てしてくれたんだ。
その意思は汲んでやるよ。
だから、話してやる。
“こどもたち”が『食い物』ってこと。
ヨアヒムが言ってた“アイツ”や『この世界』のこと。
そんで、おそらくお前らと因縁があるらしい
“チェンジリング”のこと。
俺が知っていることは全部話してやる。」
「最初っから、全部話させるつもりだよ。
話さないっていうんなら、
“ソイツ(鎧)”使って世界各国のアクロバットな踊りを
ダンサブルかつヴァリアブルでマッシブな
コンテンポラリーを
エク〇ペクト・パトロ〇ナムしてやる。」
「………意味は全く分からんが、
とにかくお前ならやりかねんとだけ言っておこう。
立ち話もなんだから、ちょっとこっち来い。
茶も茶菓子もねえが、『お前ら』にとっては、
むしろそのほうが“幸運”だろうがな。
それについても、話してやる。
だから、この空気の中ずっと“再起動中”の
あのぼうずをどうにかしてくれ。」
「ヨアヒム、“あれ”。」
「え?何?」
「石、石。なでもいいから。」
「…みろ…俺は時々みろが一番こえぇよ……。
かふう、ごめんな。」
なんかずっと申し訳なさそうなヨアヒムから
受け取った石を、あたしは完全に機能停止している
ザナ氏に向かってパ〇ルダ〇オンしてやった。
早く起きろよ、相棒。
どうやらあたし達、
「当たり」を引いたっぽいんだからさ。
「運命」ってやつに導かれてるっぽい感じだぜ?
ただ、この時は
その「運命」がどういうものなのかを、
あたしは深く考えていなかったし、
冗談っぽく思っていて、真に受けていなかった。
聞けば聞くほど、
関われば関わるほど、
胸糞が悪くなって、虫唾が走る“真犯人と本当の話”。
なにもしてない
普通の、大勢の人たちを待っていた
「運命」を聞かされるまでは。
そんな「運命」が、あっていいはずがない。
そんなものが
「決まっていること」であっていいはずがない。
あたしは、そんなの、絶対に認めない。
「『ここ(市場)』にいるやつ全員が囚人だ。
誰も『ここ』から出れねぇ。
出てもまた戻る。死んだら、また『繰り返される』。
だから『不完物語【クライン】』っていうんだよ。
その物語を続けるために、
“こどもたち”は燃料にされちまったのさ。」
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